輸尿管(または尿管)を経て送られてきた尿を排出する前に,一時的にためる囊状の器官。ためられた尿は尿道を経て排出される。脊椎動物のうち硬骨魚類の輸尿管は肛門の後方に開くが,その直前でふくらんで膀胱となり,尿を一時貯蔵する。軟骨魚類,両生類,爬虫類および鳥類では,輸尿管が直腸末端の総排出腔の背部に開いている。このうち両生類では総排出腔の腹側がふくらんで膀胱となるが,鳥類には膀胱はない。
硬骨魚類の膀胱は発生的にみて,中腎輸管の末端がふくらんだ中腎由来の中胚葉性であり,脳下垂体ホルモンのプロラクチンは,この部位に作用して水の再吸収を阻止すると同時に電解質を再吸収して,淡水に適応するうえで重要な働きを演じている。両生類などの膀胱は総排出腔から生じた内胚葉性のものである。両生類のカエルでは脳下垂体後葉ホルモンのバソトシンvasotocinが膀胱に働いて水の吸収を促進し,水の体内保持に役だっている。また,副腎皮質ホルモンも膀胱に働いて電解質の再吸収を促進し,血液濃度を維持している。爬虫類と哺乳類の膀胱は一部が中腎輸管の基部であるが,大部分は総排出腔由来で,尿膜膀胱といわれる。したがって,哺乳類の膀胱は内胚葉性で多層上皮からなり,この類の膀胱では水および電解質の再吸収は行われない。
執筆者:小川 瑞穂
膀胱は,ヒトでは骨盤腔の中で恥骨結合の後ろにあり,男性の場合は直腸の前,女性では子宮と腟の前に位置する。容積は日本人の成人で平均470ml,女性は男性よりやや小さい。ただし,個体差が大きく,場合によっては700~800mlも蓄えることができるという。約350mlの尿がたまると尿意が起こる。膀胱が空虚のときには,粘膜に多数のひだが存在するが,充満しているときには内面は平滑である。しかし,膀胱三角と呼ばれる下面の三角形の領域は,内容量の多少にかかわらずつねに平滑である。この膀胱三角の後方の2隅に尿管が開き,前方の頂点にあたる所が内尿道口で,ここから尿道が始まる。膀胱の粘膜は移行上皮でおおわれ,中の尿の量に応じて厚さが変化する。すなわち,中に尿がないときには上皮は7~8層の細胞の重なりを示し厚いが,尿が満ちたときには上皮は扁平になった2~3層の細胞のみになる。筋層は網状に交錯する平滑筋の束からなる。内尿道口の周囲では,これを取りかこむ筋層がとくに発達し,膀胱括約筋と呼ばれる。排尿は,副交感神経の刺激で膀胱壁の筋層が収縮し,膀胱括約筋がゆるむことによって起こる。逆に,交感神経が緊張すると,膀胱壁の平滑筋がゆるみ,膀胱括約筋が収縮して尿が蓄えられる。これら,膀胱の筋肉は自律神経支配なので,随意的に収縮,弛緩ができないが,膀胱括約筋の少し下にある骨格筋からなる尿道括約筋は,体性神経の支配下にあり,随意的にゆるめることができる。
→尿
執筆者:藤田 尚男 膀胱の病気には奇形,炎症,腫瘍,神経因性膀胱,膀胱尿管逆流,外傷,結石,異物などがある。最もよくみられるのは膀胱炎である。急性膀胱炎は細菌などの感染により起こり,抗生物質によって治るが,慢性膀胱炎は治りにくい。膀胱腫瘍の大部は悪性の移行上皮癌で,手術,放射線照射,化学療法,免疫療法が行われる。神経因性膀胱機能障害は膀胱支配神経の障害で,中枢性の痙攣(けいれん)性膀胱,無抑制膀胱,末梢性の弛緩膀胱がある。膀胱尿管逆流は膀胱尿が尿管,腎臓へ逆流する現象で,逆流防止機構の障害で起こる。逆流防止手術を行う。膀胱外傷には開放性と非開放性とがあり,その頻度はしだいに上昇している。そのほか膀胱の奇形,膀胱脱,膀胱と他臓器との交通路形成(膀胱瘻(ぼうこうろう))などが臨床上重要である。
執筆者:小磯 謙吉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
腎臓(じんぞう)から送られる尿の貯蔵の役割を果たす平滑筋性の嚢(のう)状の臓器。膀胱は尿管によって腎臓とつながり、尿道によって体外へつながる。膀胱の形状、大小、壁の厚さは内部の尿量の増減で著しく変化する。成人では空虚なときは圧平された径約3センチメートルの球形で、尿が充満するとほぼ卵形となり、子供ではナシ形となる。膀胱の位置は小骨盤腔(くう)の前部で、恥骨(ちこつ)結合のすぐ後側にあり、長軸は前上方から後下方に傾斜している。その軸の上方から膀胱尖(せん)・膀胱体・膀胱底に分けることができる。
膀胱尖は尿が相当量に達した場合でも恥骨結合の上縁を超えることは少ないが、尿の充満時や子供では上縁の上方まで上昇する。膀胱尖からは結合組織性の索(さく)(正中臍索(さいさく))がへそに向かって前腹壁の後側を上行する。これは胎児時代の尿膜管の遺物である。膀胱体の後方には、男性では直腸、女性では子宮と腟(ちつ)が接し、膀胱の上方表面を覆う漿膜(しょうまく)(腹膜)はそれらの臓器の表面へと反転して連続している。膀胱底の左右後外側部から尿管が膀胱に入る。尿は尿管を通って数秒ごとに膀胱に流れ込み、排尿までそこにたまる。膀胱の壁は内腔を覆う粘膜上皮(移行上皮)と3層の平滑筋層からなり、この筋群の収縮で排尿がおこる。排尿の際には、膀胱と尿道の接合部の周囲に発達した平滑筋性の内膀胱括約筋と横紋筋性の外膀胱括約筋が緩み、排尿を助けている。成人の場合、膀胱内の尿が充満していても、括約筋の働きで排尿しないでいられるが、子供では充満した膀胱をコントロールする力が未発達であるため、夜尿(やにょう)となる。夜尿は、正常でも3~4歳まで続く。
膀胱の内面は、空虚のときは膀胱の収縮のためひだが多い。しかし、膀胱底の内面には頂点を下方に向けた三角形状をしている部分があり、ここはつねに平滑である。この三角形の底辺の両端の位置に(内)尿管口、頂点の部分に(内)尿道口がある。膀胱の容積は成人男子で約600cc、最大容積は800ccであり、女性は男性の6分の5とされる。膀胱内の尿が一定量(約250cc)になると、膀胱壁にある伸展受容器が刺激され、さらに副交感神経系の脊髄(せきずい)膀胱中枢が刺激されて排尿反射がおこる。この反射によって膀胱壁の筋群は収縮し、内膀胱括約筋が弛緩(しかん)され、さらに外膀胱括約筋も意志によって弛緩されて尿が尿道に導かれる。尿道は、男性では前立腺(せん)や陰茎海綿体を貫通して外尿道口に開き、女性では腟の前壁に密接して腟口の前方(腟前庭)から外尿道口に開いている。
[嶋井和世・上見幸司]
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