コトバンクはYahoo!辞書と技術提携しています。

住宅問題 じゅうたくもんだい housing problem

2件 の用語解説(住宅問題の意味・用語解説を検索)

世界大百科事典 第2版の解説

じゅうたくもんだい【住宅問題 housing problem】

住居は人間の生存と生活の基盤であり,生命の安全と健康と人間の尊厳を守り,家庭生活の器として市民をはぐくみ,まちと文化をつくる最も基本的な人間環境であり,社会の基礎単位である。住居は都市の構成要素であるから,低質住宅の集積は不良都市形成の原因となる。住居は風土と生活に根ざして生活文化をつくり,人々の安定した居住はコミュニティを形成して暮しを支え,民主主義土壌形成に寄与する。個々の住居は私的で小さな存在であっても,その全体は社会的資産であり,社会に対して大きな影響をもつ。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
All Rights Reserved. Copyright (C) 2015, Hitachi Solutions Create,Ltd. 収録データは1998年10月に編集製作されたものです。それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。また、本文中の図・表・イラストはご提供しておりません。

日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

住宅問題
じゅうたくもんだい
housing problem英語
Wohnungsfrageドイツ語

住宅の質や量に関する社会的諸問題。住宅問題が社会的課題として顕在化するのは、資本主義の発展とともに住宅の商品化が進み、都市に集積した労働者人口の急増に伴って劣悪な住宅供給が現れるようになってからのことである。
 住宅は人間の生存と生活の基盤であり、人間にとって不可欠なものであるが、住宅が土地に合体した商品であるために、その供給が制約的であるという理由も加わって、一般にその価格は非常に高価である。そのため住宅を確保することは、一般の生活必需品に比べて、多くの困難を伴う。また住宅は都市や村落を構成する要素であり、住宅の供給のあり方が都市や村落の物的・社会的環境にも大きく影響を及ぼすことなどから、住宅問題は多様な視点からとらえられてきた。[堀田祐三子]

資本主義と住宅問題

18世紀から19世紀にかけて各国で産業革命が起こると、工業の急激な発展に伴って、工場地帯に大量の労働力需要が生じた。農村部の人口の大量の移動を供給源としつつ、こうした地域では人口が累増し、近代都市が形成され発展した。ここでは大量の住宅が必要となったが、新興労働者階級(プロレタリアート)の購買力は総じて低く、劣悪な住宅・住環境に居住を余儀なくされる状況が現れた。その具体的な展開は国によって多様であるが、産業革命発祥の地であるイギリスを例にとると、次のような展開を示した。
 当時労働者階級向けに供給された住宅の多くは、建築業者や家主の資金力不足と、末端の消費者である労働者階級の支払い能力の低さに規定され、一般に狭小で劣悪なものにならざるをえなかった。貧困にあえぐ労働者階級や窮民層が集中する「貧民街」が都市のあちこちに形成され、過密居住や地下室での居住も常態化する状況であった。貧民街の住宅は、その多くが2~3階建ての背割り長屋形式の建物で、採光や換気が不十分なうえ、洗面・トイレ、排水溝などの基本的な設備が整っておらず、多くの住民が汚物や廃物があふれた不衛生な環境で生活をしていた。このため貧民街の住環境はコレラなどの伝染病の温床となり、貧困層の住宅問題が中産階級以上を含む都市全体の問題として顕在化するようになる。
 こうした事態に対して、イギリスでは、19世紀なかばにスラム・クリアランスslum-clearance(不良住宅の撤去による都市の更新)や上下水道の整備などを梃子(てこ)として、都市環境の改善を目ざした住宅政策のさきがけともいえる公的介入が開始された。また鉄道などの輸送手段が普及するまでは、住宅は労働者の工場からの徒歩圏での供給が主流であり、その意味で供給量も限定的であったことがこうした過密居住を促進した。
 その後、鉄道が普及するに伴って市街地から郊外への人口流出がみられるようになり、それに伴って郊外住宅開発が進んだが、郊外居住が可能であったのは一部の中流階級であり、多くの労働者は既成市街地での住宅確保を余儀なくされた。そこでは、都市の住環境改善と称して実施された強圧的なスラム・クリアランスや都市化の進展を反映した地代や資材価格の高騰が家賃価格を押し上げ、労働者階級の生活を苦しめ続けた。イギリスではこうした住宅問題が深刻化するなか、労働者階級の怒りが爆発し、第一次世界大戦の開戦のころに至ると各地で家賃ストライキが発生した。問題解決に向けた公的介入の必要は否応なく高まり、以後、家賃統制や借家人保護の法制度の導入、公的住宅供給の仕組みなどが整備されてゆき、住宅問題に対する公的介入の手法が多様化した。
 第二次世界大戦とその後の経済復興の過程における膨大な住宅不足の顕在化は、介入のいっそうの強化を要請し、これに対処するための住宅政策の本格的な展開を促した。この時期福祉国家政策の一翼をなす住宅政策は、なによりも公営住宅の発展に象徴されるものであった。しかし、住宅不足が戸数のうえでは解消され、高度経済成長が終焉(しゅうえん)する1970年代に入ると、住宅政策は公営住宅中心から持ち家促進へと大きく舵(かじ)をきった。1980年代には、サッチャー政権の下で公営住宅の売却が加速されたという事情も加わり、住宅は保有形態としては持ち家が多数をなすに至った。これに伴って住宅問題も持ち家をめぐる問題が注目される時代を迎えた。1980年代後半「バブル経済」下での住宅価格の高騰とその後の下落による住宅ローン破綻(はたん)の広がり、とくに大都市圏を中心とする住宅価格の持続的高騰による一般勤労者の住宅取得難などがそれである。
 こうして、ホームレスの増大など貧困を軸とする住宅問題を底流にはらみながらも、持ち家を中心とする住宅市場の不安定化が現代の住宅問題の主役となる状況が今日を特徴づけている。この点で重要な問題は、投機資金の住宅市場への流入がこの種の問題を引き起こしており、その背景に「金融の肥大化」といわれる資本主義の世界的な構造変化があることである。住宅問題と深くかかわる2007年の「サブプライムローン」問題、翌年の「リーマン・ショック」の発生は、アメリカにとどまらず、イギリスを含む世界の金融・住宅市場に重大なダメージを及ぼした。いまや住宅問題は、一国を超えたグローバルな問題として把握されるべき時代を迎えている。[堀田祐三子]

