市場で取引される複数個の財・サービスの価格の時間的,場所的な相対的増減を総合的に示す指標を物価指数という。どのような取引段階ないし部面での物価を測定するかによって,卸売物価指数(現,企業物価指数),小売物価指数,消費者物価指数,貿易物価指数,株価指数などに分かれる。
物価指数を算定する方式(物価指数算式)としては,つぎの四つが有名である。(1)ラスパイレス算式(略称L式) pi0を基準年次の第i番目の財・サービスの価格,qi0を同じく数量とし,pi1,qi1をそれぞれ比較年次の第i番目の財・サービスの価格,数量とすれば,L式による物価指数Plは,基準年次の数量が比較年次においても取引されるという考えに基づき,として計算される。(2)パーシェ算式(略称P式) P式による物価指数Ppは,L式とは逆に比較年次の数量が基準年次においても取引されたという想定のもとに,と計算される。(3)フィッシャー算式(略称F式) これはL式とP式を折衷したもので,F式による物価指数PfはPlとPpの幾何平均として求められる。すなわち,。(4)エッジワース算式(略称E式) F式と同じくL式とP式を折衷したもの。E式による物価指数Peは,基準年次と比較年次の数量の平均がそれぞれの年に取引されたという想定のもとに,
と求められる。E式はボーリー算式とも呼ばれている。
このように物価指数算式にはいろいろあるが,どの方式が最も理論的に優れているのかを判定するのが物価指数論である。この判定については大きく分けて二つの考え方がある。一つは,形式的合理性という点で優れている算式をよしとする考え方であり,もう一つは,経済理論を背景にして,経済理論と整合しているものをよしとする考え方である。前者は原子論的方法atomistic approachと呼ばれているが,これは価格と数量は互いに他の影響を受けない独立の要素であるという考えの上に成り立っている。先にあげたL式,P式,F式およびE式はいずれもこの方法に属するものである。後者は関数論的方法functional approachと呼ばれ,たとえば無差別曲線などを用いて価格と数量の間の関係を理論的に基礎づけようとする立場である。価格変動の総合の場合には,やはり各財・サービスの価格と数量の間の相互依存性を前提にすることは必要である。それゆえ,関数論的方法が本来の接近方法といえる。
→パーシェ指数 →フィッシャーの理想算式 →ラスパイレス指数
執筆者:貝山 道博
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
家計や企業などが購入、利用する財(商品)やサービスの価格変動を総合的にとらえ、基準時(比較の基準となる時点)を100とした指数によって表したもの。家計や企業が直面する物価動向を時系列的に観察し、あるいは地域間で比較するための指標である。さまざまな政策立案のため、または種々の経済指標から価格変動の影響を取り除くためのデフレーターとして用いられている。
日本では、家計が購入する財やサービスの価格変動を総合的にとらえる消費者物価指数、企業が取引する財の価格変動をとらえる企業物価指数、企業が取引するサービスの価格変動をとらえる企業向けサービス価格指数が代表的な物価指数である。このほか、農業における投入・産出価格の動向を把握する農業物価指数、製造業における投入・産出価格の動向を把握する製造業部門別投入・産出価格指数などがある。
指数は、財やサービスの価格系列を指数化し、それを加重平均することで算出されている。日本ではラスパイレス指数の考え方を用いている物価指数が多いが、国内総生産(GDP)関連のデフレーターのようにパーシェ指数の考え方を用いているものもある。物価指数の理論ではこのほか、「フィッシャーの理想算式」としてアメリカの経済・統計学者I・フィッシャーが提案したフィッシャー指数の考え方もあるが、日本の物価指数では貿易統計の輸出・輸入価格指数の計算や、算出手続を異にした二つの指数時系列の接合の際などに用いられるにとどまっている。
一方、物価指数はある時点の財やサービスの価格を100としてそれを加重平均しているが、100とする年を基準時に固定する固定基準年方式と、指数を計算する年の前年を100として算出する連鎖方式がある。日本の物価指数は固定基準年方式が主流であったが、2004年(平成16)12月8日に公表された2004年7~9月期の四半期別GDP速報(国民経済計算のうち、GDPの支出側系列等に関する統計)の2次速報から連鎖方式のデフレーターが導入された。消費者物価指数や企業物価指数においても、参考指数として連鎖方式の物価指数が算出・公表されている。
[飯塚信夫 2019年2月18日]
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… 指数が効果をあらわすのは,いくつかの数値の系列を総合して一つの系列にまとめ上げる場合である(ただ一つの数値の系列を指数化することは簡単であり,そうすることは有効数字の多い統計をわかりやすく表現したりする場合にしか意味をもたないであろう)。例えば,消費者物価指数のように,消費者が購入する多数の財・サービスの小売価格から一つの集計された指数をつくる場合がそうである。このときには,計測された価格データをそのまま平均するわけにはいかないから,まず各価格をそれぞれの基準年次の価格に対する比率に直し,その後にそれらを何らかの形で平均するという方法が用いられる。…
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