睡眠時無呼吸症候群(読み)スイミンジムコキュウショウコウグン

デジタル大辞泉 「睡眠時無呼吸症候群」の意味・読み・例文・類語

すいみんじむこきゅう‐しょうこうぐん〔スイミンジムコキフシヤウコウグン〕【睡眠時無呼吸症候群】

眠っている時に数秒~数十秒呼吸が止まり、息苦しくなって目覚めることを一晩に数回、繰り返す病気。本人は、夜中に目覚めたことに気づいていない。SASサス(sleep apnea syndrome)。

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共同通信ニュース用語解説 「睡眠時無呼吸症候群」の解説

睡眠時無呼吸症候群(SAS)

就寝中に呼吸が止まる状態を繰り返して熟睡できず、日中に強い眠気のため生活や業務に支障を来す睡眠障害。2003年2月に居眠り運転した山陽新幹線の運転士がSASと診断されて注目されるようになった。器具を指にはめて睡眠時の血中酸素量を測るなどして簡易検査することができる。寝る際にマウスピースをつけたり、鼻につけたマスクから空気を送りこんだりする治療法がある。

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内科学 第10版 「睡眠時無呼吸症候群」の解説

睡眠時無呼吸症候群(呼吸調節の異常)

病態生理
 睡眠中に呼吸が頻回に停止し,その結果,ガス交換障害が出現する病態を睡眠時無呼吸症候群(Guilleminaultら,1976)とよぶ.無呼吸は10秒以上の口・鼻での気流の停止と定義され,この無呼吸が,一晩の睡眠中(7時間)に30回以上出現する病態が睡眠時無呼吸症候群である.睡眠時無呼吸症候群は睡眠検査により,図7-11-2に示すように3型に分類されるが,混合型は閉塞型(obstructive SAS:OSAS)の亜型であり,基本的には中枢型(central SAS:CSAS)と閉塞型睡眠時無呼吸症候群に大別される.中枢型睡眠時無呼吸症候群とは,睡眠時に呼吸運動そのものが消失するために無呼吸が起こってくるタイプで,脳幹部にある呼吸中枢が障害されたときに起こってくる.前述の原発性肺胞低換気症候群では,この型の無呼吸がみられる.しかし,実際の臨床で中枢型無呼吸症候群に遭遇することはきわめてまれであり,ほとんどの睡眠時無呼吸症候群は後述する閉塞型である.ただ単に睡眠時無呼吸症候群という場合には閉塞型睡眠時無呼吸症候群を意味することが多い.本項では,閉塞型睡眠時無呼吸症候群に限って詳述する.
 閉塞型睡眠時無呼吸症候群の基本的病態生理は,睡眠時に頻回に出現する上気道(特に咽頭部)の閉塞である.われわれは,通常,仰臥位で就寝するが,このとき,舌根部が沈下して上気道は狭小化する.さらに,睡眠状態に入ると全身の骨格筋は弛緩するが,上気道を構成している筋肉群も弛緩するため,上気道はさらに狭くなる.しかし,健常者においては,この程度の上気道の狭小化は呼吸になんの影響も及ぼさない.いびきは,狭くなった上気道を空気が通過するときに発する呼吸音であり,睡眠時の上気道の狭小化を表す.閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者では,上気道に形態的・機能的に何らかの異常があるため,睡眠時に容易に上気道が狭小化・閉塞して無呼吸が出現する.したがって,すべて閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者は著明ないびきの常習者である.
 図7-11-3に典型的な閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者の睡眠検査(PSG)を示す.口・鼻の気流(FLOW)は約50秒間停止しているが胸部(CHEST)と腹部(ABDOM)の呼吸運動は継続しているため閉塞型睡眠時無呼吸症候群とわかる.無呼吸の持続に伴い,酸素飽和度(SaO2)は直線的に低下しており著しい低酸素血症を呈している.このような著しい低酸素血症は,すべての臓器に影響を及ぼすが,特に大きな影響を受けるのは循環系である.肺高血圧(肺性心),高血圧,冠動脈疾患,脳血管障害などの循環系合併症が,閉塞型睡眠時無呼吸症候群患者では有意に多いことが報告されており,患者の予後に大きな影響を及ぼす.
 閉塞型睡眠時無呼吸症候群におけるもう1つの大きな問題は,睡眠が障害されることによりもたらされる日中の病的な眠気(過眠)である.図7-11-3のPSG上で,無呼吸時と呼吸再開時の脳波,筋電図の波形が明らかに異なっているのがわかる.呼吸再開(無呼吸消失)時には,脳波と筋電図の活動性が高まっているが,これは覚醒(arousal)を表している.つまり,無呼吸が消失するためには覚醒が必要で,この中途覚醒が一晩中出現するため,患者は良質な睡眠をとることができない.本症に最も特有な著しい過眠はこのために生じてくる.この日中過眠は,患者の社会生活に大きな影響を及ぼすだけでなく,交通事故や災害事故の原因となることが明らかにされている.
臨床症状
 著明ないびきは本症に必発である.いびきは睡眠時の上気道の狭小化を表すが,肥満者では,普段から上気道に脂肪や軟部組織が発達しているため,上気道が狭小化しており閉塞型睡眠時無呼吸症候群が起こりやすい.日中の異常な眠気は本症に最も特徴的な症状であり,重要であるが,ときには,患者自身がその異常さに気がついておらず,家族や同僚の話で判明することもある.表7-11-3に症状・徴候を示す.
診断・鑑別診断
