都市再開発(読み)としさいかいはつ(英語表記)urban redevelopment

改訂新版 世界大百科事典 「都市再開発」の意味・わかりやすい解説

都市再開発 (としさいかいはつ)
urban redevelopment

都市再開発という言葉は,世界各国の歴史や社会情勢に応じて異なった意味で使われている。またその方法は,それぞれの国の都市発展と制度の特質によって相違するが,各国ともに都市再開発という事業を現代都市計画の主要な命題の一つとして位置づけ推進している点では共通している。都市再開発とは,いったん形成された既成市街地のうち,老朽化したり現代社会の要請に対応できなくなった低水準の部分を対象として,なんらかの公共的な関与をもって実施するところの地区ぐるみの集団的な改良ないしは更新事業のことである。この広い定義では,一定の地区を対象とする民間の大規模なビル建設や工場等跡地の高度利用あるいはターミナル改造や地下街建設などの任意の投資事業も含まれることになる。一般的な理解としては,日本の場合,都市計画で位置づけられる都市再開発法による市街地再開発事業,住宅地区改良事業および各種の住環境整備事業などがこの範疇(はんちゆう)に入る。さらに制度として厳密にいえば,都市再開発法による市街地再開発事業のことだけを指す場合もある。

 都市再開発を推進する目的として,たとえば日本の場合,1969年の都市再開発法は〈都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ること〉を挙げており,さらに79年の都市計画中央審議会の都市再開発の推進に関する答申は,(1)都市構造の再編成--商業業務流通施設の適正な再配置と拡大,(2)良好な居住環境の形成--高層化によるオープン・スペースの確保,(3)都市の防災構造化--不燃化と避難の安全確保,(4)良好な市街地住宅の供給--職住近接コミュニティの回復,(5)公共施設の整備促進--街路,幹線道路,公園,広場など基幹的な社会資本ストックの充実,の5項目を目標として掲げている。

都市再開発に関する事業の歴史をたどってみると,古代から都市には栄枯盛衰があり,いったん衰退が始まると止めるすべもなく廃虚と化するのが常態であり,その再興には時代の推移と権力の交代を待つしかなかった。やがて都市の経済力の増大と政治の安定をみるにつれて,さまざまな大災害や戦火のあとの都市復興事業が可能になり,都市の大改造を実行する絶好の機会とされた。たとえば,古代都市ローマのルネサンス都市への大改造や,1666年の大火のすぐあと中世都市であったロンドンをバロック風の堂々たる大通りの都市に改造しようとした,建築家クリストファー・レンのプランの影響下に行った復興事業などは有名である。日本でも江戸の明暦の大火とその後の防災都市への改造にみるように,大災害や戦火によってしばしば焼け野原となることが,都市に大改造の機会をもたらしてきた。とくに1923年の関東大震災および第2次大戦の焼跡において展開された復興土地区画整理事業は,城下町以来の日本の都市市街地の改造と近代化に大きく貢献してきたといえる。一方,災害という契機によることなく,都市の改造や更新を行った代表例には,たとえば首都の威容を誇示し権力の中枢機能を整備しようとした19世紀中葉のパリ県知事G.E.オスマンによるパリの大改造がある。また,社会不安の温床となるという理由からスラムクリアランスが,19世紀のイギリス,次いで20世紀に入ってからのアメリカおよび日本でも限定的に着手されるにいたった。しかし,第2次大戦前の都市再開発は,概していえば主要な街路などの都市基盤施設(インフラストラクチャー)を建設するための改造事業が中心であって,市民の都市生活と密接にかかわる住宅や居住環境の整備との一体化や不燃化をほとんど実現できなかった。

 第2次大戦で壊滅的な打撃を被ったヨーロッパの諸都市の場合は,戦後復興が公的住宅の大量供給と結びついて実施されたために,近代的で居住性・機能性にすぐれた新しいタイプの市街地空間を生み出すのに成功した。コベントリーハノーファーなどの都心区やロッテルダムのリンバーン地区,ロンドンのバービカン地区などの復興事業はこれらの代表例ということができる。1960年代は郊外開発が主流となった時代だが,戦災を受けなかったためにかえって近代化に取り残された市街地の再開発への関心がしだいに高まっていた。すなわち,1958年にオランダハーグで開かれた都市再開発に関する第1回ゼミナールでは,都市再開発をつぎのように展望している。

