尿(読み)ニョウ(英語表記)urine

翻訳|urine

デジタル大辞泉 「尿」の意味・読み・例文・類語

にょう【尿】[漢字項目]

常用漢字] [音]ニョウ(ネウ)(呉) [訓]いばり ゆばり
小便。「尿意尿道血尿検尿排尿糞尿ふんにょう放尿泌尿器

にょう〔ネウ〕【尿】

腎臓じんぞうで生成される排泄液はいせつえき。水分中に尿素・塩分などが含まれる。小便。
[類語]小便小水おしっこ

ばり【尿】

《「ゆばり」「いばり」の音変化》小便。
のみしらみ馬の―する枕もと」〈奥の細道

ゆ‐ばり【尿】

ゆまり」の音変化。〈和名抄

ゆ‐まり【尿】

《「ゆ」は湯、「まり」は排泄する意の動詞「ま(放)る」の連用形の名詞化》小便。ゆばり。いばり。
伊弉諾尊いざなぎのみこと乃ち大樹に向かって―まる」〈兼方本神代紀・上〉

しと【尿】

小便。しとと。
「この宮の御―にぬるるは、うれしきわざかな」〈紫式部日記

いばり【尿】

《「ゆばり」の音変化》小便。ばり。ゆまり。

しい【尿】

《「しと」の音変化》小便をいう幼児語。しいしい。

しし【尿】

小便をいう幼児語。しっこ。しい。

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精選版 日本国語大辞典 「尿」の意味・読み・例文・類語

ゆ‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆまり(尿)」の変化した語) =ゆまり(尿)〔十巻本和名抄(934頃)〕
※石山寺本大般涅槃経治承四年点(1180)九「蚊の子の尿(ユハリ)は此の大地を潤ひ洽はしむること能はずといふがごとし」
[語誌](1)上代、大小便を排泄することを「まる」と言い、「くそ(糞)」と区別して、小便の方はあたたかい水であるところから「ゆ(湯)をまる」ということで「ゆまり」と呼んだ。中古には語源が忘れられて「ゆばり」の形が一般化する。なお中古には「しと」の語も用いられており、こちらの方がやや上品な語と意識されていたらしい。
(2)中古中期には「いばり」の形が生じ、さらに中世前期には語頭を脱した「ばり」の形も現われ、語形がゆれている。

ゆ‐まり【尿】

〘名〙 (「ゆ」は湯、「まり」は排泄する意の動詞「まる(放)」の連用形の名詞化) 小便。尿。ゆばり。いばり。
※書紀(720)神代上「乃ち大樹に向ひて(ユマリ)(ま)る〈略〉、此をば愈磨理(ユマリ)と云ふ。音は乃弔反」
[語誌]→「ゆばり(尿)」の語誌

ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり(尿)」の変化したもの)
① 小便。にょう。いばり。また、小便をすること。
※源平盛衰記(14C前)二「医師の云尿(バリ)を飲ま令め、味を以て存否をしらんと云けれ共」
② (小便くさい人の意か) 少年や青年など、若い人をあざけったりののしったりしていう語。青二才。
※浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)野崎村「納める程猶ごふ腹にやし、大まいの銀引負(ひきをい)した其ばりめ」

しい【尿】

〘名〙 (「しと(尿)」の「し」の変化した語)
① 小便をすることをいう幼児語。
※雑俳・末摘花(1776‐1801)初「しいをやる時にさむらいみたといふ」
② 幼児に小便をさせるときに、促す語。
※滑稽本・浮世風呂(1809‐13)二「サア、小便(ざあざあ)しな。シイ(引)」

しし【尿】

[1] 〘感動〙 幼児に小便をさせる時のかけ声。
※俳諧・天満千句(1676)九「ししししし志賀の都は春めきて〈未学〉 細波よする迹の小便〈武仙〉」
[2] 〘名〙 (「しじ」とも) 小便をいう幼児語または女性語。し。しい。しっこ。
※御伽草子・福富長者物語(室町末)「ししにやよだれにや、鬼うばが背中より裾下りにしかけ」

しと【尿】

〘名〙 小便。しとと。
※宇津保(970‐999頃)歳開上「父君にしと多(ふさ)にしかけつ」
[補注]「霊異記‐下」の「仏坐の上に屎矢(くそまり)穢し〈略〉〈類従本訓釈 矢 麻利〉」について、真福寺本では「矢」を「失」とし、「失 糸土」と訓釈をつけている。

い‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり」の変化した語) 小便。ばり。ゆまり。
※石山寺本法華経玄賛平安中期点(950頃)六「有る一分は糞を食ひ溺(イバリ)を飲み」 〔日葡辞書(1603‐04)〕

よ‐ばり【尿】

〘名〙 (「ゆばり(尿)」の変化した語) 小便。
※梵舜本沙石集(1283)八「或時水船の上に立はだかりて、よばりをまりければ」

し【尿】

〘名〙 「しし(尿)」の略。

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改訂新版 世界大百科事典 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿 (にょう)
urine

動物の体液中に含まれる不要物質が,排出器官を通じて水とともに体外に出されるもの。脊椎動物は排出器官として発達した腎臓をもっている。哺乳類では腎臓でつくられた尿は輸尿管を通って膀胱に集められ,間欠的に尿管を通って体外に出される。再吸収や分泌される物質の種類と量は,体液の浸透圧やイオン調節と関連して,おもにホルモン(アルドステロンバソプレシンなど)によって調節され,適当な濃度の尿ができる。海水魚のように体液より高張な環境にすむ動物は比較的濃い尿を,淡水の動物は体液より淡い尿を出す。陸上の動物,とくに鳥類や砂漠のような乾燥地域にすむ哺乳類は腎臓の濃縮機能がよく,体液の数倍~十数倍の濃度の尿を出すことができる。無脊椎動物でも,原腎管(扁形動物,袋形動物),腎管(環形動物,軟体動物),触角腺(甲殻類),マルピーギ管(昆虫類)など各種の排出器官を通じて尿が排出される。尿の主成分である窒素化合物アンモニア,尿素,尿酸などで,タンパク質や核酸の代謝最終生成物である。これらの窒素老廃物の比率は動物の系統によって異なり,また同じ系統群のなかでも,種の生活環境に応じた変化がみられるが,おおざっぱにいって,水生無脊椎動物はアンモニア,哺乳類,両生類,魚類は尿素,鳥類,爬虫類,昆虫類,陸生巻貝類は尿酸が主成分である。

 尿に含まれるにおい成分は,動物間のコミュニケーション手段としても重要な役割を果たしており,とくに哺乳類ではなわばりを示すマークとして使われることが多い。キツネの尿からは10種類以上のにおい物質が発見されており,年齢や性別,地位や生理的状態を伝える機能をもつと考えられている。
排出
執筆者:

血漿成分を原料として腎臓でつくられ,尿路(尿管,膀胱,尿道)を通して体外に排出される液体。俗にいう小便,小水のこと。尿には体内の種々の代謝産物のうち,生体にとって不必要ないわゆる老廃物や過剰物質などが含まれる。生体の内部環境の物質を体外に出す作用は排出と呼ばれ,腎臓がこの機能の主体をなしており,体液(内部環境)をつねに良い条件に恒常的に保つように働いている。

体内組織タンパク質,ヘモグロビン,ミオグロビンの崩壊産物であるウロクロームにより麦わら色を呈する。健康人では1日に尿中に排出されるウロクロームの量は一定であるので,尿の色調は多尿時にはうすく,乏尿時には濃い。熱性疾患など組織タンパク質の崩壊が亢進する際には濃い色調の尿となる。先天性代謝異常症などの病的状態および薬物を摂取した際には,異常に着色した尿がみられることがある。

 健康人の尿には芳香臭があるが,放置すると細菌のウレアーゼの作用により,尿中に含まれる尿素が分解されてアンモニアが生じるため,アンモニア臭がするようになる。種々の代謝異常疾患では,においを発する物質が尿中に排出されるため異臭をはなつようになるが,これは臨床診断に際して有力な手がかりとなる。

 正常尿は排出直後は清澄であるが,放置すると灰白色の沈殿物が見られることがある。これは雲翳(うんえい)nubeculaと呼ばれ,膀胱および尿道上皮から分泌された粘液の凝固したものである。また放置すると(とくに気温の低いときに),煉瓦色~ピンク色の混濁が見られることがある。これは尿酸結晶の沈殿であり,加温またはアルカリ添加で清澄となる。多量の植物食を摂取したときなどには,リン酸塩の結晶沈殿による混濁が見られることがあるが,この沈殿は酢酸の添加により消失する。排尿直後から混濁しているのは病的なことが多く,白血球増多(膿尿),細菌などの混入による。