 肥満した中~壮年の男性で強いいびきと日中過眠を訴えれば,診断はそう難しくはない.しかし,診断を確定するためにはPSGが必要である.PSGは脳波をはじめ多くの睡眠中の生理学的パラメーターをモニターする方法で,SAS診断のgold standardである.PSG上,最も重要な指標は無呼吸・低呼吸指数(apnea-hypopnea index:AHI)で,1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数の和である.低呼吸とは,換気量がベースラインより50%以上低下し,かつSaO2が3%以上低下した状態が10秒以上続く呼吸であり,無呼吸と同等の病的意義がある.AHI>5を睡眠呼吸障害(sleep-disordered breathing:SDB)と定義する.睡眠時無呼吸症候群は,この睡眠呼吸障害に日中過眠や,睡眠呼吸障害に基づく臨床症状がみられた場合に診断される(睡眠呼吸障害研究会,2005).したがって,AHIの測定が確定診断には必須である.しかし,PSG検査はどの施設でも可能な診断法ではないので,脳波の測定などを省いた簡易型モニターでAHIを測定し代用とすることもある.日中過眠の判定にはEpworth Sleepiness Scale(ESS)とよばれる簡便な質問表が用いられることが多い.
 睡眠時無呼吸症候群の重症度は,AHIを用いて,軽症(5≦AHI<15),中等症(15≦AHI<30),重症(AHI≧30)に分類されるが,本来は,AHIの値だけでなく,臨床症状や低酸素状態の程度などを総合的に勘案して決定すべきである.
 鑑別すべき疾患では,甲状腺機能低下症と先端肥大症などの二次性の睡眠時無呼吸症候群を起こす内分泌疾患がある.ナルコレプシーなど日中過眠を呈する精神疾患も鑑別の対象となるが,PSGを行えば容易に鑑別が可能である.
治療
 睡眠呼吸障害研究会から発行された「成人の睡眠時無呼吸症候群のガイドライン」(睡眠呼吸障害研究会,2005)に示されている治療のフローチャートを図7-11-4に示す.扁桃肥大が著明で,それが明らかに閉塞型睡眠時無呼吸症候群の原因となっている場合には手術(扁桃摘出)を優先させる.小児ではしばしばこれが原因となっていることがあり,手術が著効することがある.成人では,肥満している場合が多いので,肥満しているすべての患者に減量を指導する.しかし,減量だけで閉塞型睡眠時無呼吸症候群を完全に治療するのはきわめて難しいのが実情である.治療の中心は,1)nasal CPAP(continuous positive airway pressure:NCPAP),2)口腔内装置(oral appliance:OA),3)上気道拡大術(uvulopalatepharyngoplasty:UPPP)であるが,このうち,治療の有効性が確立されているのはnasal CPAPのみである.
1)NCPAP:
NCPAPは就寝時に鼻マスクを装着し,マスクを介して空気を吸入し,空気の圧力で上気道の閉塞を防止する治療法である.適切な圧力で施行されればほぼ完全に無呼吸を予防することができる.その効果は劇的で,患者は治療翌朝から熟眠感を得ることができ,日中の過眠は消失する.NCPAPの有効性,安全性は多くの報告で明らかにされており,閉塞型睡眠時無呼吸症候群治療の第一選択である.ただ,あくまで対症療法であり,毎晩装置(図7-11-5)を装着して就寝しなくてはならないなどの問題点があるため,治療の継続をうながす努力が必要である.
 NCPAPはすべての症例に有効であるが,特に重症例ではNCPAP治療を最初に行うべきである.
2)口腔内装置:
OAは一種のマウスピースで,就寝時にこれを装着することにより下顎を前方に引き寄せ,仰臥位になったときの上気道の狭小化を防ぐ方法である.OA装着により拡大する上気道はほんの数mm単位であるが,このわずかな拡大でもいびき・無呼吸に対して有効である場合がある.NCPAPに比べ,装置が簡便・安価であるため,最近,軽症例を中心に普及しつつある.ただ,肥満が強い例や,重症例では効果が不十分であり,肥満の程度が小さい例や軽症~中等症を対象とすべきであろう.また,OAの作製は熟練した歯科医に依頼すべきである.
3)UPPP:
閉塞型無呼吸症候群の発症に上気道の形態の異常が関与することは前述した.肥満者や下顎後退症,小顎症の患者はもともと上気道が狭いため,睡眠中には上気道閉塞が起こりやすい.UPPPは,口蓋垂を切除し,咽頭部の脂肪や軟部組織を取り除いて上気道の拡大を図って閉塞型睡眠時無呼吸症候群を改善させようとする治療法である.しかし,OAと同様,上気道の形態を是正するだけのため完全に閉塞型睡眠時無呼吸症候群を予防するのは困難で,特に重症例では効果が乏しい.いびきのひどい例や,軽症~中等症例で有効な場合がある.
4)その他:
軽症例では,まず生活習慣をかえるだけで閉塞型睡眠時無呼吸症候群が改善する場合がある.肥満している例には減量させることが必須である.また,仰臥位になることが舌根部を沈下させ上気道閉塞を助長するため,側臥位で就寝させると舌根部の沈下が起こらず,いびき・無呼吸が軽快する.アルコールは,上気道筋の活動性を低下させ,いびき・無呼吸を増悪させるため就寝前の飲酒は止めさせる.睡眠薬も同様である.[赤柴恒人]
■文献
Bickelmann AG, et al: Extreme obesity associated with alveolar hypoventilation−a Pickwick syndrome. Am J Med, 21: 811-818, 1956.
Guilleminault C, Tilkian A, et al: The sleep apnea syndromes. Ann Rev Med, 27
: 465-484, 1976.厚生科学研究費補助金特定疾患対策研究事業.呼吸不全に関する調査研究(主任研究者栗山喬之).平成13年度総括研究総括書,pp146-147,
2002.睡眠呼吸障害研究会編:成人の睡眠時無呼吸症候群,診断と治療のためのガイドライン,メディカルレビュー社,東京,
2005.