 〈都市に住む人々は自分の住む建物や周囲の環境,あるいは通勤,通学,買物,レクリエーションその他種々の生活についての不満をもっている。小は自分の住む家の修理・改造から,街路・公園・緑地の整備,スラムの除却などという環境改善を早くしたいと望んでいる。さらに土地利用形態や地域制の改善,大規模な都市計画を実施してもらって,住みよく美しい町にしてほしいと強く願っている〉として,市街地の更新renewalとは,(1)再開発redevelopment,(2)改善rehabilitation,(3)保全conservationの三つの手法を含む概念規定を行っている。ここでいう再開発とは,市街地が全般に悪化している区域で,将来計画に従って全面的に除却し建て替える事業,改善とは,建築物の全部や一部を修理・改造したり,地区施設を充実したりして,継続的な使用に耐えるようにする事業である。そして保全とは,建築物および市街地が健全,良好な状態にある区域に適用され,現状に適した維持の方法,建築制限,居住密度の制限の強制,用途の規制などに関する具体的指示がなされ,土地建物を経済的・社会的および文化的立場から健全,快適に継続使用するために,予防や部分修復の手を加えることで衰退を抑止する事業である。これら三つの手法を計画的に運用することによって,社会資本の蓄積としての市街地をつねに良好な状態に維持管理しようという政策の方向を示唆したものといえる。その後の経過もこの方向に進み,かくしてヨーロッパでは第2次大戦の大戦災を契機として,過去何百年の間手をつけえなかった市街地の改造を行い,復興にあたって新しい公的住宅政策と再開発の理念をとり入れ,新時代に適した都市構成と居住環境の実現に着実な成果をあげてきた。

 一方,アメリカの場合,第2次大戦後の都市再開発は,都心地域の経済活動の回復を目的として,この事業を推進してきた。すなわち,戦後の郊外開発ブームと人口流出にひきかえ,都心部は建国当時開発したままの市街地が放任状態であったため,荒廃し不衛生な地区と化し,地価は下がり,衰退しはじめた。都市の近代化の心臓部として,その地区はもっと適切かつ有効に使用し,経済的効果をあげるべきであるとの見解から大規模な都市改造に着手した。各都市とも大胆な構想をたて,連邦政府の手厚い助成のもとに,衰退地区を除却して民間デベロッパーの投資を誘導してきた。長期計画のもとに着々とその再開発を推進し,超近代的なビル,便利で十分な駐車施設,混雑のない安全なモール,そして高速度で接近できる高速道路などの実現をみたのである。このように,アメリカの都市再開発は不動産,商業業務,建設,金融などの複合体としての民間デベロッパーが主導してきたところに特徴があった。しかし,1970年代以降,人種問題と都市問題が激化してコミュニティ環境と都市定住の回復という社会政策的な面が重視されるようになり,都市再開発の潮流はより複合的で総合性をめざすものへと転じつつある。

都市改造の機会を災害復興事業に求めることが多かった日本の場合,市街地再開発関連の制度としては,もっぱら土地区画整理事業が適用されてきた。限定的な居住環境の改善のためには,きわめて劣悪な状態にある地区を対象とする不良住宅地区改良法(1927)とそれを改訂した住宅地区改良法(1960)に基づく事業があるのみであった。1960年代の都市化時代に入って,都市の不燃化,つまり防火帯づくりと商店街の近代化を目的とした防災建築街区造成法(1961)および隘路(あいろ)となっていた既成市街地での公共施設の建設を主目的とした市街地改造法(1961)が施行され,この二つがやがて都市再開発法(1969)に統合された。この法律は,市街地再開発事業の手続,制度的保証を明示したものであるが,とくに従前権利者の権利変換手続について詳しく規定しているところに特徴がある。

都市再開発法によると,従前権利者(土地・建物資産の権利所有者)は,再開発によって建設されるビルの床の一部を,従前権利との等価交換によって獲得し区分所有する。この変換手続を権利変換という。一括買収方式を主とする欧米と比べて,現在地への執着が強い日本の事情に対処する精緻(せいち)な手法であるが,零細権利者や借家権者およびビル不適格業種などの居住・営業などの生活再建にとっては不十分との意見がある。再開発ビルの床は権利床と保留床とで構成される。再開発事業費をまかなうおもな収入はこの保留床の譲渡もしくは賃貸収入に頼るので,都心部や駅前地区などの商業的再開発のみに片寄りがちである。またその際キーテナントの意向に事業の方針が左右されがちである。また,これらの手法は,いずれも不動産価値の増価を前提としてきたが,都市商業とビル床需要が停滞している状況では事業収支上の困難が生じることが避けられない。

1960-70年代を通しての急速な経済成長の結果,日本の都市は膨大な既成市街地のストックを保有することとなった。したがって,既成市街地問題への対処は現代都市計画の主要なテーマの一つである。これらのストックを良好に管理するには先に述べた保全,改善および再開発の三つの手法を地区の事業に応じて組み合わせていかねばならない。そこで,80年前後から,町並み保存や地区まちづくり計画など,各種の居住環境保全のための条例の制定や現存ストックをベースとする総合的改善事業の試みが盛んとなり,全国各地で実践されるようになった。これらと従来からの全面更新型事業との適切な組合せによって,都市再開発方式のいっそうの普遍化が図られている。既成市街地を対象とする整備手法としての総合的改善事業は,現存ストックから出発して住民の自助努力に公的施策を結合する現実性と広い適用性のある方式として,膨大なスラムとスクオッターsquatter(不法占拠者)街に悩んでいる発展途上諸国の市街地整備でも用いられている。

