低血圧(読み)テイケツアツ

デジタル大辞泉 「低血圧」の意味・読み・例文・類語

てい‐けつあつ【低血圧】

血圧が持続的に異常に低い状態。一般に、最大血圧100ミリ水銀柱以下をいう。→高血圧

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精選版 日本国語大辞典 「低血圧」の意味・読み・例文・類語

てい‐けつあつ【低血圧】

  1. 〘 名詞 〙 一般に成人で最大血圧が一〇〇ミリ水銀柱に達しないものをいう。医学的には血圧が低くて、動脈血が十分に臓器に循環しにくい状態をいう。原因としては心臓の駆出力の低下、循環血液量の低下および末梢血管の抵抗の減退の三種がある。
    1. [初出の実例]「青い顔をして寝ていました、低血圧もあるんですって」(出典:解体の日暮れ(1966)〈杉浦明平〉二)

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EBM 正しい治療がわかる本 「低血圧」の解説

低血圧

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 低血圧は、高血圧に比べて研究の進んでいない分野といえます。それは、重症の感染症や副腎(ふくじん)の著しい機能低下といった病気が誘発する低血圧を除けば、長期的にも短期的にも命にかかわる可能性が低いからです。
 血圧は人によってばらつきがあるため、低血圧の定義は決まってはいませんが、おおむね収縮期血圧が90mmHg以下のことを指します。先ほど挙げたような命にかかわる病気を合併した場合、めまいやふらつきなどの症状がある場合に、治療の対象となります。
 低血圧には、ほかの病気が原因でおこる症候性(二次性)低血圧と、原因のはっきりしない本態性(ほんたいせい)低血圧、立ち上がったときに急に血圧が低下して気分不良やふらつきをおこす起立性低血圧、食事に伴って突然、血圧が下がる食後低血圧などがあります。
 低血圧の人のなかには、不眠や不安、緊張などがあって、朝起きるのが苦痛で、午前中はずっと気分がすぐれないという症状を訴える人もいます。ただ、これらは低血圧で必ずみられるものではなく、人によって症状が異なります。また、血圧値と症状が必ずしも関連しないこともあり、季節的な変動も見られます。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 重症の病気に合併する低血圧は、体を循環する血液量が減って臓器に対する血流が低下するために生じます。健康で単に血圧だけが低いという人は、その状況に慣れていることもあって、大きな健康被害に至らないことも少なくありません。
 起立性低血圧や食後低血圧は、自律神経の働きが悪く、血圧調節がうまく機能しないためにおこると考えられています。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

[治療とケア]低血圧の原因を知る
[評価]☆☆
[評価のポイント] 血圧が低い原因を知ることは、治療を行うかどうかを決定する際に非常に重要です。重症の感染症や出血などの結果としておこっているのであれば、すぐに治療を始める必要があります。起立性低血圧はパーキンソン病や糖尿病、薬剤などが原因でおこっている可能性があります。

[治療とケア]生活習慣を改善する
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] ゆっくり起き上がる、水分をこまめに摂取する、頭を少し上げて寝る、弾性ストッキングを着用するなど、生活習慣の改善によって起立性低血圧を改善させる試みが行われていますが、いずれも小規模な臨床研究で有効性が示されたにすぎず、大規模な臨床研究による検討はまだなされていません。(1)(2)

[治療とケア]運動をする
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 定期的な運動は、起立性低血圧の原因となっている自律神経の機能障害を改善させるという臨床研究があります。(3)

[治療とケア]食事の調整を行う
[評価]☆☆
[評価のポイント] 有効性を示す臨床研究は見あたりませんが、食事量を少なめにする、アルコールの摂取をできるだけ減らすといった方法が、食後低血圧を改善させると考えられています。

[治療とケア]昇圧薬や副腎皮質ステロイド薬を用いる
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 薬物療法以外の治療で症状が十分改善しない場合、血圧を上げる昇圧薬や副腎皮質ステロイド薬などの薬物療法が考慮されます。(4)~(6)


よく使われている薬をEBMでチェック

昇圧薬
[薬名]メトリジン(ミドドリン塩酸塩)(4)
[評価]☆☆☆☆☆
[評価のポイント] 非常に信頼性の高い臨床研究によって、症状を改善することが確認されています。