日本における住宅問題


都市化・都市膨張期(1980年代まで)
近代化・都市化のプロセスにおいて、日本で初めて近代的な意味での住宅問題が認識されたのは、第一次世界大戦後の時期である。その意味では、上述のイギリスのケースに比べての後発性を指摘することができる。
 第一次世界大戦とその後の好景気は、商工業の発展をもたらし、大都市への人口集中を加速させ、都市部での住宅不足を激化させた。住宅の絶対的不足とインフレーションの進行は、家賃値上げや居住者の追い出しなどの問題を引き起こし、こうした問題が社会的に注目されるようになった。また1923年(大正12)に発生した関東大震災による住宅の喪失は46万5000戸にも上り、膨大な住宅不足を発生させた。他方、同じ時期に全国の都市部では不良住宅地区の存在が問題視されるようになる。不良住宅地区とは、質の低い住宅が密集し、衛生や風紀、保安などに関して有害または危険のある地区である。その改良を目ざした不良住宅地区改良法が1927年(昭和2)に制定された。
 第二次世界大戦後は戦災と海外からの引揚者とによって、日本は420万戸の住宅不足にみまわれた。終戦当時、都市部の人口は戦前の半分以下にまで減少していたが、住宅は絶対的に不足しており、多くの人がバラックなど住宅とはいいがたい場所での生活を強いられた。政府は1945年(昭和20)9月に越冬用応急簡易住宅30万戸の建設を発表したが、翌年3月までに完成したのは8万3000戸ほどにすぎなかった。1950年代に入ると、住宅金融公庫(1950)、公営住宅法(1951)、日本住宅公団(1955)という戦後住宅政策の三本柱とよばれる制度枠組みが確立する。このほかにも、1965年には地方住宅供給公社法が、また1966年には住宅建設計画法が制定され、公共・民間双方の住宅建設が促進された。住宅建設計画では、当初「1世帯1住宅」や「1人1室」などの目標が掲げられ、住宅の量的充足が目ざされた。
 高度経済成長期の大量供給によって、全国レベルでは1968年の住宅統計調査において、すべての都道府県レベルでは1973年の調査において、住宅戸数が世帯数を上回り、日本の住宅の量的不足はその限りで解消された。しかしながら、その住宅のなかには質の低い不良住宅も多く存在しており、加えて高度経済成長の本格的展開とともに、大規模な地域の再編成と人口の再配置が行われたことも影響して、大都市を中心に住宅難は量的充足を達成した後も続いた。とくに当時借家の3分の1から4分の1を占めていた木造賃貸アパートの居住性は低く、排水不良や、建てづまりで日照、採光、通風などが十分に得られない質のものが相当数存在した。住宅問題は、量的不足から質的不足が主要課題として浮上するようになった。こうした状況を受けて第3期住宅建設5か年計画(1976)では「居住水準の向上」が政策目標に掲げられた。
 戦後オイル・ショックに伴う一時的な例外を別として、バブル経済崩壊に至るまで、「列島改造」期と「バブル」期という二度の狂乱期を演出しながら、基本的に地価は上昇を続けた。地価の持続的な高騰は、住宅価格と家賃の暴騰に反映され、世帯の居住費負担を著しく増加させた。また住宅価格・家賃の高騰は、一定の質を備えた住宅取得の可能性を都心から遠ざけ、住宅地開発の郊外化を進行させた。他方都心部では、土地の細分化や住宅の建てづまり、住宅の狭小化が進むなか、老朽住宅群を取り壊して再開発を進めるための地上げや住民の追い出しが問題になった。とくに1980年代後半の「バブル」期における地価狂乱は、住宅問題を著しく深刻化させた。1989年(平成1)当時東京都区部のマンション価格は平均8628万円、勤労者の平均年収の12.7倍にも上った。持ち家取得層にとっては、住宅ローンの負担とローン破綻のリスクが、借家層にとっては狭い住宅への高い家賃負担と立ち退きなどの居住の不安定さが問題となった。
 地価高騰の波は、民間住宅だけでなく、公共住宅の供給にも大きな影響を与えた。大都市では入居倍率が上昇し、多くの入居希望者が入居できない事態が生じた。さらに新規供給についても、地価が高騰するにつれ、また地方自治体の財政事情も苦しくなるなかで、しだいに困難になり、低家賃住宅へのニーズはあるものの供給量は伸び悩み、かつ入居を希望する層のニーズに対応できない不便な立地での供給を強いた。[堀田祐三子]
1990年代以降
バブル経済の崩壊以降地価は大幅に下落し、その後も一部を除いて、下落傾向が続いている。景気の低迷が雇用不安を高めるなか、住宅問題もこれまでの右肩上がりの時代とは異なる様相をみせるようになる。
 1970年代から課題とされている日本の住宅の質の問題は、当時と比べれば改善されてきたとはいえ、解消されたとはいいがたい。規模の面でみると、1住宅当りの延床面積は、1973年(昭和48)から2008年(平成20)にかけて約1.2倍になり、先進諸外国と比較しても見劣りしないほどの規模にまで達しているが、所有関係別にみると2008年時点でも借家は持ち家の半分程度の面積でしかなく、持ち家と借家の格差が著しい。質のよい低価格・低家賃住宅が十分に供給されないことと、雇用の不安定化がもたらす需要サイドの支払い能力の低下が、住宅の質と過重な居住費負担の問題を構造化しており、とくに路上生活者や不安定居住を強いられる人々の問題は以前に増して深刻になっている。
 また、こうした伝統的な問題に加えて、新たな住宅問題として認識される状況が生まれてきている。たとえば、分譲マンションの増加により、建て替えや修繕をめぐる所有者間の合意形成の問題(マンション管理の問題)や、地震などの自然災害によって住宅を喪失した際に、被災前に抱えていた住宅ローンの支払いと新たに取得した住宅のためのローン支払いを余儀なくされる、いわゆる二重ローンの問題などである。
 そしてまた、今後深刻な問題となってくるのが、空き家の増加と既存住宅ストックの活用の問題である。日本ではこれまで大量の新規住宅建設を継続してきたが、景気の低迷や地球環境問題への意識の高まりなどを背景にして、既存住宅ストックの利活用が重視されるようになってきた。しかしながら、日本の住宅寿命は諸外国のそれと比較して短く、ゆえにまた既存住宅の流通量もかなり少ない。人口減少が進み、かつ将来的には世帯数の減少も予測されるなかで、新規住宅建設をある程度抑制しながら既存住宅ストックの利活用が一般化しなければ、空き家の増加はますます顕著となり、地域の衰退にもつながることが懸念される。[堀田祐三子]
『西山夘三著『すまい考今学――現代日本住宅史』(1989・彰国社) ▽山田良治著『土地・持家コンプレックス――日本とイギリスの住宅問題』(1996・日本経済評論社) ▽図解住居学編集委員会編『図解住居学4 住まいと社会』(2005・彰国社) ▽塩崎賢明編著『住宅政策の再生――豊かな居住をめざして』(2006・日本経済評論社) ▽本間義人著「全国総合開発計画と戦後住宅政策」(『現代福祉研究』6号所収・2006・法政大学) ▽エンゲルス著、一条和生・杉山忠平訳『イギリスにおける労働者階級の状態』上下(岩波文庫)』