睡眠時無呼吸症候群(睡眠異常)

(4)睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)
 中枢性睡眠時無呼吸症候群について説明する(閉塞性睡眠時無呼吸症候群については【⇨7-11-3)】.
定義・概念
 原因はさまざまであるが,睡眠時無呼吸症候群のうち5%くらいを占める.
原因・病因
 腎障害(代謝性アシドーシス),うっ血性心不全(化学受容器によるフィードバックの遅れ),糖尿病性自律神経障害(化学受容器への神経伝導路の障害),Shy-Drager症候群,延髄障害,Arnold-Chiari症候群(延髄呼吸機能不全),筋萎縮性硬化症,重症筋無力症などが原因となる.
病態生理
 呼吸調節に関連した代謝系で動脈血CO2飽和度(PaCO2)低下,動脈血O2飽和度(PaO2)増加,動脈血ガス変化に対する反応性の低下がみられる.
臨床症状
 自覚症状として不眠,中途覚醒や睡眠中のあえぎがみられる場合があるが,あまりはっきりした症状がみられない場合も多い.
治療
 原因疾患に対する治療を行う.[黒岩義之]
■文献
大川匡子,内山 真:睡眠障害.ダイナミック神経診断学(柴崎浩編),pp303-312,西村書店,新潟,2001.