 尿のpHは5~8の変動幅を示すが,ふつうは弱酸性(pH6)である。健康人の尿の比重は1.010~1.025であるが,飲食物や発汗の状態によって変化し,極端な場合は1.001~1.060の変動幅を示す。血漿浸透圧(280~290mOsm。浸透圧は単位容積中の溶質のモル数で表され,その単位はオスモルOsmであるが,医学ではその1000分の1のミリオスモルmOsmが用いられる)にほぼ等しい比重をもつ尿を等張尿といい,このときの尿の比重は1.010である。臨床医学では1.005以下を低張尿,1.020以上を高張尿としている。尿の濃縮,希釈の度合を示す指標の一つとして,簡便なため尿比重が広く用いられるが,尿中の溶質分子濃度を正確に表示するためには浸透圧濃度を測定すべきである。尿の浸透圧濃度は氷点降下度法により測定される。ふつうのヒトの尿の浸透圧濃度は高張性(290mOsmより高い)である場合が多く,約700mOsmであるが,水,茶,コーヒーなどを飲んだあと1~2時間は低張尿となる。その変動幅は30~1400mOsmである。

 健康成人の1日当りの尿量は1~1.5lであり,排尿回数はふつう4~6回である。排尿回数が増加した場合は頻尿と呼ばれる。1日当りの尿量が2~2.5l以上の場合は多尿といい,一方,1日の尿量が0.4~0.5l以下を乏尿,0.1l以下を無尿と呼ぶ。極度な水制限で脱水状態になっても,生体で代謝が進行するかぎり老廃物や過剰物質の排出が行われる。腎臓の最大尿濃縮力を前述の尿浸透圧濃度で表現すると,1400mOsm(血漿浸透圧の約4.5倍)であるが,ふつうのヒトは1日当り600~700mOsmの浸透圧的に有効な不要物質を排出しなければならないので,最低400~500mlの水の排出が絶対的に必要となる。この尿量を不可避的尿量(強制的尿量)obligatory urine volumeという。前述の乏尿の境界値はこの値と等しく,正常人でも水制限をしたときにはこの程度の尿量となる。一方,異常な乏尿や無尿は,病的な原因で糸球体ろ(濾)過量が減少することによって起こる。また尿路の通過障害や膀胱の機能障害によって排尿できない場合または尿量が少なくなっている状態は尿閉と呼ばれる。

尿のおもな成分は,(1)尿素,(2)ナトリウムイオンNa⁺,(3)カリウムイオンK⁺,(4)塩素イオンCl⁻,(5)アンモニウムイオンNH4⁺である。尿素は体内でのタンパク質・アミノ酸代謝の終末産物であり,成人の尿中には1日約20gが排出される。このほか,尿中には各種の物質が含まれるが,比較的量的に多いものとしては,クレアチニン(約1.7g/日),尿酸(約0.7g/日)などがある。また含硫アミノ酸の代謝の結果生ずる硫酸塩や,リン酸化合物の代謝の結果生ずるリン酸塩もかなり含まれている。Na⁺,K⁺は生体に必要な物質であるが,通常は飲食物などから体内に摂取される量とほぼ等しい量が排出されており,それぞれ摂取量と排出量とのバランスがとれている。NH4⁺は,主にグルタミンからつくられ,尿細管の管腔内に分泌されるが,尿中では大部分がアンモニウム塩として排出されている。アンモニウム塩は中性塩であるが,体内の物質代謝の結果生ずる酸の量がふえると,NH4⁺の排出量も増加する。代謝異常で酸の産生量が増加し,代謝性アシドーシスになると,適応現象として尿細管上皮細胞でのアンモニア産生および管腔への分泌量が増大し,しばしば正常時の10倍以上になることもある。

 尿にはそのほか微量であるが,ウロビリノーゲン,各種ホルモン(特にステロイドホルモン),カテコールアミン代謝産物,酵素(アミラーゼなど)が含まれるが,これらの異常増加の場合,および正常の尿にはごく微量しか含まれない糖,アミノ酸,タンパク質,アセトン体,ビリルビン,さらには赤血球,ヘモグロビン,白血球,細菌などがみられる場合には,臨床医学的に問題となる。

腎臓はネフロンと呼ばれる機能的構造的単位が多数(片側で約100万本)集まった臓器であり,1本のネフロンは糸球体とそれを包む小さい袋(ボーマン囊),それに続く近位尿細管ヘンレ係蹄(けいてい),遠位尿細管(この3部分を合わせて尿細管という)の各部からなる。