副腎皮質ステロイド薬
[薬名]フロリネフ(フルドロコルチゾン酢酸エステル)(5)(6)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 体内に水分を貯留させることによって血圧を上昇させる効果があるという臨床研究があります。フルドロコルチゾン酢酸エステルは合成された鉱質コルチコイドですが、浮腫や心不全といった副作用も高頻度に認められるため、注意が必要です。


[薬名]エリスロポエチン(7)
[評価]☆☆☆
[評価のポイント] 貧血を合併した起立性低血圧に使用され、効果があったという報告があります。


総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まずは低血圧の原因を探る
 病気や薬の服用が原因で低血圧がおこることもあります。そこで低血圧の診断では、感染症やパーキンソン病糖尿病、心臓病、副腎皮質不全といった病気が隠れていないか、あるいは降圧薬や利尿薬などによっておこったものではないか、その原因を慎重に調べる必要があります。
 なんらかの病気がある場合には、その病気の治療をすることで低血圧も治癒する可能があります。低血圧の原因が見つからない場合は、低血圧によっておこる症状の改善が主体になります。

生活上の工夫も大切
 運動、塩分と水分の摂取を多めにすること、頭をやや高くして寝ることなどが勧められます。

昇圧薬などを投与することも
 生活改善などで症状が十分に改善しないときは、薬物療法が行われます。まずは昇圧薬のメトリジン(ミドドリン塩酸塩)を試し、それでも生活に支障があればフロリネフ(フルドロコルチゾン酢酸エステル)を用います。

(1)Wieling W, Raj SR, Thijs RD. Are small observational studies sufficient evidence for a recommendation of head-up sleeping in all patients with debilitating orthostatic hypotension? MacLean and Allen revisited after 70 years. ClinAuton Res. 2009;19:8-12.
(2)Podoleanu C, Maggi R, Brignole M, et al. Lower limb and abdominal compression bandages prevent progressive orthostatic hypotension in elderly persons: a randomized single-blind controlled study. Am CollCardiol. 2006;48:1425-1432.
(3)Carroll JF, Wood CE, Pollock ML, et al. Hormonal responses in elders experiencing pre-syncopal symptoms during head-up tilt before and after exercise training. J Gerontol A BiolSci Med Sci. 1995;50:M324-M329.
(4)Low PA, Gilden JL, Freeman R, et al. Efficacy of midodrine vs placebo in neurogenic orthostatic hypotension. A randomized, double-blind multicenter study. Midodrine Study Group. JAMA. 1997;277:1046.
(5)Campbell IW, Ewing DJ, Clarke BF. 9-Alpha-fluorohydrocortisone in the treatment of postural hypotension in diabetic autonomic neuropathy. Diabetes. 1975;24:381-384.
(6)Hussain RM, McIntosh SJ, Lawson J, et al. Fludrocortisone in the treatment of hypotensive disorders in the elderly. Heart. 1996;76:507-509.
(7)Hoeldtke RD, Streeten DH. Treatment of orthostatic hypotension with erythropoietin. N Engl J Med. 1993;329:611-615.

