翻訳|binary star
二つの恒星が万有引力で互いに引き合って、共通重心の周りを軌道運動しているものをいう。また、三つ以上の恒星が軌道運動しているものをそれぞれ星の個数に応じて三重連星、四重連星などとよび、一般に多重連星という。連星において、互いの星が相手の星の大気や外層の構造、内部構造や進化に影響を与えるほど接近した連星を近接連星といい、単に万有引力で結び付いているだけでそれぞれの星は単独の星と違わない離れた連星を遠隔連星とよぶ。また、連星は見え方の違いによって実視連星、分光連星、食連星などに分けられる。概して、実視連星は遠隔連星、分光連星・食連星は近接連星といえる。また1980年代以降、高角度分解能干渉計による恒星の観測が進み、これまで分離がむずかしかった連星も分離できるようになり多数の連星が発見されている。
すべての恒星のなかで、連星(多重連星を含む)は意外に多く存在しており、たとえば1等星については65%がなんらかの連星であり、また太陽から17光年までの星では少なくとも63%が連星である。大まかにいって60%以上の星が連星であるといってよい。相手の星の進化に影響を与える近接連星の頻度はこれより少ないが、特異な天体のなかには近接連星であることが原因となっているものも多い。たとえば、金属の線スペクトルが異常に強いA型金属線星(化学特異星)、二つの星が本当にくっつきあって公転しているおおぐま座W星型の接触連星、太陽活動を桁(けた)違いに大きくした活動を示すりょうけん座RS星型の連星、突然数万倍も明るくなる新星や頻繁に増光を繰り返すふたご座U星型の矮新星(わいしんせい)などの激変星、公転周期わずか5分の白色矮星どうしの連星、強いX線を放射するX線連星、一方の星がパルサー(中性子星)で相手の星も白色矮星か中性子星の連星パルサー、光速の4分の1という速度でガスを双極的に噴出しているSS433、ブラック・ホール連星、連星内の白色矮星が超新星爆発するⅠa型超新星など、単独の星ではけっしておきない現象が近接連星ではおこっている。観測的には連星を構成する二つの星のうち、光度の明るいほうを主星、暗いほうを伴星とよぶが、質量がわかっているときや連星の理論的研究の場合などでは質量の大きいほうを主星、小さいほうを伴星ということがある。
[山崎篤磨]
実視連星とは、望遠鏡で見たときに2星が分離して見える連星のことで、両星が共通重心の周りを公転するため、時間とともに星の位置が変化する。公転周期は短くて数年、長いものは数百年以上に及ぶ。連星の軌道と連星までの距離がわかれば、ケプラーの第三法則を使って、軌道長半径と公転周期より恒星の質量を求めることができる。これは恒星の質量を直接決めることのできる唯一の方法である。たとえばシリウスは8.4等の白色矮星と実視連星をなしており、公転周期50.05年で共通重心の周りを回っている。軌道の解析からシリウスの質量は太陽の2.1倍、白色矮星は太陽の1.03倍とわかる。公転周期が長すぎてこれまで見かけの位置がほとんど動いていないものでも、両星が同じ固有運動を示すものは連星と考えてよい。たとえば太陽系にもっとも近い恒星ケンタウルス座プロキシマ星(プロキシマ・ケンタウリ)とα(アルファ)星は公転周期40万年以上の連星と考えられている。
[山崎篤磨]
分光連星とは、軌道運動による視線速度の変化のためスペクトル線の位置がドップラー効果により周期的に動くことによって連星とわかるものをいう。1889年にピッカリングは実視連星ミザールの主星がまた分光連星でもあることをみいだしたが、これが分光連星の最初の発見であった。分光連星の公転周期は1日以下から10年以上と幅広く分布する。大部分が主星のスペクトルしか見えていない。両方の星のスペクトルが見えているものについては、別の方法で公転軌道面の傾きがわかれば、連星の軌道や質量を知ることができる。たとえばスピカは公転周期4.01日の分光連星であり、両方のスペクトルが見えている。軌道の解析により両星の質量は太陽の11倍と7倍とわかる。
[山崎篤磨]
連星の2星が共通重心の周りを回るとき、ちょうど地球から見て相手の星を隠したり相手の星から隠されたりして、連星全体がその間暗くなって見えることがある。このような連星を食連星という。食連星と分光連星の間には本質的な違いはなく、ただ発見される観測手段が違うだけにすぎない。最初に発見された食連星はアルゴルで、1782年、グドリックJohn Goodricke(1764―1786)による。食連星は、変光のようすから公転軌道面の傾きやそれぞれの星の相対的な大きさや光度などがわかる。食連星のほとんどは分光連星でもあるので、それぞれの情報をあわせると連星の性質を詳しく調べることができる。
[山崎篤磨]
多重連星としてはふたご座のα星(カストル)が有名である。カストルは二つの2等星が周期420~500年で軌道長半径6.3秒角の実視連星をなしており、そこから角度で73秒離れたところに9等のフレア星(不規則に閃光(せんこう)的に明るくなる星)が回っている。この三つの星はそれぞれが分光連星や食連星であり、総計六つの星からなる六重連星である。三つ以上の星が安定した多重連星をつくるには、近接した星の対が順次連星を構成していく必要があると考えられている。