(1)糸球体ろ過 腎臓での尿生成は糸球体における血漿のろ過に始まる。糸球体は毛細血管が糸まり状にからまってできており,この糸球体は尿細管につながるボーマン囊で包まれている。糸球体の毛細血管は再び合流して細動脈となって出ていくために,この毛細血管の血圧は一般の組織の毛細血管より著しく高い。一方,この部分は毛細血管であるので血管壁は物質をひじょうに通しやすい。したがって,この部分を血液が流れる間に血漿は血圧の力でろ過されてボーマン囊に出ていく。この過程を糸球体ろ過といい,ろ過されて出てきた液体を原尿という。糸球体の膜は血球はもちろんタンパク質もほとんど通さないため(アルブミンはわずか通る),ろ液(原尿)の組成は血漿からタンパク質を除いた液体と同じである。糸球体ろ過に実際に有効に働く圧力は,糸球体の血圧(約85mmHg)そのものではなく,それからボーマン囊内圧(組織圧とほぼ等しく,約15mmHg)と血管の中に液を吸いこむように働いている血漿の膠質(こうしつ)浸透圧(糸球体では約30mmHg)を差し引いた約40mmHgであり,これを有効ろ過圧という。ろ過はこの有効ろ過圧に比例して起こる。血圧が低下し,腎動脈の血圧が60mmHg以下になると,有効ろ過圧が形成されず糸球体ろ過は止まる。その場合は尿は生成されなくなり,無尿となる。

(2)尿細管における再吸収 原尿はボーマン囊の一端(尿管極)から尿細管の内腔へと流れていくが,その間にろ液中にある生体に必要な物質は大部分が尿細管細胞の輸送機能によって吸収されて血液にもどされる。これを再吸収という。これらの物質の再吸収に随伴して近位尿細管では水H2Oも再吸収される。実際,糸球体ろ過量は1日量に換算すると170lにもなるが,尿として排出される量は1日1.5l程度であり,糸球体ろ過量の99.5%はろ液が尿細管,集合管を通る間に再吸収され,残った物質および分泌された物質(後述)が著しく濃縮されて尿として出されることになる。糸球体での大量のろ過とその後の再吸収の過程は低濃度に存在する排出すべき不要物質を効率よく排出するために必要な機構である。

 ヘンレ係蹄および遠位尿細管では水・電解質輸送が主として行われており,Na⁺を能動的に再吸収している。遠位尿細管,集合管でのNa⁺の再吸収は,体液量の維持,調節に関係しており,アルドステロンと呼ばれる副腎皮質ステロイドホルモンによる調節をうけている。体液量が減少してアルドステロンの分泌が増加すると,遠位細尿管,集合管でのNa⁺の再吸収が増加し,Na⁺の体内保有量がまし,体液量とくに細胞外液量を正常にもどすように働く。
再吸収
(3)尿細管分泌 尿細管はK⁺,水素イオンH⁺,NH4⁺,その他薬物として体内にはいった有機酸や有機塩基を積極的に分泌する機能をもっており,糸球体ろ過に加えて,分泌機構によっても体液中の不要物質が尿中に排出される。

 糸球体を出た細動脈は,再び毛細血管となって尿細管周囲に分布するが,この血管内を流れる血液中に有機酸や有機塩基が存在すると,その物質は間質液を経由して能動的に尿細管の上皮細胞にとりこまれ,管腔内に輸送される。これらの過程を尿細管分泌という。ペニシリン,フェノールレッド,パラアミノ馬尿酸など,ある特殊な分子構造をもった有機酸・有機塩基の分泌は近位尿細管で行われる(このような分泌機序は腎機能検査(たとえばPSP試験)や尿路造影剤の選択に利用されている)。H⁺やNH4⁺の分泌は近位および遠位尿細管で,K⁺の分泌はおもに遠位尿細管および集合管皮質部分で行われる。このようにして腎臓では,最終的に血漿とは異なった組成をもつ尿がつくられる。
腎臓
執筆者:

腎臓から尿管を経て膀胱へ運搬された尿は,一時そこにたまり,やがて尿道から体外へ排出(排尿)されるが,ふだんは尿道の始まりの部分にある内括約筋(膀胱括約筋)と外括約筋(尿道括約筋)が収縮していて尿が漏れないようになっており,外括約筋は随意的にもコントロールすることができる。排尿はまず排尿反射によってひき起こされる。すなわち,膀胱にしだいに尿がたまり,一定量以上に達して膀胱内圧が一定の値以上になると,その刺激(インパルス)が交感神経を経て仙髄の排尿反射中枢へ,そこから副交感神経を経て膀胱に達する反射路が形成され,反射的に膀胱の筋肉(排尿筋)が収縮し内括約筋が弛緩する。一方,この排尿反射は,仙髄より上位の排尿中枢である大脳に尿意として意識され,それまで随意的に収縮していた外括約筋がゆるんで排尿ができるようになるのである。

