無差別曲線(読み)むさべつきょくせん(英語表記)indifference curve

日本大百科全書(ニッポニカ) 「無差別曲線」の意味・わかりやすい解説

無差別曲線
むさべつきょくせん
indifference curve

ミクロ経済学における消費者選択理論基礎となる分析道具。消費者選択理論は、一定所得をもち、所与の価格に直面している消費者(家計)が、効用を最大にする財の組合せをどのように選択するかを合理的に説明する。消費者がいろいろな財を購入するのは、消費することにより効用(満足感)が得られるからである。消費者の効用は、各財の消費量が増えると高まる。つまり、効用は各財の消費量の増加関数である。無差別曲線とは、同一の効用をもたらす(無差別である)各財の組合せをすべて選び出して図示したものであり、次の重要な性質をもつ。〔1〕無差別曲線は右下がりである。〔2〕無差別曲線は互いに交わることはない。〔3〕原点より遠い位置にある無差別曲線ほど効用は高い。〔4〕無差別曲線は原点に対して強く凸である。

 このような性質をもつ無差別曲線を、肉と果物の二財を例にとって考えてみよう。無差別曲線I上のいかなる果物と肉の組合せも、同一の効用をもたらす。無差別曲線の傾きの絶対値は、消費の限界代替率を示す。同じ効用を保つには、果物をさらに一単位だけ増やすと、家計は肉の消費量を減らさなければならない。この肉の減少分を示すのが限界代替率である。無差別曲線の性質〔4〕は、この消費の限界代替率が逓減(ていげん)することを示す。これは、たとえば肉が果物に比べて少なければ少ないほど、この少ない肉を貴重に感じ、果物を一単位追加する際にあきらめなければならない肉の量は少なくてすむという消費者の心理を述べるものである。

 消費者の支出可能な所得が一定であれば、購入可能である二財の組合せも限定される。果物(肉)をまったく購入しないで所得のすべてを肉(果物)に支出すると、購入可能な肉(果物)の量は、所得を肉の価格(果物の価格)で割った値となる。この値は線分をなし、予算という。その傾きの絶対値は果物と肉の価格比に等しい。消費者が購入可能であり、さらに最大の効用をもたらす果物と肉の組合せは点Eで示される。点Eでは無差別曲線Iと予算線は接しており、消費の限界代替率は果物と肉の価格比に等しい。

[内島敏之]

『J・R・ヒックス著、安井琢磨・熊谷尚夫訳『価値と資本』全二巻(1951・岩波書店)』『J・M・ヘンダーソン、R・E・クォント著、小宮隆太郎・兼光秀郎訳『現代経済学』(1973・創文社)』『西村和雄著『ミクロ経済学入門』(1986・岩波書店)』


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改訂新版 世界大百科事典 「無差別曲線」の意味・わかりやすい解説

無差別曲線 (むさべつきょくせん)
indifference curve

消費者の行動を分析する消費者選択の理論では,消費者は,財の組合せに対する選好順序をもっている,ということを前提としている。かりに,食料4単位と衣料2単位から成る組合せAと,食料6単位と衣料1単位の組合せBとがあるとする(図参照)。そしてある消費者に〈ただで進呈するから,どちらかを選べ〉と質問したとする。答えは,(1)BよりAを選ぶ,(2)AよりBを選ぶ,(3)互いに同程度の好ましさで,いずれを選ぶとはいいがたい(これを,AとBとは無差別であるという),のうちの一つである。消費者により答えは異なるであろうが,答えられるということは,消費者が財の組合せに対する好ましさの基準をもっていて,その基準により順序づけを行っているから,と考えられる。この好ましさの基準を選好順序という。消費者のもつ選好順序は,それがある性質を満たせば,効用関数あるいは無差別曲線として表現される。効用関数とは,ある財の組合せから得られる効用の水準を表すものであり,無差別曲線とは,その曲線上のどの2点も互いに差別がないような曲線であり,同一の効用水準をもたらす点の集合である。無差別曲線は,(1)右下がりである,(2)任意の2本の無差別曲線は交わることはない,(3)原点から離れるほど効用水準は高いという性質をもっている。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「無差別曲線」の意味・わかりやすい解説

無差別曲線
むさべつきょくせん
indifference curve

一般均衡論での消費者行動を分析する際の基礎となる理論。いま一定の所得をもつ消費者が2つの異なる財( X,Y )を購入する場合,その組合せは無数に存在する。そこでX財を一定量 x1 とY財を一定量 y1 購入する場合,これと選択上,差別できない組合せを図に示すと A1B1 のように表わされる。これを無差別曲線と呼ぶ。この A1B1 線上には存在しない任意の点( x2y2 )に対しても同様に A2B2 を描くことができる。ただし,同一の無差別曲線上にない2点は選択上無差別ではなく原点より遠い曲線上 (この場合 A2B2 ) の組合せの方がより選好される。また,無差別曲線は,人が合理的選択をすることを前提している関係上,右下がりで,原点に対し凸,さらに相異なる曲線は決して交わらないと仮定される。

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世界大百科事典(旧版)内の無差別曲線の言及

【限界代替率】より

…つまり,限界代替率(MRS)とは,X財の消費1単位と交換してもよいとその消費者が考えるY財の量であり,したがって,この消費者が現在の消費の組合せのもとで,Y財に比べてX財をどのくらい好んでいるかを表す指標である。 図に表したように,互いにこの消費者にとって無差別な消費の組合せの軌跡を無差別曲線と呼ぶが,ある消費の組合せ(図のA点)の限界代替率は,その点での無差別曲線の接線の勾配にマイナス1を乗じたものに等しい。X財の消費を増やしY財の消費を減らすことによって無差別曲線上を動いていけば,B点ではA点に比べて相対的に消費量の大きいX財より,消費量の小さいY財のほうが重要であると考えるようになるだろう。…

【効用】より

…効用には(重さや長さのような)測定単位がないからである。このような効用の可測性の問題は,F.Y.エッジワースの無差別曲線の理論や,パレートの選択理論(パレート最適)の展開によって克服された。 効用が価値理論の発展にとって重要なきっかけを与えたのは,限界効用という概念である。…

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