(1)生物学用語。昆虫類および脊椎動物羊膜類の発生過程で形成される胚膜の一つを漿膜chorionという。羊膜と同時に同じひだの外側部分から形成される,中胚葉に裏打ちされた外胚葉の薄い膜。やがて羊膜から独立して胚や他の胚膜を最も外側から包むようになる。爬虫類や鳥類では,後に尿膜と癒合して3胚葉から成る漿尿膜となり,ニワトリ卵の薄皮のように卵殻の下に広がる。その中胚葉部分にはやがて血管網が発達し,胚の呼吸に重要な役割をはたす。大部分の哺乳類では,漿膜はさらに表面に多数の絨毛(じゆうもう)を形成し,その先端で母親の子宮の組織を溶かしながら,内部深くに入り込んで絨毛膜となって胎盤の一部を構成し,胎児と母体の間の物質交換をになうようになる。絨毛膜は生殖腺刺激ホルモンを分泌し,胎児の側から妊娠中の母体の活動を促すが,やがて出産と同時にその役目を終わって,胎児からも母体からも捨てられる。
執筆者:団 まりな(2)医学用語。心膜腔,胸膜腔,腹膜腔の三つを漿膜腔とよび,これらの内面をおおう膜を漿膜tunica serosaという。漿膜性心膜,胸膜,腹膜の三つがそれである。漿膜の表面は,中皮mesotheliumとよばれる1層の単層扁平上皮でおおわれ,滑らかである。漿膜とは,狭義ではこの上皮をさすが,広義にはその下に存する漿膜下組織も含める。漿膜下組織は薄い疎性結合組織からなり,繊維芽細胞のほか自由細胞(リンパ球,単球,組織球など),血管,リンパ管,神経に富み,脂肪組織もみられる。漿膜どうしが2枚合わさった部分を間膜という。間膜では両面が漿膜上皮におおわれ,漿膜下組織がそれに挟まれる。漿膜は体腔の内面をおおい(漿膜の壁側葉という),閉鎖囊を形成する。この囊が漿膜腔であり,少量の漿液を入れて両葉間の摩擦を防いでいる。心膜炎,胸膜炎,腹膜炎の際に浸出液のたまるのは漿膜腔である。
執筆者:藤田 尚男
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昆虫など無脊椎(むせきつい)動物の一部、脊椎動物の爬虫(はちゅう)類、鳥類、哺乳(ほにゅう)類の胚(はい)発生の際、最外側を包む胚膜をいう。漿膜は胚膜の一つである羊膜と共通の起源をもつ。脊椎動物では胚発生の早い時期に、胚体外の中胚葉に裏打ちされている外胚葉がひだをつくり、それが前後左右から伸びて中央で癒合し、胚を二重に包む。このひだの外側の部分が漿膜となり、鳥類、爬虫類では、卵殻膜に接して広がる。漿膜の内側にできた胚膜が羊膜で、羊膜と漿膜の間隙(かんげき)を胚体外体腔(たいこう)といい、ここに尿嚢(にょうのう)が入り込んでくる。この尿嚢の外側の尿膜と漿膜が合して漿尿膜となる。爬虫類、鳥類では、この漿尿膜に多くの血管が入り込み、卵殻を通して外界とガス交換をする場所となる。哺乳類では、漿尿膜が胎児性胎盤となり、子宮の母性胎盤と合して胎盤を形成し、栄養や酸素の摂取、老廃物の排出などにあたる。昆虫では、卵殻に接している胚体外の細胞層が漿膜となる。胚の保護以上の漿膜の役割については明らかでない。
なお、脊椎動物における胸膜、腹膜、心膜など、体腔に面した遊離面を覆った薄膜も漿膜とよぶ。漿膜は表面が滑らかで、少量の透明な液によって潤っているため、漿膜に覆われた器官は他と摩擦をおこすことなく、位置を変えることができる。
[竹内重夫]
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…いずれも迷走神経刺激により亢進する。
[胃壁]
胃壁の断面は,最外層は漿膜で,順次内側に,漿膜下層,固有筋層,粘膜下層,粘膜筋板と重なり,最内層は粘膜層で胃の内腔に面する。(1)漿膜 胃の外壁を覆う漿膜は,小彎で合して小網を形成し,対側の大彎で合して大網を形成する。…
※「漿膜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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