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家庭医学館 「低血圧」の解説

ていけつあつしょう【低血圧(症) Hypotension】

◎大きく3つに分けられる
[どんな病気か]
 いつ測っても、血圧が基準値(図「日本高血圧学会の定義」)よりも低い状態が低血圧ですが、どの数値以下を低血圧というかは、まだ、はっきりとした定義がありません。
 日本では、最高血圧が100mmHg以下、最低血圧が60mmHg以下のどちらかか、両方を示した場合に低血圧という医師が多いようです。
●低血圧の種類
 低血圧は、いろいろに分類されていますが、低血圧をおこす病気が存在しないのにおこる本態性低血圧(ほんたいせいていけつあつ)、病気が存在し、その症状の1つとしておこる症候性低血圧(しょうこうせいていけつあつ)、立った姿勢のときにおこる起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)の3つに分けるのがわかりやすいでしょう。
本態性低血圧(ほんたいせいていけつあつ)(低血圧(ていけつあつ))
【英】Essential Hypotension
 血圧を低くする病気が存在しないのにおこっている低血圧で、単に低血圧といった場合は、この本態性低血圧をさすのがふつうです。
 低血圧になりやすい遺伝的な体質のためにおこると考えられていて、体質性低血圧(たいしつせいていけつあつ)と呼ぶこともあります。
●症状
 頭痛・頭重(ずじゅう)・めまい・立ちくらみ・肩こり・不眠・集中力の低下などの脳神経症状、動悸(どうき)・息切れ・脈が速い・不整脈などの心臓の症状、食欲不振・胃のもたれ・下痢(げり)・便秘・胸やけなどの胃腸症状など、訴える症状は人によってさまざまです。
 症状が1つだけの人もいれば、いくつかの症状を同時に訴える人もいます。また、まったく症状のない人も少なくありません。
●治療
 症状がなければ、治療の必要はありません。低血圧の人は、無病息災で長生きする人が多いのです。
 症状があって、ふだんの生活に苦痛を感じる人は、まず、生活のしかたをチェックし、つぎのような注意を守るように心がけてみましょう。
①規則正しい生活を心がける
 人間のからだは、一定のリズムで活動しています。このリズムを無視した生活をすると、症状を感じやすくなります。
 食事、起床、就寝などは、毎日、決まった時間にするようにしましょう。
 過労、寝不足も避けましょう。
②食事は、栄養豊富なものを
 食事は、たんぱく質の多い食品とビタミン、ミネラルの豊富に含む野菜、果物を多めにとるようにします。
 食事の回数は、1日3回が基本ですが、胃腸症状が出て一度にたくさん食べられない人は、量を減らして食事の回数を4回にするといいでしょう。
 1日2回の食事、とくに朝食を抜くのは、よくありません。
 胃腸症状に悩まされる人は、食後、30分くらい、右を下にした姿勢で横になると症状がおこりにくくなります。
③運動を心がける
 運動をすると、血液のめぐりがよくなり、気分転換にもなって症状を感じにくくなります。
 ときどき、できれば毎日、運動をするようにしましょう。運動は、自分に合うものであれば何でもいいのですが、気分転換という意味では、楽しい仲間とできるものがいいでしょう。
●薬物療法
 どうしても症状に悩まされる人は、内科の医師に相談しましょう。
 抗不安薬(マイナートランキライザー)や血圧上昇薬の服用で、症状がやわらぐこともあります。また、漢方薬が効果のある人もいます。
症候性低血圧(しょうこうせいていけつあつ)
【英】Symptomatic Hypotension
 病気があって、その症状としておこっている低血圧で、原因となる病気には、つぎのようなものがあります。
 心血管(しんけっかん)の病気 心筋梗塞(しんきんこうそく)、心(しん)タンポナーデ、肥大型閉塞性心筋症(ひだいがたへいそくせいしんきんしょう)、不整脈(ふせいみゃく)、大動脈狹窄症(だいどうみゃくきょうさくしょう)など。
 肺の病気 肺塞栓(はいそくせん)、肺性心(はいせいしん)など。
 ホルモンの病気 甲状腺機能低下症(こうじょうせんきのうていかしょう)、アジソン病など。
 薬剤の使用 降圧薬、抗不整脈薬、抗アレルギー薬など。
 その他 がんなどの病気にともなう低栄養状態、寝たきり状態など。
●治療
 原因となる病気を治療し、治れば血圧も正常にもどります。
 しかし、低血圧が残り、血圧上昇薬の服用が必要になることもあります。
起立性低血圧(きりつせいていけつあつ)
【英】Orthostatic Hypotension
 急に立ち上がったり、長時間、立ち続けていたりしたときに、最高血圧が20mmHg以上、最低血圧が10mmHg以上低下する状態を起立性低血圧といいます。
 立っていると、地球の重力の作用で、血液は下半身のほうへ引っ張られ、上半身を流れる血液は減少するはずですが、自律神経が下半身の血管を収縮させ、上半身に十分な量の血液が流れるように調節しています。
 この調節機構に障害が生じると、めまい、立ちくらみがおこります。
 進行した動脈硬化(どうみゃくこうか)をもつお年寄りに起立性低血圧がおこると、それをきっかけとして、脳梗塞(のうこうそく)、一過性虚血性発作(いっかせいきょけつせいほっさ)、狭心症(きょうしんしょう)、心筋梗塞(しんきんこうそく)、不整脈(ふせいみゃく)などを誘発することもあります。
●原因
 糖尿病による自律神経障害シャイ・ドレーガー症候群(しょうこうぐん)が起立性低血圧をおこす代表的な病気ですが、そのほか、脊髄癆(せきずいろう)、パーキンソン症候群(しょうこうぐん)、大動脈弁狭窄症(だいどうみゃくべんきょうさくしょう)、僧帽弁狭窄症(そうぼうべんきょうさくしょう)、アジソン病、副腎機能不全(ふくじんきのうふぜん)などの病気が原因になります。また、降圧薬や精神安定剤の服用でおこることがあります。
 このように、原因のはっきりしているものを症候性起立性低血圧(しょうこうせいきりつせいていけつあつ)、いくら調べても原因の見つからないものを特発性起立性低血圧(とくはつせいきりつせいていけつあつ)といいます。
●治療
 症候性起立性低血圧は、病気を治療するなど、原因を取り除けばおこらなくなります。
 特発性起立性低血圧は、急に立ち上がったり、長時間、立ち続けたりしないようにします。
 症状がおこったら、からだを横にして寝ていれば、たいていは数分で血圧が正常にもどり、症状も治まります。