 したがって,膀胱の排尿を支配している中枢神経から末梢神経に至るいずれかの経路がいろいろな原因で障害をうけると排尿機構に乱れを生ずる(この状態を神経因性膀胱機能障害という)。仙髄の排尿反射中枢より上位の中枢神経障害では,膀胱に尿が充満したとき下肢が痙攣(けいれん)する痙攣性膀胱,不規則な間隔で不随意に排尿が起こる無抑制膀胱が,これより下位の反射路の障害では,尿が膀胱に充満し少しずつあふれ出る弛緩性膀胱が生じ,尿失禁,尿閉などの排尿障害が起こる。そのほか,膀胱,尿道および前立腺の疾患で,尿路の狭窄,閉塞をきたすことがあり,この場合にも,排尿し終わるのに長い時間がかかる遷延性排尿や尿意をもよおしてもなかなか尿のでない苒延性(ぜんえんせい)排尿,尿線細小がみられる。
執筆者:

尿が人体の健康に関する多数の情報を提供することについては,ヒッポクラテスの時代から固く信じられていた。ガレノスやケルススも,尿の性状から病気とその予後を探る基準を述べているし,中世から18世紀まで続いたユロスコピーuroscopyも,尿の色調や清濁の様相,沈渣(ちんさ)などを診断根拠にしている。現代医学の尿検査とは分析方法が著しく異なってはいても,根本的な意味づけの思考方法はヒッポクラテスと共通している。

 だが尿が健康状態の診断に役だつだけでなく,病気の治療にも有用であると見る考えも古くからあった。ヘロドトスによれば,エジプト王フェロスPherōsが盲目になったとき,夫以外の男を知らぬ女性の尿で洗眼すれば治るとの託宣を得た。彼は自分の妃の尿で洗眼したが効果なく,次々に多くの女性で試み,再び視力を得たときに,妃をはじめとする奏効しなかった女をみな焼き殺し,その尿で視力を回復することのできた女性を妃としたという(《歴史》巻二)。また大プリニウスは,思春期に達する前の小児の尿は目に毒を吐きかける蛇プティアスの唾(つば)を解毒し,目や角膜の白い潰瘍や視力低下,瘢痕(はんこん)などに効き,カラスノエンドウの粉と混ぜて火傷に用い,新しい土器でニラと混ぜ1/2の量に煮つめれば耳の化膿症や寄生虫病によいという。また目を尿で温湿布すれば健やかな目を保つことができ,ダチョウの卵の白身に混ぜれば日焼けに著効があり,男性の尿は痛風をやわらげ,古い尿でカキ(貝)の灰を溶けば乳児の発疹や化膿した潰瘍によいという。そのほか火傷,肛門疾患,あかぎれ,サソリの刺し傷にも効くが,とくに乳児の皮膚過敏症には尿はこの上ないローションで,ソーダと混ぜれば頭の傷やふけ,陰部の潰瘍にも効く。犬のかみ傷には直ちに尿をかけ,ヤマアラシのとげの刺し傷も尿で洗い,灰とこねて狂犬や毒蛇のかみ傷にも用いるが,これらには自分の尿が最もよく,毒をもつスコロペンドラ(オオムカデ)にかまれたら頭のてっぺんに自分の尿を1滴たらせば直ちに治るという(《博物誌》28巻)。

 中国でも尿を〈霊泉〉と称し(《神農食経》など),秦の始皇帝が乳児の尿を不老の薬とした話や,打撲傷,おこりなどに尿を用いた例がある。日本にも虫の刺し傷に尿が効くなどの俗信が多い。近代歯科学の祖であるフランスのフォーシャールPierre Fauchard(1678-1761)は歯痛に自分の尿でうがいすることを推奨している。若い男女の尿には性ホルモンが多いので,現代でも自衛隊の便所から尿を集めて男性ホルモンを抽出精製している。一方,日本には木や川やミミズに小便をかけると陰茎がはれるとか,カエルにかけるといぼができる,火事に向かって小便すると腰が抜けるなどの俗信も多くある。いずれも場所柄をわきまえない放尿を戒めたものである。