1980年代から,都市再開発のあり方を変える大きな世界潮流が生じている。その動因は,第1に旧市街地の人口流出・過疎化に対抗する居住人口の維持回復であり,安全で快適な住環境と良好な都市住宅の供給が都市再開発で優先される目的となった。第2に,都市文化の破壊・喪失への対抗策としての保存と活用であって,都市景観を特徴づける建造物や施設・伝統的な町並みと町家などを保存し,商店街や居住地の個性ある再生に活用する取組みが広まっている。第3に,都市コミュニティの再生revitalizationである。地区住民が主体となり行政および企業と協働する〈まちづくり〉の方向を指針として,その舞台となる市街地の保全・改善・更新の再開発事業を総合的に誘導しようとするもので,総じて保存的再開発conservational renewalへの潮流と見ることができる。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「都市再開発」の意味・わかりやすい解説

都市再開発
としさいかいはつ
urban renewal

都市再開発には狭義・広義の2通りの意味がある。狭義には、建築物の老朽化や公共施設の荒廃化が進み都市環境が極度に悪化している既成市街地、たとえばスラムや不良住宅地区において既存建築物や公共施設を全面的にクリアランス(除去)し、再開発目的に従って建築物と公共施設などを一体的に整備することをいう。いわゆる「スクラップ・アンド・ビルド方式」に基づく物的な市街地改造事業のことであり、都市再開発法に基づく市街地再開発事業や住宅地区改良法に基づく住宅地区改良事業などがこれにあたる。

 広義には、1958年にオランダのハーグで行われた都市再開発国際会議の定義がある。これによると、都市再開発は都市環境が悪化した既成市街地を安全で健康的かつ文化的な居住環境に再生させる意味の「都市更新」(アーバン・リニューアル)という包括的ネーミングが採用され、そのなかに「再開発」(リデベロップメント)、「修復」(リハビリテーション)、「保全」(コンサベーション)の三つの内容が含まれるとしている。1番目の「再開発」は狭義の再開発とほぼ同意義である。2番目の「修復」とは、都市環境が悪化しつつある既成市街地において、建築物の部分的な建て替えや修理修繕、改造や設備の近代化などにより居住環境を改善することである。3番目の「保全」とは、建築制限や用途規制、緑地保全などを通して良好な都市環境を維持することである。したがって広義の都市再開発は「既成市街地を対象とした都市計画」とでもいうべき幅広い内容を包含している。

 日本の都市再開発は、第二次世界大戦前は関東大震災を契機とする被災市街地の土地区画整理事業およびバラック住宅のスラム化に対する不良住宅地区改良事業としてスタートし、戦後は戦災復興土地区画整理事業に受け継がれた。そして戦後復興が一段落して高度経済成長が始まる1960年(昭和35)から1961年にかけて市街地改造事業、防災建築街区造成事業、住宅地区改良事業等が相次いで創設され、既成市街地における再開発事業手法が整った。さらに高度経済成長の本格化とともに既成市街地の再編による土地の高度利用が課題となり、1969年に都市の立体化を図る都市再開発法が制定された。当該地区の土地・家屋の権利者が事業組合を組織して、あるいは自治体や公団などの公的機関が事業主体となってすべての建築物を除却して新しいビルを建設し、従前の権利者に相当分の床を移転し、余剰床は権利者以外のテナント(賃借人、出店者)に譲渡もしくは賃貸してその収益を事業費にあてるという仕組みである。

 しかし、スクラップ・アンド・ビルド方式の再開発は都市機能の更新とは裏腹に、ともすれば従前住民の転出をもたらし、地域コミュニティの崩壊を導きやすいこと、経済成長の鈍化と人口減少に伴ってテナントの確保と余剰床の売却が困難となり、再開発事業そのものの採算がとれなくなりつつあることなど、問題がしだいに深刻化している。都市の激しい機能転換と高度化が求められた高度経済成長時代が遠くに去ったいま、地区住民の定住条件を確保するための都市成熟時代の再開発手法が求められている。狭義の都市再開発は広義の都市再開発へ、いまや確実にそのスタンスを移行させているのである。

[広原盛明 2024年2月16日]

『木村光宏・日端康雄著『ヨーロッパの都市再開発――伝統と創造 人間尊重のまちづくりへの手引き』(1984・学芸出版社)』『安本典夫著『都市法概説』(2008・法律文化社)』『国土交通省都市地域整備局市街地整備課監修『都市再開発実務ハンドブック2010』(2010・大成出版社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「都市再開発」の意味・わかりやすい解説

都市再開発
としさいかいはつ
urban redevelopment

現代の市民生活に不適となった既成の都市域を改造し,新しい計画によって生活環境を整備すること。古い市街地をすべてこわすことで,クリアランス clearance,または更新 renewalともいう。建造物の老朽化,不良住宅街などの利用価値の低下したところや,公衆衛生上問題となっている地域を再編成することで,公共事業として実施する。日本や西ヨーロッパ,アメリカでは古くから発達した都市の市街地や第2次世界大戦の際戦災を受けた地域などについて,また終戦後急造された密集地帯にある臨時建造物の撤去,高層化による緑地・道路など公共空間の拡大など,都市の生活環境の改造が全国的に広く行われている。

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