地上の放送局から発信されたテレビ送信波を人工衛星が中継し、これを直接各家庭のアンテナで受信できるような方式を衛星放送といい、このためのテレビ送信波(映像信号と音声信号)を中継する衛星。
放送衛星の基本的な機能は通信衛星と同様で、搭載した中継器(トランスポンダー)で地上から送信した電波を一度受信したのち、別の周波数に変換して地上に向けて再送信する。放送衛星ではKuバンド(12~18ギガヘルツ)を利用する。この周波数帯は地上放送に比べて伝送帯域幅が広くとれるので、より高品質なテレビ放送が可能になる。一方、強い雨が降っている時などは降雨による減衰を受け、映像が乱れる。受信は地上の一般家庭に限らず、鉄道や船舶などの移動体でも可能である。放送衛星を静止軌道に置くことで、地上に多くの中継局を設置するよりもはるかに効率的になる。放送衛星は一般家庭の小型アンテナでも受信可能なように、衛星側の送信電力を高くし、放送エリアを絞る成形ビームアンテナで放送域を制御(スピルオーバーといわれる放送波の漏洩(ろうえい)を防止)する。
日本では実験用静止放送衛星「ゆり」(1978)、「ゆり2号a」(1984)、「ゆり2号b」(1986)により技術開発と実証実験が行われ、1989年(平成1)から世界初の本格的な衛星放送が開始された。その後、「ゆり3号a」(1990)、「ゆり3号b」(1991)、「ゆり4号」(1997)が相次いで打ち上げられ、日本における衛星放送は確固たるものとなった。BS放送には、1989年に本放送が開始されたBS(アナログ)放送と、2000年(平成12)に本放送が開始されたBSデジタル放送がある。アナログ方式は2011年7月に一部の地域を除いて廃止され、デジタル方式に移行した。2016年時点では、東経110度の静止軌道に、BSAT(ビーサット)-3a、BSAT-3b、BSAT-3cの3機が運用され、衛星基幹放送が行われている。2017年には次期放送衛星BSAT-4aが打ち上げられる。4K(フルハイビジョンの4倍の画素数の映像)や8Kという高精細な放送サービスは、2015年に試験放送が行われ、2016年時点で3番組の超高精細度テレビジョン放送(4K)、156番組の高精細度テレビジョン放送が行われている。
[森山 隆 2017年1月19日]
『永井裕著『人工衛星――ロケットから放送衛星まで』(1991・電気書院)』▽『原田益水著『衛星のすべて――BS、CSなど衛星通信の歩みと技術』改訂版(1993・電波新聞社)』▽『遠藤敬二・泉武博監修『放送衛星の基礎知識――BSデジタル放送を中心として』(2001・兼六館出版)』▽『片岡俊夫著『新・放送概論――デジタル時代の制度をさぐる』(2001・日本放送出版協会)』
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衛星放送のための静止衛星。衛星から直接家庭に設置されたアンテナに電波を送る。インテルサットなどの通信衛星に比べてテレビ伝送チャンネル当りの送信電力がきわめて大きく,したがって太陽電池による衛星発電電力と放熱熱量も大きい衛星構造となっている。また,衛星はサービスエリアを効果的に照射するように,高利得で低サイドローブの送信アンテナを搭載し,そのビーム方向を精度高く保つ姿勢制御を行う。日本初の放送衛星〈ゆり2号a〉は1984年1月打上げに成功し,5月から放送を開始した。
→衛星放送
執筆者:松下 操
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… 通信衛星には地上の2点を結ぶもののほかに,人工衛星と人工衛星,人工衛星と地上の間の通信を行うものも登場しつつある。また一方向的通信というべきものに放送衛星があり,これも静止衛星が利用できるようになって登場したものであって実用衛星の中では新しい歴史をもつ。宇宙通信衛星通信衛星放送
[気象観測]
気象衛星は人工衛星から雲の画像をカメラでとって地上に送ってくるもので,アメリカはタイロス,ニンバスの各試験研究用,そしてエッサによる実用にはいずれも低高度衛星を用いた。…
… 図1は衛星放送の仕組みを示したもので,放送局で作られた番組は,地上局から衛星に向け送信される。放送衛星は,地上局からの信号を受信し,電波の周波数を放送用のチャンネルの周波数に変えたのち,電波の強さを数十Wから百数十Wに増幅して地上に向けて送信する。家庭では衛星からの放送電波をパラボラアンテナで受信する。…
※「放送衛星」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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