宇宙からくるX線を観測し、天体を研究する天文学の一分野。宇宙からくるX線は大気に吸収されて地上まで到達できない。したがって、X線を観測するためには、観測装置を大気圏外域にあげなければならない。1962年、アメリカのジャコーニたちは、ロケットにX線検出器を載せて天空を走査したところ、太陽以外の強いX線源を発見した。その後、ロケット、気球、人工衛星によって、宇宙にある種々の天体からのX線が観測された。こうして、太陽だけでなく(太陽X線は1948年に発見)、あらゆる種類の天体がX線で観測され、X線天文学という新分野が開けた。
X線天文学によって、変動の激しい高エネルギー現象や、光では見えない部分の構造が見られるようになり、光や電波ではわからなかった宇宙像が展開された。また中性子星やブラック・ホールを伴った近接連星などの天体はX線天文学によって登場し、活動銀河や銀河団もそれらの高エネルギー領域から出るX線の観測結果によって進展し、従来の天文学は大きく書き換えられてきた。
X線天文学の対象は、まずX線を強く出す特異な天体であった。これらは中性子星やブラック・ホールを伴った天体で、われわれの銀河系には300個ほどが知られている。これらの天体からは波長が数オングストロームのX線がもっとも強く放射されており、その観測には、これまで普通、薄膜の窓をもつガス封入式X線検出器が用いられてきた。また、個々のX線源を区別して観測するために、X線検出器の前に、視野を制限する各種のコリメーターが置かれる。
一方、普通の星や、たとえば活動銀河のように本来強いX線を放射していても距離が遠いためにX線が弱く、雑音に埋もれて検出が困難な天体の場合は、反射方式のX線ミラー望遠鏡がX線検出器の前に置かれる。これによって雑音を少なくして弱いX線源までを観測するだけでなく、広がったX線源の像やスペクトル分析も可能になった。また、焦点面検出器は面積の小さい薄膜をもつ二次元撮像ガス比例計数管、固体撮像素子(CCDなど)、入射窓をもたないチャネルプレートなどが用いられ、X線ミラーの反射効率をあわせ0.1~10キロ電子ボルト(keV)のX線が観測の対象とされる。なお、X線ミラーでは波長が短いX線(1オングストローム以下)になると反射の効率が悪くなるため、多層膜のX線ミラーなどの開発がなされている。
X線天文学は今日あらゆる種類の天体を対象としている。このため探索と発見の時代から発展し、X線による精密な観測に基づく星の進化と終末のシナリオや、光や電波では見えない遠い宇宙の構造の解明などが、今日のX線天文学では期待されている。なお近年では、2000年(平成12)に日本人研究者グループが、NASA(ナサ)(アメリカ航空宇宙局)のX線天文衛星「チャンドラ」を用いた観測で「中質量ブラックホール」を発見したことや、2007年に京都大学、愛媛大学、NASAの国際共同チームが、日本のX線天文衛星「すざく」を用いた観測で、大量の物資に埋もれて見逃されていた新しいタイプのブラック・ホールを発見したなどの成果がある。
[松岡 勝]
『小山勝二著『X線で探る宇宙』(1992・培風館)』▽『北本俊二著『ポピュラー・サイエンス X線でさぐるブラックホール――X線天文学入門』(1998・裳華房)』▽『家正則監修『21世紀の宇宙観測』(2002・誠文堂新光社)』
X線天文学は1962-63年,アメリカのロッシB.Rossi,ジャコーニR.Giacconi,ガースキーH.Gursky,パオリーニF.Paoliniが観測ロケットに小さなガイガーカウンターをのせて大気圏外から太陽系外の遠い天体からくるX線をとらえたことに始まる。その後の20年間に急速な進展を見せて,光,電波の天文学に続いて天文学の大きな流れに成長した。
今日では次に述べる,あらゆる天体の階層にX線源があることが知られ,X線放射は天体のさまざまなスケールに共通した激しい活動の表現かと考えられる。それは,(1)われわれの銀河系(天の川として見える)に所属する星,星雲,星間空間のガスなど,(2)われわれの銀河系の外にあるいわゆる活動する銀河(電波銀河,セイファート銀河,BL LAC天体,クエーサーなど),(3)銀河団,超銀河団などである。さらに天空に一様に広がって輝いているX線の源は,いまのところ遠いX線天体の無数の集合なのか,銀河団,超銀河団の間の空間に瀰漫(びまん)する熱いプラズマなのかわかっていない。これは全宇宙が永遠に膨張していくのか,あるいは宇宙全体の質量が再び収縮してくるに足るほど十分に大きいのかという宇宙論にかかわる問題である。
われわれの銀河系の中にある明るいX線星は,中性子星,ブラックホールなど高密度星と恒星とがつくっている近接連星と考えられるようになっている。また,超新星の残した星雲のほとんどはX線源であり,恒星もまた弱いX線源である。星間空間の熱いプラズマもX線で調べられるようになっている。
1970年末,初めてX線天文専門の人工衛星ウフルUHURU(アメリカ)が打ち上げられて以来,70年代にはSAS-3(アメリカ),エアリエルAriel-5(イギリス)などを含む5~6個の小型天文衛星が観測し,70年代末にはHEAO-1,HEAO-2(アインシュタイン衛星と呼ばれる)2個の重量2~3tの大型衛星が働いた。83年初頭に観測を続けているのは,日本の宇宙科学研究所による〈はくちょう〉〈てんま〉の2個のX線天文衛星だけである。80年代にはヨーロッパのEXOSA,西ドイツのROSAT,日本のASTRO-C(〈ぎんが〉,1987年2月打上げ)がこれに加わることになる。1997年末現在,世界中のX線天文学者が使っている人工衛星によるX線天文台はドイツのROSAT(1990年打上げ),日本の〈あすか〉(1993年打上げ)である。最近になってアメリカのXTE,イタリアのSAXがこれに加わっている。
執筆者:小田 稔
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