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「睡眠時無呼吸症候群」の意味・わかりやすい解説

睡眠時無呼吸症候群
すいみんじむこきゅうしょうこうぐん
sleep apnea syndrome

睡眠障害の一つ。1976年、アメリカの精神科医ギルミノーChristian Guilleminaultらにより「7時間の睡眠中に10秒以上持続する無呼吸が30回以上認められるもの」あるいは「睡眠1時間当り5回以上の無呼吸が認められるもの」と定義された。その後、胸と腹壁の運動が50%以上減弱する低呼吸の状態も考慮に入れ、90年以降は「1時間当り10回以上の無呼吸あるいは低呼吸がある場合」にも睡眠時無呼吸症候群として取り扱われるようになった。99年にはアメリカ睡眠医学会が低呼吸も条件に入れ、診断基準の見直しと提案を行った。

 原因は閉塞(へいそく)性、中枢性、混合性の3種類に分類されている。閉塞性は口、鼻からの換気は停止するが、胸と腹壁の運動は停止しない。中枢性は呼吸中枢からの呼吸の伝達がなされない場合におこり、呼吸運動が停止し胸と腹壁の運動も停止、これに伴う口、鼻からの換気も停止した状態である。混合性は閉塞性と中枢性の呼吸運動の停止が混在している。

 無呼吸の具体的な原因として、閉塞性では鼻腔(びくう)に要因がある場合、疾患としては鼻中隔彎曲症(びちゅうかくわんきょくしょう)、アレルギー性鼻炎、慢性副鼻腔炎、肥厚性鼻炎などがある。咽頭(いんとう)に要因がある場合ではアデノイド、口蓋扁桃肥大(こうがいへんとうひだい)があり、これらの疾患はとくに小児ではいびき、無呼吸をおこしやすくする。また小顎症(しょうがくしょう)は舌根部(舌の付け根)の狭窄(きょうさく)をきたす。巨人症などホルモン分泌の異常は舌の肥大や咽喉頭(いんこうとう)の狭窄の原因となりうる。しかし、いびき、睡眠時無呼吸の重要な原因となっているのは、肥満による上気道の狭窄である。これは外見上首が太く短い人や、顎(あご)の下に脂肪がみられる人に多い。このように肥満が問題となるが、その際の肥満の指数は(BMI body mass index=体重(kg)÷身長(m)2)25以上とされている。中枢性の原因としては呼吸中枢の脳幹部の異常があげられ、また、睡眠薬、精神安定薬の大量の使用も原因となりうる。

 睡眠中の無呼吸、低酸素血症と高炭酸ガス血症の病態は高血圧、不整脈、心不全、脳血管障害、狭心症、心筋梗塞(しんきんこうそく)の発症などにも影響するといわれている。

 症状は日中に眠気、傾眠傾向が出現し仕事や学業に支障をきたす。自動車の運転中に交通事故をおこすケースもあり社会的にも問題となっている。

 診断は終夜ポリソムノグラフ(睡眠ポリグラフ)検査により、睡眠中の無呼吸の回数、血中酸素飽和度、無呼吸低換気指数、その他脳波、眼球運動、筋電図、鼻・口呼吸、胸腹壁運動などの記録をする。簡易型のアプノモニター(睡眠モニター)での検査も可能である。単位時間当りの計測値が無呼吸指数(AI)10以上、無呼吸低換気指数(AHI)20以上、最低酸素飽和度(SpO2)85%以下の場合は適切な治療が必要となる。

 治療は肥満ではまず体重の減量につとめる。睡眠中は仰臥(ぎょうが)位よりも側臥(そくが)位がよい。マウスピースの装着、経鼻持続陽圧呼吸(nasal CPAP)などの方法がある。手術は気道の狭窄部位を拡大する目的で行われ、口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(UPPP)、鼻中隔彎曲矯正術、アデノイド切除術、口蓋扁桃摘出術などが行われる。

[高山幹子]

『高山幹子著『いびきのことがよくわかる本』(1998・小学館)』『睡眠障害の診断・治療ガイドライン研究会、内山真編『睡眠障害の対応と治療ガイドライン』(2002・じほう)』