 日本の男子は立って放尿するが,女子はいつもしゃがむとは限らず,立小便をする地方もあった。上州,信州の在では女子がしゃがんで小便をすると結婚が遅れるとして嫌うといわれ(西沢一鳳《皇都午睡》),南方熊楠は紀州熊野の山中で頭に物を載せた婦女が立小便をするのは職業上やむをえぬが,和服だからできる芸当だと紹介している(《日本及日本人》757号)。しかし,レンブラントに,立って放尿する男女の絵があるように,外国でもあまり事情は変わらない。便所がないベルサイユ宮殿では,ルイ王朝期のフランス人形のような衣装をまとった美女たちも,立ったまま便器を用いることがあった。メキシコの男はしゃがみ,女が立って放尿するとされるが(G. ラムシオ《海陸紀行全集》),古代エジプトでも同様である(ヘロドトス《歴史》巻二)。下水道を造るのにたけていたローマ人は,水洗便所を各地に設けたが,中世から近代にかけてはヨーロッパ諸都市に下水道はなく,市民はつぼや瓶に蓄えた尿を窓から街路に捨てるのを常とした。歩行者は不意に降ってくる尿に不断の注意を払い,男は女を街路の中央よりに歩かせる配慮をするならわしがあり,イギリスの一部では18世紀末まで尿で汚れてもかまわない外套(がいとう)を用いていた。

 排尿しなければ生きていけないが,1度に排尿できず頻尿となることがあり,これを平安朝期には淋病(しわゆばり)といった。当時,腎臓や膀胱の疾患のために尿が出にくいことが〈淋〉であり,現代の淋病とは異なる。沙門道世撰《諸経要集》に,公衆便所を前世に建てた功徳で仏陀はあかがつかず,大小便をせずにすんだとある。《今昔物語集》巻三十にみえる,平定文(平貞文。平中(へいちゆう))が懸想した侍従の君の尿と勘ちがいしたのは,丁子(ちようじ)を煮た汁だったという話があり,芥川竜之介の《好色》や谷崎潤一郎の《少将滋幹(しげもと)の母》に翻案されている。西洋文学では,女・子どもを除くパリ市民26万余人を溺死させたガルガンチュアの放尿が圧巻であろう(F.ラブレー《第一之書ガルガンチュア》)。
スカトロジー →(ふん)
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿
にょう
urine

腎臓(じんぞう)において血液が濾過(ろか)されてつくられる排泄(はいせつ)物質で、同時に排泄される水分とともに溶液状態をなし、小便または小水(しょうすい)ともよばれる。血液中には、身体組織の代謝活動の結果生じた老廃物や有害な化学物質が含まれているが、これらが濾過されて尿となる。したがって、尿中に含まれる成分と血漿(けっしょう)成分とを比較してみると、尿中には、血漿中に存在する身体にとって有用な成分はほとんど排泄されず、逆に不要な成分が高濃度に濃縮されて排泄されている。腎臓の腎小体(毛細血管が集合した糸球体と漏斗(ろうと)状のボーマン嚢(のう)からなる)において最初に血漿から濾過された液体を原尿(糸球体濾液)とよぶ。原尿の組成は血漿からタンパク成分を除いたものに等しく、そのなかには不要な老廃物のみならず、水、ナトリウム、糖などの有用な成分も多量に含まれている。しかし、この原尿がボーマン嚢に続く尿細管・集合管を流れ下る間に有用な成分は再吸収され、逆に不要な成分がさらに分泌されてしだいに濃縮され、最終的な尿となる。尿は腎盂(じんう)(腎盤)から尿管の蠕動(ぜんどう)によって膀胱(ぼうこう)に送られ、貯留する。膀胱内にある程度尿がたまると、膀胱壁が伸展されて尿意を生じ、内膀胱括約筋、外膀胱括約筋が弛緩(しかん)して尿は体外に排泄される。これを排尿という。

[真島英信]

1日の排泄量

健康成人の場合、尿は1日におよそ1500ミリリットル前後排泄されるが、この尿量の変動は主として水の摂取量によって決まる。水を多量に飲めば尿量は増加し、逆に水の摂取量が少なかったり、発汗が多い場合、あるいは下痢によって消化管からの水の喪失が多い場合には尿量は減少する。すなわち、腎臓は水の摂取量あるいは喪失量に応じて尿量を調節し、体内に含まれる水分量のバランスをとっているのである。尿量の最低限界は1日に500ミリリットルであり、これ以上の尿を出さないと老廃物を水溶液として排出しきることができなくなる。尿量が500ミリリットル以下となった場合を乏尿といい、まったく出なくなるものには無尿と尿閉とがあり、緊急に治療することが必要となる。逆に尿量が持続的に3000ミリリットル以上になった場合を多尿といい、尿崩症のときなどに観察される。ただし、健康人でも水を多量に摂取したあとには、尿量が3000ミリリットルを超える場合もある。尿の生成量は夜間の睡眠中は少ないが、日中は増加して夜間の2~4倍となる。尿の比重は通常1.012~1.025であるが、これは尿量とほぼ反比例して増減する。すなわち、尿量の多いときには水が多量に排泄されているため、尿は希薄となって比重は低下するが、尿量が少ないときは水の排泄量も少ないため、尿は濃縮されて比重は大となる。