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六訂版 家庭医学大全科 「低血圧」の解説

低血圧
ていけつあつ
Hypotension
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 診療で低血圧という場合は、外傷や出血で血圧が急性に低下した場合などを除いて、収縮期(しゅうしゅくき)血圧(上の血圧)が100㎜Hg以下の状態を指すことが多く、拡張期(かくちょうき)血圧(下の血圧)は考慮に入れないことが通常です。

 血圧が低いことだけでは低血圧症とは呼ばず、立ちくらみ、めまい、全身倦怠感(けんたいかん)、疲れやすい、頭痛、耳鳴り動悸(どうき)、むかつき、食欲不振、起床困難などの不愉快な症状がある時に、低血圧症として治療の対象になります。低血圧であっても症状がなく、臓器循環(ぞうきじゅんかん)障害もなく、病的な意義の少ない時は体質性低血圧と呼んで区別します。

 低血圧自体は予後がよく、若い時から低血圧の人は長寿の傾向があるのですが、高齢になって若いころと比較して低血圧となり、いろいろな不快な症状が出てきた場合には、重い病気が原因になっている可能性もあるので、かかりつけ医に相談してください。

起立性(きりつせい)低血圧

 起立性低血圧は、低血圧症の症状としてよくみられるものです。立ち上がった時に、立ちくらみ、めまい、時には失神(気を失う)などを含む重い症状を現すことがあり、臨床的には重要な病態です。

 通常、立ち上がる時には下肢の静脈系に血液がたまり、心拍出量が減少して血圧が低下しますが、いろいろな代償機転がはたらき、心臓が送り出す血液の量が瞬時に増し、さらに血管が収縮して血圧が維持されます。この代償機転がうまくはたらかない時に、起立性低血圧を起こします。この時、脳に行く血液が一時的に減少することにより、前記のさまざまな症状が現れます。

 起立性低血圧は、原因が不明の本態性(ほんたいせい)低血圧症の時にもみられます。しかし、中枢神経系、自律神経系、末梢神経などの神経疾患、心不全などの心疾患や、出血、貧血、脱水などで循環している血液の量が減少した時にも起こるので、詳しい検査と適切な治療が必要になります。

 本態性(ほんたいせい)高血圧の場合にも、普段の血圧は高いのに、起立性低血圧が起こることがあります。この原因としては、とくに高血圧のお年寄りでは、自律神経のはたらきが鈍って立ち上がった時の血圧調節がうまくいかないことがあげられます。

 降圧薬によって血圧のコントロールがよくなると、起立性低血圧もおさまることが多いのですが、逆に、血圧コントロールが低くなりすぎても起立性低血圧を起こすことがあるので、降圧薬の量をかかりつけ医にうまく調節してもらう必要があります。

治療とケアのポイント

 お年寄りの場合、低血圧であっても特別な原因が見つからず、従来とほぼ同じ高さの血圧でとくに症状がなく、あるいは症状があっても軽い時は、治療の必要はありません。低血圧の治療の目的は単に血圧を上げるのではなく、症状を改善して生活の質(QOL)を向上することにあります。