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家庭医学館 「睡眠時無呼吸症候群」の解説

すいみんじむこきゅうしょうこうぐん【睡眠時無呼吸症候群 Sleep Apnea Syndrome】

[どんな病気か]
 近年、睡眠時に苦痛を与えずに、睡眠中の呼吸運動、血液中の酸素量を示す酸素飽和度、心電図、血圧などが測定できるようになり、その結果、睡眠中に無呼吸などの呼吸異常がみられ、それによる眠けなどで、昼間の活動に大きな影響をおよぼす症候群があることがわかってきました。
 睡眠中の呼吸異常には、10秒以上の無呼吸と、3~4%以上も酸素飽和度が低くなる低呼吸(呼吸が小さくなる)とがあります。異常の程度は、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の数で表わし、それを無呼吸・低呼吸指数といいます。この指数が1時間に5回以上だと睡眠時無呼吸症候群と診断されますが、指数は年齢とともに増加するため、最近では指数が1時間に10~15回以上で、昼間の眠けなどの自覚症状をともなう場合を異常とするようになっています。
 睡眠中の無呼吸のため、血液中の酸素が不足し(低酸素血症(ていさんそけっしょう))、無呼吸の状態から呼吸が回復するときは、本人の自覚の有無にかかわらず、脳波などでみると、短時間目がさめた状態になっています。また、血圧の上昇、心拍数の上昇もみられます。
 正常者の睡眠は比較的一定していますが、睡眠時無呼吸があると一定した睡眠がとれず、昼間に眠けをもよおし、ひどい場合には、重要な会議中や、車を運転中、赤信号などで停止したときに眠りこんでしまったりします。
 また、正常な人の血圧は夜間にやや低くなりますが、無呼吸がある場合には、無呼吸の数だけ血圧の上昇と回復がくり返されます。
 睡眠時無呼吸症候群の患者さんの約40~60%に高血圧がみられ、高血圧症の患者さんの約20~30%ほどに睡眠時無呼吸がみられます。また、睡眠時無呼吸は肥満をともなう男性におこりやすいものです。
[原因]
 上気道(じょうきどう)(のど)の周囲の筋肉は、肥満などでは、目覚めているときに最大の活動をして、息を通りやすくしています。ところが、睡眠時に筋肉の活動が低下してだらんとすると、上気道の壁が振動し、いびきをかくようになります。
 そして息を吸うとき、その陰圧で上気道の壁が引き込まれ、上気道が閉じてしまうようになります。これが閉塞性無呼吸(へいそくせいむこきゅう)で、睡眠時の無呼吸の大部分はこれによるものです(図「閉塞性無呼吸のしくみと防止」)。
 無呼吸が現われるといびきは消え、呼吸が再開するといびきも復活します。
[検査と診断]
 ポリソムノグラフィーという、夜間睡眠中の脳波、呼吸、心電図などを調べる検査を行なって、無呼吸の数を調べます。この検査は人手を要するため、酸素飽和度をはかるオキシメーターなどを使って測定する場合もあります。
[治療]
 昼間の眠けが強い場合、無呼吸・低呼吸指数が1時間あたり20以上の場合、とくに脳卒中(のうそっちゅう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)などの病気を合併しやすいと考えられているため、鼻マスクを使って空気を送り込み、上気道を開通させるようにします。これを鼻連続気道陽圧呼吸(びれんぞくきどうようあつこきゅう)といいます。
 軽症の場合は、口に装具を入れ、睡眠中も上気道が開いているようにすることもあります。肥満をともなう場合には、同時に減量を行ないます。
 また、扁桃肥大(へんとうひだい)(とくに子どもに多い)、甲状腺(こうじょうせん)機能低下、末端肥大症(まったんひだいしょう)などでも睡眠時無呼吸がおこりますが、それぞれの病気の治療が重要です。