[真島英信]

尿の成分

尿の主成分は水であり、通常は尿の95%を占める。したがって、尿100ミリリットル中の固形物は平均5グラムであり、そのうち、もっとも多いのは尿素(約2グラム)である。尿素はタンパク質に由来し、食事として摂取したタンパク質、および身体を構成しているタンパク質が分解されて排泄される。つまり、尿素の排泄量はタンパク質の摂取量に大きく左右されるわけである。また、尿中には塩化ナトリウム(食塩)が平均0.6グラム含まれるが、これは食塩の摂取量に影響される。そのほか尿中に含まれる物質のおもなものとしては、硫酸イオン0.2グラム、リン酸イオン0.12グラム、カリウム0.15グラム、クレアチニン0.1グラムのほか、尿酸、アンモニア、カルシウムなどがあげられる。また、微量ではあるが、性ホルモンやビタミン類、ケトン体なども排泄される。しかし、正常な尿においては、糖やタンパク質はまったく、あるいは極微量しか検出されない。尿中に糖が排泄される場合を糖尿といい、糖尿病のときによくみられる。また、タンパク質が排泄される場合をタンパク尿といい、急性腎炎や慢性腎炎にかかって糸球体・尿細管が障害される結果出現するものである。尿の水素イオン濃度(pH)は通常は5.0~7.0の範囲(平均6.0)であるが、健康者でも食事の内容や身体の状態などによってこの値は変化する。なお、新鮮な尿は弱酸性であるが、放置すると尿素が分解されてアンモニアを生じ、アルカリ性に変化する。

[真島英信]

尿の色

健康な人の尿は透明であり、色は無色ないし淡黄色である。この色の基になっているのはウロクロムurochromeとよばれる色素であるが、その起源はよくわかっていない。尿の色は、尿量が少ないときは濃く、尿量が多くなるにつれて無色に近づく。尿の透明さが失われて混濁したものを混濁尿といい、次のようなものがある。すなわち、尿路(尿道・膀胱・腎盂など)の炎症によって、そこから膿(のう)が尿中に混じる場合(膿尿)、塩類が不溶解のまま尿中に排泄される場合(塩類尿)、尿路とリンパ管との間になんらかの原因で交通が生じ、尿中にリンパが混じる場合(乳糜(にゅうび)尿)などである。また、尿中に血液が混じる場合を血尿という。新鮮な出血であれば尿は鮮紅色、出血後時間が経過している場合は褐色調となる。血尿は腎臓や尿路の炎症、腫瘍(しゅよう)、あるいは結石などによって出現することが多いが、健康な人でも、きわめて激しい運動のあとには血尿が認められることがある。胆管の閉塞(へいそく)や肝炎などでは尿中に直接ビリルビンが排泄されて尿は黄色に着色する。この尿の黄変は皮膚の黄変に先行する黄疸(おうだん)の先駆症状である。

[真島英信]

異常尿

病気に気づく最初の症状となることが多い。重要なものにタンパク尿と糖尿があり、いずれも検尿して発見される。一般に気づきやすいのは、混濁、色調、臭気の異常である。混濁尿で重要なのは、血液の混じった血尿、膿のために黄白色を呈する膿尿である。このほか、牛乳状を呈する乳糜尿や、プディングのように固まる線維素尿(いずれもフィラリアの寄生が原因)をはじめ、精液もしくは前立腺(せん)液が混じって白濁する精液尿、糞便(ふんべん)が混じる糞尿や、腸内ガスが尿とともに出て排尿時に異様な音を発する気尿(ともに膀胱腸瘻(ろう)による)などがある。新鮮な健康尿は透明であるが、放置すると濁ってくる。食物などの関係で尿がアルカリ性になると、炭酸塩やリン酸塩が析出して放尿時にすでに混濁を認める。また、冷たい尿器に排尿すると、尿酸塩が析出してれんが色に濁る。こうした塩類尿は一過性であり、心配はない。

