住宅産業(読み)じゅうたくさんぎょう

改訂新版 世界大百科事典 「住宅産業」の意味・わかりやすい解説

住宅産業 (じゅうたくさんぎょう)

狭義には住宅そのものの建築,生産,販売にたずさわる産業をいい,広義には住宅関連産業,すなわち宅地開発供給業,住宅建築材料産業,住宅設備業,住宅金融業などを含める。今日,住宅産業は日本経済のなかで重要な地位を占める巨大産業である。建築の分野に限定しても住宅産業の市場規模は14兆円(1982年度)に達しており,関連分野を含めればその規模はさらに大きくなる。日本においては,住宅の生産と販売は,従来大工の棟梁,あるいは比較的零細な工務店が鳶職,屋根職,建具工,ガラス工その他の専門的技能者を下職(したしよく)として配下に組織するという生業的な形で行われていた。1960年代以降は,大手企業による建売住宅マンションの供給が住宅建設において重要な役割を果たすようになっており,業界構造が変化してきている。

 住宅産業の動向を端的に示すものとして新設住宅着工戸数がある(〈住宅統計〉の項参照)。その推移をみると,高度成長期には新設住宅着工戸数は大幅に増加した。(1)世帯数に比した住宅ストックの不足,(2)世帯数の急増,(3)所得水準の向上,等を背景に住宅に対する大量の需要が存在していたからである。1955年には26万戸にすぎなかった新設住宅着工戸数は毎年増加を続け,68年には120万戸と100万戸の大台に乗り,73年には191万戸に達した。しかし,73年の第1次石油危機を境に状況は大きく変化した。すなわち74年に132万戸と前年比31%の大幅減少を記録し,76年から79年まではマンションの建設増加などによって150万戸前後の水準で推移したものの,80年は127万戸,81年から83年にかけては年115万戸前後と減少している。

 このような低迷の背景には,景気の停滞という循環的要因に加えて,次のような需要の構造的変化が存在している。(1)住宅ストックが増大しており,住宅不足が解消されてきたことである。1958年の住宅総数は1790万戸で世帯総数1860万世帯をかなり下回っていたが,68年には住宅総数(2560万戸)が世帯総数(2530万世帯)を上回り,83年には住宅総数(3870万戸)と世帯総数(3520万世帯)との差はさらに広がっている。(2)住宅の量的充足に加えて,世帯数増加による住宅に対する新規の需要も減少する傾向にある。世帯数の増加は,核家族化の進展,人口の大都市集中によって,1960年代の半ばすぎまでは拡大傾向が続き,68年度には109万世帯とピークに達した。70年代前半になると,大都市における雇用機会の減少と生活環境の悪化,地方における雇用機会の拡大等を背景に,人口の大都市流入が縮小してきた。一方,婚姻件数も,戦後ベビー・ブーム世代が結婚適齢期を迎えた1972年の110万件をピークに,減少基調に転じている。このため世帯数増加は縮小を続け,76年度には47万世帯にまで低下し,その後も50万世帯前後で推移している。(3)住宅取得能力の低下である。住宅取得能力は,一方における建設コストと他方における資金調達力(年収,住宅ローン等)の両者によって決定される。住宅着工戸数の急増が続いていた65年から72年の間は,建築コストや地価が高い伸びを続けていたが,家計収入も同様に増加を続けていた。さらに,住宅ローン制度が急速に普及した結果,住宅取得能力は向上した。しかし,73年,74年には,石油危機等を背景としたインフレによって取得能力が大幅に低下した。ただし80年代に入って地価の安定等により取得能力は回復してきている。

 このように住宅の新設が減少傾向にあるからといって,住宅産業に対する潜在需要が減少しているわけではない。なぜなら,住宅ストックが量的に充足しても,住宅に対する人々の不満は一向に解消されていないからである。自分の住居には困った点があるという世帯は全体の4割にも達している(建設省住宅需要実態調査〉,1978)。住宅が狭いこと,建物が傷んでいること,設備が古くなっていることに不満をもつ人は多く,また周辺の環境や通勤時間の長さに不満をもつ人は少なくない。この不満は,なんらかの方法で住宅を改善しようという意欲につながり,住宅産業に対する潜在需要を生みだす。つまり,日本の住宅は,現在では量の拡大よりも質の向上が課題になっている。このため,新設住宅着工全体は低迷しているものの,価格や品質の面で優れている住宅は売行きがよい。たとえばプレハブ住宅は,81年の12万3000戸から83年には14万7000戸に増加し,また新設住宅全体に占めるプレハブ住宅比率(プレハブ化率)は1981年の9%が上昇して83年には13%に高まっている。これは,プレハブ・メーカーが長年の研究開発によって建築コストを削減し,外観・性能(防音性,耐火性,耐震性等)を向上させたことが背景にある。なかでもツーバイフォー住宅は施工が単純で工事期間が短くてすみ,耐火性,耐震性,気密性の面で優れていることから建築が増加している。1982年に建築されたツーバイフォー住宅は1万6000戸で前年比20%の増加を記録した。プレハブ住宅やツーバイフォー住宅に押されている在来工法木造住宅にも新しい動きがでてきており,安価で良質な住宅の開発を目的とした〈いえづくり85〉計画が建設省によって進められている。

