Huntington病

内科学 第10版 「Huntington病」の解説

Huntington病(錐体外路系の変性疾患)

(5)Huntington病
定義・概念
 それ以前にも報告はあったが,1872年のGeorge Huntingtonの報告を契機に疾患単位として確立した疾患である.常染色体優性遺伝形式をとる進行性の中枢神経変性疾患で,おもに中年期に発症し,舞踏運動,認知症,精神障害などを呈する.分類
 前景に立つ運動症状によって,古典型と固縮型(rigid form, Westphal variant)とがある.全体の90%は古典型で,多くは成人発症で舞踏運動を呈する.固縮型は筋強剛(固縮)を呈し,病初期からParkinson病を思わせる例もある.20歳以前の発症例は若年性Huntington病といわれ,全体の約10%を占める.若年性Huntington病の1/3は固縮型を呈し,おもに父親からの遺伝である.
原因・病因
 染色体4番短腕4p16.3に位置するhuntingtin(HTT)遺伝子のCAGリピートの異常伸長が病因となる突然変異である.常染色体性優性遺伝で,ほとんどの症例は突然変異のヘテロ接合体である.まれにホモ接合体の症例もあるが,臨床像はヘテロ接合体と区別はつかない.CAGリピートの異常伸長は,世代間で不安定で,世代を経るごとに,特に父親から遺伝する場合に,より伸長しやすい.またCAGリピート長と発症年齢との間には負の相関がある.このため,発症年齢が世代を経るごとに早くなる表現促進現象が認められる.
疫学
 特定疾患医療受給者証交付件数による単純計算では,有病率は人口10万人あたり0.6人である.民族差が顕著で,欧米人に多く,欧米では人口10万人あたり3~8人で,スウェーデン北部,スコットランドのマリフェルス(Moray Firth),ベネズエラのマラカイボ湖畔など人口10万人あたり100人以上の集積地が知られている.
病理
 線条体の萎縮にて始まり,遅れて大脳皮質,前頭葉・側頭葉の広範な萎縮が進む(図15-6-20).線条体においては小型神経細胞の脱落が著明である.大脳皮質においても神経細胞の変性脱落を認め,正常の層構造が失われる.神経細胞に,異常ハンチンチン蛋白質を含む核内封入体が認められる.病態生理 神経細胞死に至る詳細な分子細胞学的機序は必ずしも十分に解明されているわけではないが,CAGリピートの異常伸長に対応するポリグルタミンストレッチの伸長したハンチンチンの毒性によると考えられている.症状は,病理学的な分布より理解可能で,舞踏運動などの不随意運動は線条体萎縮により,また認知症などは大脳皮質の萎縮による.
臨床症状
 症状があっても,必ずしも自覚症状として訴えるとは限らないが,病初期あるいは,特徴的な不随意運動を呈する前に,性格変化ないし軽度の精神障害といえる状態を呈することが少なくない.臨床像として以下のような症状を呈する.
1)運動症状:
舞踏運動を中心とする不随意運動が典型的で,四肢末端にはじまり全身に及ぶ.固縮型では,筋強剛を呈する(舞踏運動については,【⇨15-8-(2)小舞踏病】を参照).
2)性格変化:
無関心,注意障害,易怒性,易刺激性,強迫神経症様状態などを呈する.
3)うつ状態,不安状態:
自殺することが多いとされる(おおよそ10%).
4)統合失調症様症状:
幻聴妄想などを呈することがある.
5)知的機能障害:
皮質下認知症(痴呆)のタイプを呈する. 臨床評価スケールとしてUHDRS(Unified Huntington’s Disease Rating Scale)がある.検査成績 一般的な検体検査では異常を認めない.
1)画像検査:
①形態画像(CT,MRI):疾患の進行に伴って,線条体特に尾状核の萎縮,遅れて大脳皮質の萎縮,脳室拡大を認める(図15-6-20).②機能画像(SPECT,PET):病初期ないし発症前より線条体の機能低下を認める.
2)遺伝子検査:
huntingtin(HTT)遺伝子のCAGリピートの異常伸長を認める.40回以上では100%発症する.36~39回では不完全浸透を呈する.正常一般はおおかた20回以下である.
診断
 家族歴が確実で,典型的臨床像を呈する場合は,臨床像より診断できる.その他の場合は,他疾患との鑑別診断が必要であり,確定診断に遺伝子診断が必要なことも少なくない.
鑑別診断
 舞踏運動を中心とする不随意運動を呈する疾患があげられる.歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症,脊髄小脳失調症17型,類Huntington病1型,類Huntington病2型,フェリチノパチー,良性遺伝性舞踏病,有棘赤血球舞踏病などの遺伝性疾患,老年性舞踏病などの孤発性疾患,Sydenham舞踏病,妊娠舞踏病,高血糖に伴う舞踏病,SLEに伴う舞踏病などの一過性の疾患がある.また,精神症状に関連して,精神疾患との鑑別が必要なこともある.経過・予後 発症年齢は,40~45歳をピークとし,5歳未満の小児から80歳の高齢まで分布する.経過は緩徐進行性で,経過年数にはかなり幅があるが平均15年前後で死に至る.
治療・予防
 根本的な治療法,予防法は確立していない.対症療法として,舞踏運動に対してハロペリドール(保険適用外)やペルフェナジン(保険適用外)が有効である.欧米ではテトラペナジンが認可されている.わが国でも認可された精神症状に対して,適宜精神科治療薬を処方する.[後藤 順]
■文献
Huntington, G: On chorea. Med Surg Report, 26: 317-321, 1872.The Huntington’s Disease Research Collaborative Group: A novel gene containing a trinucleotide repeat that is expanded and unstable on Huntington’s disease chromosome. Cell, 72: 971-983, 1993.
Huntington Study Group: Unified Huntington’s disease rating scale: reliability and consistency. Mov Dis, 11: 136-142, 1996.Hayden, MR: Huntington’s chorea. Springer-Verlag, NewYork, 1981.Harper, P: Huntington’s Disease. 2nd ed., Saunders, London, 1996.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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