 尿は全体として清透であるが、その中に糸屑(いとくず)のようなもの(尿糸)が浮遊することがある(慢性尿道炎)。色調の異常としては血尿が重要であるが、その色はつねに鮮紅色を呈するとは限らない。腎出血などではやや黒みを帯びていることもある。血尿を思わせる外観を呈する血色素尿(中毒や寒冷による)やメラニン尿のほか、薬剤や食物の色素によるものもある。また、黄疸のときには胆汁色素のため緑褐色になり、尿器ごと振ると黄褐色の泡を生ずる。臭気の異常は比較的少ないが、慢性膀胱炎、とくに残留尿のある前立腺肥大症では悪臭がひどくなることがある。また、糖尿病ではアセトンの存在によって尿が発酵して果実臭を発することがあり、かつてはくみ取り従事者に家族内に患者のいることを指摘されることもあった。なお、妊娠尿の動物試験による早期妊娠診断法も古くから行われてきた。

[加藤暎一]

動物の尿

動物においても、排出器官により体液から濾過され、集められて体外に排出される溶液状態をなすものを尿という。脊椎(せきつい)動物の尿は腎臓でつくられる。淡水産の硬骨魚類は血液よりも低張の尿を多量に排出する。海産魚は血液と等張の尿を少量排出するとともに、えらにある特別な細胞(塩類細胞)から塩類を積極的に排出して体液の浸透圧を海水よりも低く保っている。陸生脊椎動物の腎臓では、マルピーギ小体と細尿管で尿が生成される。マルピーギ小体では糸球体の中の血液から血球と大部分のタンパク質を除いた成分がボーマン嚢へ濾(こ)し取られ、原尿となる。原尿が細尿管を流れる間に、水分、塩類、ブドウ糖などの有用成分が毛細血管へ再吸収される。これに対して尿素、尿酸などの老廃物はほとんど再吸収されないので、血液成分中の老廃物だけがきわめて濃縮された尿となる。

[川島誠一郎]

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百科事典マイペディア 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿【にょう】

排出器官を通じて水分とともに体外に排出される体液中の不要物質。脊椎動物では腎臓でつくられる。代謝終産物(特に尿素などの窒素化合物),無機成分としてはナトリウム,カリウム,カルシウム,塩素,リン酸,硫酸の各イオンなどを含む。健康な成人の1日の尿量は平均して男1.5l,女1.2l。正常では帯黄色透明で弱酸性(pH5.5〜6)。病的状態ではブドウ糖,タンパク質など種々の成分が出現し,尿検査の対象となる。なお尿は不要成分の排出とともに,体液の浸透圧,pH保持に働くとともに,マーキングなど動物間のコミュニケーションの手段としても役立つ。一般に淡水産動物は低張で多量,陸生動物は高張で少量の尿を排出し,乾燥地帯にすむものにそれが著しい。含まれる窒素代謝終産物は,主として水生無脊椎動物でアンモニア,昆虫,陸生貝類,爬虫(はちゅう)類,鳥類で尿酸,魚類,両生類,哺乳(ほにゅう)類で尿素など。→排出器官
→関連項目排出

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「尿」の意味・わかりやすい解説

尿
にょう
urine

腎臓でつくられ,尿道から排出される液体。血液が腎臓の糸球体を通過しているうちにろ過され,さらに尿細管を流れているうちに,身体に必要な糖,水分,電解質,ある種の塩類などは再吸収される。残りの有毒,不要なものが尿となる。このろ液の量は1日に 100l以上もあるから,正常人の1日の尿量1l強からみると,ろ液の大部分は再吸収されていることになる。尿は尿細管に次いで集合管,腎杯,腎盂を経て,袋状の膀胱に運ばれ,平均して 0.2l前後になると,尿意が働き,排尿される。

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栄養・生化学辞典 「尿」の解説

尿

 血漿成分が腎臓でろ過されて,生体が必要とする物質を再吸収したあと,排泄される液体.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内の尿の言及

【腎臓】より

… 外形も動物により異なり,一般には左右1対であるが,軟骨魚類や硬骨魚類のように左右が融合したり,鳥類のように前・中・後葉と3葉に分葉したり,哺乳類の腎臓でも普通にみられるソラマメ型から多くの小腎からなる葉状腎をもつものまで多様である(図3)。 腎臓は多数の腎単位,すなわちネフロンnephronの集合したもので,腎単位は腎小体(ラテン名corpusculum renis,英名renal corpuscle)と尿細管(ラテン名tubulus renalis,英名renal tubule)とからなり,排出機能を営む一つの構造単位である。腎動脈血の供給を受けている糸球体とそれを包むようにしてボーマン囊Bowman’s capsuleがあり,この両者をいっしょにして腎小体という。…

※「尿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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