CMI(Computer Managed Instruction)(読み)しーえむあい

日本大百科全書(ニッポニカ) の解説

CMI(Computer Managed Instruction)
しーえむあい

コンピュータによって管理された教授・学習。コンピュータ・マネージド・インストラクションComputer Managed Instructionの略。ヨーロッパの多くの国々では、InstructionのかわりにLearningを用い、CMLと略されて使用される。ここでの「管理」とは、教師あるいは指導者の活動を支援するための諸資料を管理することである。eラーニングの重要な機能の一つであるLMS(Learning Management System、学習管理運営システム)の上位概念として考えることができる。しかし、単に成績処理やいわゆる会計処理等の事務処理にコンピュータを活用することを意味するものではない。「学習者自身の興味・関心・意欲」に応じた学習ができるようなデータの収集・蓄積・加工および検索・活用を図るという考え方に立脚して設計されたシステムである。このシステムを意義あるものにするためには、学習者の進歩の記録、個人差の測定、教授内容の提示順序を決定づける教授タクティックスtacticsや教材系列の調整・選択、学習状態の診断と処方等のデータを活用する必要がある。

[篠原文陽児]

発展の経過

コンピュータは、高速で大量のデータの蓄積と加工・検索が可能である。このため、1940年代の開発当初から、とくに企業内研修機関や軍事等訓練機関および一部の高等教育機関で、コンピュータによるさまざまな教育データ処理が行われていた。主として大学教育を含む学校教育機関で、個に応じた教育を意図した組織的な教育データの収集と蓄積・加工・活用が初めて実践されのは、1968年、アメリカにおいてであった。その後、イギリスのオープン・ユニバーシティでのCMLシステムの構築と導入、アメリカのロサンゼルス地区での広範な活用など、通信回線を介しての大規模なシステムへと発展し、成果をあげた。

 日本では、1969年(昭和44)ころから、文部省(現、文部科学省)特定研究「科学教育」の計画のもとに、長崎大学、京都教育大学、岐阜大学等でシステムが開発され、パーソナルコンピュータ普及とともに、教育情報データの集中管理と活用に発展してきている。しかし、日本の教育環境は、集団教育、一斉指導形態によるものが著しく、個別指導・処方を意図する本来のCMIシステムは多くなかった。

 だが、単なる成績処理や会計事務処理等についてのシステムでは、ともすれば個立化しがちなパソコン等利用者が協力しながら知恵を出しあって働く「協働」(コラボレーション、collaboration)を主眼とするソフトウェアの機能とインターフェースの向上による高度なシステム化とネットワーク化が進んだ。それにより、一般のコンピュータ利用者でも、コラボレーション機能を利用した簡便な問い合わせ機能を活用できるソフトやプログラムが多く存在し、日常の学校や学級経営などに広く活用されている。

[篠原文陽児]

課題

CMIにおいては「学習者の興味・関心・意欲」に即したひとりひとりの児童・生徒の学習の成立を確実にする、柔軟かつ個人情報保護の観点から安全で信頼性ある教育システムの構築が重要である。同時に、機器等については詳しい知識をもたなくとも、教育については高い専門性を有する多くの教師や指導者および教員養成大学の学生が活用できるシステムや機能が求められる。

[篠原文陽児]

『佐藤隆博編著『CMIシステム――教育におけるコンピュータ利用』(1976・コロナ社)』『川島小学校著『新しい教育をめざすCMIの開発』(1980・教育システム普及会)』『平田啓一著『授業に活かす教育工学――コンピュータを評価に活かす』(1988・ぎょうせい)』『今井賢一著『情報ネットワーク社会』(岩波新書)』『堀部政男著『プライバシーと高度情報化社会』(岩波新書)』『F. B. BakerComputer Managed Instruction (1978, Educational Technology Publication, New York)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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