[山崎篤磨]
光赤外における干渉法には、スペックル法や光赤外干渉法がある。地上観測では、地球大気が揺らぐ時間より長い時間観測すると大気のゆらぎによって天体の像はぼやけてしまうが、大気が揺らぐ時間より短い時間で天体の像を多数撮影し統計処理を行うと、大気ゆらぎの影響を受けない正しい像を再現することができる。これをスペックル法という。一方、望遠鏡の角分解能は、光の波長を望遠鏡の口径で割った程度の大きさである。高角分解能を得るには望遠鏡の口径を大きくする必要がある。そこで、離れた二つ以上の望遠鏡で同一の天体を観測し位相をあわせると、あたかも一つの大口径望遠鏡で観測したことと同じようになる。つまり各望遠鏡の伝搬路長を精密にあわせ混合干渉させて干渉縞(じま)をつくりそれを解析すると、もとの天体の高角分解された像を得ることができる。これを光赤外干渉法という。このようなスペックル法や光赤外干渉法により、従来の実視連星観測より飛躍的に角度分解能を高めた連星の観測が行われている。連星の二つの星はそれぞれ星像が分解されて観測されるので、両星の角距離、方向、光度差が求められる。さらに分光連星であれば視線速度より2星の質量が求められる。
[山崎篤磨]
『ジャヤント・V・ナーリカー著、中村孔一訳『重力――宇宙を支配する力の謎』(1986・日経サイエンス社)』▽『読売新聞日曜版編集部著『宇宙はこうなっている――宇宙船の旅・太陽系から深宇宙まで』(1988・徳間書店)』▽『北村正利著『連星 測光連星論』(1992・ごとう書房)』▽『横尾武夫編『新・宇宙を解く――現代天文学演習』(1993・恒星社厚生閣)』▽『J・M・アンソニー・ダンビーほか著、山本菊男訳『宇宙物理学シミュレーション』(1996・海文堂出版)』▽『粟野諭美・田島由紀子・田鍋和仁・乗本祐慈・福江純著『天空からの虹色の便り――宇宙スペクトル博物館 可視光編』(2001・裳華房)』▽『福江純著『「見えない宇宙」の歩き方――ブラックホールからニュートリノまで』(PHP新書)』
2個の恒星が互いに万有引力を及ぼし合い,共通重心のまわりを軌道運動しているものを連星という。ふつう,明るいほうの星を主星,暗いほうの星を伴星と呼んでいる。恒星のなかで連星をなすものは多く,例えば太陽から17光年以内の空間には太陽も含めて60個の恒星が知られているが,約半数の28個が連星または多重連星の一員である。また新星型変光星やX線星などの活動的な恒星は,そのほとんどが連星であると考えられている。
連星における軌道運動はケプラーの法則に従っている。その第3法則はニュートン力学によれば,両星の質量,共通重心のまわりの両星の軌道長半径,公転周期の間に一定の関係を与える。したがって,公転周期と両星の軌道長半径がわかれば,両星の質量が得られるが,これは恒星の質量を直接に決めることのできる唯一の方法である。
連星が望遠鏡などによって2個の恒星に分離して見え,それらの軌道運動のありさまを直接に確認できる場合,これを実視連星という(図1)。実視連星は一般に軌道長半径が大きく,公転周期は数十年以上のものがほとんどである。実視連星では,見かけの軌道のゆがみから軌道面の視線方向に対する傾斜角が決まるので,他の手段により実視連星までの距離がわかれば,両星の離角を軌道長半径の実距離に換算でき,両星の質量が導ける。
一方,両星が接近していて2個の恒星に分離して見えなくても,連星として確認できる場合が少なくない。一つは,連星の軌道傾斜角が比較的大きく,軌道運動による視線速度の変化に伴う恒星のスペクトル吸収線の波長の周期的変動が検出される場合で,これを分光連星(図2)という。もう一つは,軌道傾斜角が90°に近く,両星が軌道運動しながら互いに相手を隠し合うことによって,周期的に減光が観測されるもので,これを食連星または食変光星という。
分光連星では,両星の視線速度変化が観測されている場合,他の手段により軌道傾斜角がわかれば,両星の軌道運動の実速度が得られ,これと軌道長半径との関係を用いて,両星の質量が導ける。軌道傾斜角が不明のときは,質量の下限値と質量比が決まる。主星の視線速度変化しか観測されない場合は,両星の質量と軌道傾斜角の関係式を一つ与えるにすぎない。
食連星では,変光のようすから軌道傾斜角や両星間の距離を単位とした両星の半径,両星の光度比などがわかる。食連星のほとんどは同時に分光連星としても観測されるので,両者の情報を組み合わせることによって,恒星の物理的性質を詳しく調べることができる。
食連星も分光連星も公転周期は数日以下の短いものが多く,半日程度のものも珍しくないが,他方,数十年に及ぶ長いものもある。公転周期が短く,相手の星を潮汐力によってゆがめるほどに両星が接近している連星を近接連星という。
なお,3個以上の恒星が軌道運動しているものをその個数に応じて三重連星,四重連星…,または一般に多重連星と呼んでいる。例えば,ふたご座のカストルは六重連星である。
→近接連星 →重星 →食変光星
執筆者:岡崎 彰
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