 新設住宅の供給に量より質が重視される一方で,住宅ストックの量的拡大が背景となって,既存の住宅ストックを対象にしたリフォーム事業(増・改築,修理・改修等)が注目されてきており,新設住宅を中心に事業を展開してきた大手の住宅メーカー,ディベロッパーがこの分野に本格的に乗り出している。現在リフォーム市場は約6兆円(1982)と推定され,今後重要性はさらに増してこよう。
住宅問題 →土地問題 →不動産業
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「住宅産業」の意味・わかりやすい解説

住宅産業
じゅうたくさんぎょう
housing industry

住宅建築業を中心に、これに部材を供給する住宅建築材料産業、宅地開発・不動産業、器具備品を供給する住宅設備業のほか、不動産の取引仲介・手続代行、住宅金融・保険、住宅情報(新聞・雑誌)、設計・コンサルタントなどの各種サービス業を含む巨大システム産業である。

[殿村晋一]

産業の規模と特徴

1983年度(昭和58)の住宅投資は14兆7800億円(同年度GNPの5.3%)であるが、直接需要の2.1倍程度の間接需要を創出するといわれる住宅産業の規模は31兆円強ということになり、自動車産業や家電産業などをしのぐ規模をもつことから、政府の景気対策の重要な柱に据えられることが多い。住宅産業の特徴は、市場規模が大きなわりには寡占化が進まず、地域に密着した小規模業者が多いことである。それは、住宅生産が、きわめて個別的で規格化しにくく、製品差別化が著しく、需要が外部環境の影響を強く受けること、生産現場が分散的・移動的であるために生産組織を一定化できないことから、工場生産のような量産効果を期待できないためである。

[殿村晋一]

家を「建てる」から「買う」時代へ

1950年代までの住宅建設は、大工の棟梁(とうりょう)もしくは零細工務店が、施主の資金に依存して、大工、鳶(とび)職、屋根職、建具職ほか多数の生業的な専門職人を下職(したしょく)として利用するという形で行われてきた。施主が「家を建てた」のである。しかし、50年代後半から業界構造は大きく変化した。経済の高度成長は、大都市への人口集中、核家族化を進め、大都市圏における住宅不足と地価高騰を引き起こした。郊外農地や山林の宅地開発、建売分譲住宅の建設、都心部高地価地域での高層マンション(超高級集合住宅から大衆マンションまで)の建設が始まり、大工・工務店から進出した小規模建売分譲業者のほか、地場の建設業者、不動産業者も参入したが、旧財閥系・電鉄系・銀行系の不動産業者や商社など巨大企業の「デベロッパー」としての役割が増大した。1955年に26万戸にすぎなかった新設住宅着工戸数は毎年増加し続け、68年には120万戸、73年には191万戸に達し、「家を買う」時代が到来した。買い替える習慣も定着した。住宅の構造部分を工場生産し、部材の標準化・規格化・量産化によってコストを低下させ、労務費の節約と工期の短縮化(住宅産業の工業化)をねらいとしたプレハブ・メーカーが出現したのも60年代の特徴である。

[殿村晋一]

量から質の時代へ

1973年の石油危機を契機とする低成長経済への移行は、人口の大都市集中を低下させ、72年以降の婚姻件数の減少、世帯数増加の縮小傾向も重なり、住宅不足は量的には解消された。83年には住宅総数(3870万戸)が世帯総数(3520万世帯)を上回り(空家率8.6%)、新設住宅着工戸数も安定水準を示している。しかし、国民の住宅に対する不満は解消されたわけでなく、増改築・模様替えとか、良質の民営借家へのニーズは高まっている。84年の新設住宅着工には、貸家、とくに民間資金による良質貸家が増加している。住宅設備機器メーカーや建材メーカーの新製品や新技術を導入して高級化したプレハブ住宅の売上げが伸び、83年には新設住宅着工戸数の13.3%に達した。住宅産業も「質の時代」を迎えたのである。三世帯住宅とか省エネ住宅の開発のほか、アーバン・ルネサンスといわれる都市再開発の動きにも大きな潜在需要が見込まれている。

[殿村晋一]

『鈴木一編著『住宅産業界』(教育社新書)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「住宅産業」の意味・わかりやすい解説

住宅産業
じゅうたくさんぎょう
housing industry

住宅に関連するすべての産業を総括した産業群をさす。その範囲はきわめて広範囲であるが,最も狭義にはいわゆるプレハブ住宅産業を意味し,主要なものは宅地造成業,一般建築式住宅建設業,建売り住宅分譲業,マンション分譲・賃貸業,住宅素材 (建材) 製造・販売業,住宅部品 (建築部品) 製造・販売業,住宅設備機器 (エアコンディショナー,厨房用品,家具,インテリア,衛生器具) 製造・販売業,住宅関係金融業などである。広義にはこれらに加えて水道,ガス,電力,石油,保険などが住宅産業の領域に入るとみられている。住宅という一種の総合商品を供給するこのようなシステム産業が発達するためには,生産活動の側面では大規模な宅地の開発と,プレハブ方式など住宅の工場生産化,また流通活動の側面では見込み生産,販売方式の確立,住宅金融の円滑化などが鍵とされている。日本では,第2次世界大戦後,生産活動面と比べて立ち遅れの目立つ住宅産業の展開が注目され,1970年頃から巨大企業や企業グループがこの分野へ進出しはじめた。

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百科事典マイペディア 「住宅産業」の意味・わかりやすい解説

住宅産業【じゅうたくさんぎょう】

不動産業

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