出典|小学館 日本大百科全書(ニッポニカ) この辞書の凡例を見る
(C)Shogakukan Inc.
それぞれの解説は執筆時点のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。

世界大百科事典内の住宅問題の言及

【住宅政策】より

…資本主義経済下では住宅市場の価格メカニズムが十分機能せず,住宅の量的不足や質的低下の問題が社会現象として現れやすい。これを住宅問題という。
[住宅の特殊な性格]
 住宅は商品として二つの面ではなはだ特殊な性格をもっており,市場に出回るとき,この性格に規定された問題もいっしょに現れてくる。…

※「住宅問題」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社日立ソリューションズ・クリエイト
All Rights Reserved. Copyright (C) 2015, Hitachi Solutions Create,Ltd. 収録データは1998年10月に編集製作されたものです。それぞれの用語は執筆時点での最新のもので、常に最新の内容であることを保証するものではありません。また、本文中の図・表・イラストはご提供しておりません。

住宅問題の関連キーワードエゴイズム家庭経済言語生活三有生活共同体生存権人間失格ペット精神生活倫理神学

今日のキーワード

トランスアジア航空

台湾・台北市に本拠を置く航空会社。中国語名は復興航空。1951年、台湾初の民間航空会社として設立。83年に台湾の国産実業グループに経営移管され、組織改編を実施した。92年に国際チャーター便の運航を始め...

続きを読む

コトバンク for iPhone

住宅問題の関連情報