すいみんじむこきゅうしょうこうぐん【睡眠時無呼吸症候群 Sleep Apnea Syndrome】

[どんな病気か]
 睡眠中に呼吸の停止をくり返す病気で、そのために不眠(ふみん)や過眠(かみん)が生じます(「過眠症/ナルコレプシー」)。
[症状]
 睡眠中に10秒以上続く無呼吸がくり返されます。また、睡眠中にいびきが激しかったり、呼吸が不規則だったりします。
 くり返す無呼吸の結果、夜間に途中覚醒(とちゅうかくせい)が生じ、昼間は過度の眠けや集中力低下をともなうことになります。さらに、高血圧、不整脈、多血症(たけつしょう)などの合併症がみられることもあります。
[原因]
 呼吸運動そのものが停止する場合、その運動を支配する脳の呼吸中枢が活動を停止すると考えられ、中枢性睡眠時無呼吸(ちゅうすうせいすいみんじむこきゅう)と呼ばれます。また、呼吸運動は保たれているのに口・鼻孔(びこう)の気流が停止する場合は、上気道(じょうきどう)の閉塞(へいそく)が考えられ、閉塞性睡眠時無呼吸(へいそくせいすいみんじむこきゅう)と呼ばれます。両者がともに出現するものは混合型と呼ばれます。
 中枢性の原因には、脳幹の病気(血管障害、感染、腫瘍(しゅよう)、変性疾患など)や心臓の病気などがあり、閉塞性の原因には、肥満、鼻・口・のどなどの気道の狭窄(きょうさく)、睡眠薬やアルコールの影響などがあります。
[検査と診断]
 睡眠ポリグラフィ(コラム「睡眠ポリグラフィ」)によって、一晩の睡眠中にレム睡眠、ノンレム睡眠を通して、10秒以上の無呼吸が1時間に5回以上出現する場合に診断されます。
[治療]
 原因となる病気の治療が重要です。また、薬物療法としてアセタゾラミド薬や三環系抗うつ薬の服用、物理化学的療法として酸素吸入や歯科矯正具(しかきょうせいぐ)の使用、外科的療法として気道の狭窄部位を広げる手術などが行なわれます。
 日常生活では、適量以下の飲酒、肥満の解消に努めましょう。

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百科事典マイペディア 「睡眠時無呼吸症候群」の意味・わかりやすい解説

睡眠時無呼吸症候群【すいみんじむこきゅうしょうこうぐん】

いびきにともなう睡眠障害で,寝ている間に何度も呼吸が停止する病気。いびきの原因は,のどや鼻の奥の筋肉や組織が気道に垂れ下がり,呼吸でふるえて音が出ることにある。この病気では,垂れ下がった部分が完全に気道をふさいで窒息状態になる。10秒以上継続する窒息が7時間あたり30回,または1時間で5回以上生じると,睡眠時無呼吸症候群と診断される。最近では,完全に気道をふさがなくても,気道が狭くなって換気が悪くなる状態も呼吸障害として扱い,睡眠呼吸障害と総称されることが多い。 原因としては,アデノイド扁桃(へんとう)肥大,舌の変形のほか,肥満や脳血管障害,重症筋無力症でも起きる。 この病気は何度も睡眠が中断されるので,眠りが浅く,昼間でもたまらなく眠くなる。また,呼吸不全のため心筋梗塞不整脈になったり,酸素が不足するため心臓や肺の働きが悪くなり,高血圧狭心症のリスクも高くなる。 治療法は原因によってさまざまで,のどや舌の組織を切除したり,気道を拡大する手術をするほか,鼻から空気を送りこむ鼻マスク療法,いびき防止用のマウスピースを口にはめて寝る,肥満であればダイエットをするなど。 米国では睡眠時無呼吸症候群による死者が年間3万8000人におよぶ。日本では大阪市の大阪回生病院・睡眠医療センターによると,同センターの患者のうち56%を睡眠呼吸障害が占めている。→気道確保

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「睡眠時無呼吸症候群」の意味・わかりやすい解説

睡眠時無呼吸症候群
すいみんじむこきゅうしょうこうぐん
Sleep Apnea Syndrome; SAS

睡眠障害の一つで,平均7時間の睡眠中に 10秒以上の呼吸停止を 30回以上繰り返す,あるいは睡眠1時間あたり平均5回以上の無呼吸がある症状をさす。中年以上の太りぎみの男性に多く,激しいいびきが特徴である。肺,心臓への負担は大きく,呼吸器系,循環器系疾患の原因になるほか,睡眠が浅くなるため昼間でも眠気を覚える。呼吸中枢に異常がある中枢型,舌の根もとが落ち込むように上気道がふさがれて起こる閉塞型,両方が原因の混合型がある。治療としては,利尿剤などの薬物投与,手術で気道を広げる,特殊なマスクを着用する,などがある。閉塞型に対してはマウスピースを用いた簡便で効果の高い治療法が注目を集めている。

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