 治療の基本は一般療法です。たとえば運動療法(軽い運動、理学療法)、食事療法(塩分を多めに摂取する、高蛋白食など)や、乾布摩擦(かんぷまさつ)などを行います。

 起立性低血圧は、寝ている状態から立つ際に動作をゆっくり行ったり、あるいはいったん座位をとるように心がけることによって、ある程度予防できます。下肢に血液がたまることを防ぐ、弾力ストッキングの着用が有効な場合もあります。

 このような一般療法では効果がみられず、症状が強くてQOLの低下がみられる時には薬物治療を行います。薬剤としては、交感(こうかん)神経(緊張を高める神経)を刺激する薬を用いて血圧を上げます。

 あるいは、体のなかに水やナトリウム(塩分)をためて、循環している血液の量を増やして血圧を上げる作用のあるミネラルコルチコイド製剤を用いることもあります。そのほか、自律神経調節薬や精神安定薬が有効な場合もあります。

 また、降圧薬の過量投与に伴う起立性低血圧では、降圧薬の量をうまく調節することが必要です。お年寄りでは、白衣高血圧(はくいこうけつあつ)といって医師が血圧を測る時だけ高値を示すことも多いので、家庭で血圧を測定することが、降圧薬の量を決める時に参考になります。さらに、降圧薬の種類では、循環血液量を減らす利尿薬(りにょうやく)や、交感神経の反射を低下させるα(アルファ)遮断薬などにより起立性低血圧がみられることがあります。

 いずれにしても、お年寄りでは急な降圧を避けることが大切です。降圧薬は少量から始めて徐々に増量することが必要なので、そのためにはかかりつけ医に日常の様子や家庭での血圧を知らせることが重要になります。

三上 洋

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食の医学館 「低血圧」の解説

ていけつあつ【低血圧】

《どんな病気か?》


〈不快な症状がみられる、女性に多い本態性低血圧〉
 低血圧とは、収縮期血圧(最大血圧)が100mmHg以下、または最低血圧が60mmHg以下の場合をいいます。
 しかし、同じ低血圧でも原因によって分類され、心疾患や肺疾患、内分泌異常(ないぶんぴついじょう)など、原因疾患が明らかな場合を二次性低血圧といいます。
 女性に多くみられるのは本態性低血圧(ほんたいせいていけつあつ)で、二次性低血圧のように原因となる疾患はなく、体質的または遺伝的な素因によって起こるものです。
 その場合には、朝起きられない、集中できない、やる気が起きないなどの感情の不安定のほか、倦怠感(けんたいかん)やめまい、耳鳴り、頭重(ずじゅう)、冷え、食欲不振など、不快な症状をともなうこともあります。
 また、本態性低血圧は一般に、病院での治療の必要はないと診断されます。
 それよりもむしろ、日常生活において、規則正しい生活や適度な運動と休養を心がけ、バランスのとれた食事をすることで、改善させることもできます。

《関連する食品》


〈たんぱく質、鉄分、ビタミンAで体力を養い、活力もアップ!〉
○栄養成分としての働きから
 食生活で気をつけたいことは、十分な量の各栄養素を積極的に摂取するということです。
 また、各種栄養素を含む食べものを多くとるということもたいせつです。
 なかでもたんぱく質を多く含む食べものは滋養が豊かで、体力を養うには欠かせません。
 とくに納豆は高たんぱく食品の代表格で、ほかのダイズ類よりも消化がいいため、少しずつとりたい食品です。
 同様に、ホタテの貝柱やたまごのように消化されやすく口あたりのやわらかいものや、DHA(ドコサヘキサエン酸)の多く含んでいるブリなどの青背の魚も積極的にとりたい食品です。これらは、血行をよくし、体力や気力を回復させるのにも効果的です。
 エネルギー補給とビタミン・ミネラル補給に役立つのが、アーモンドや落花生、クルミ、カボチャの種などのナッツ類です。ただし、カボチャの種は1日約10~11個にとどめましょう。
 これらの食品には、カルシウムやマグネシウム、鉄などのミネラルが豊富に含まれているだけでなく、たんぱく質やビタミンなどもたくさん含まれています。
 また疲れやすくて体力がないという低血圧の人は、消化吸収されやすいヨーグルトなどの乳製品もおすすめです。
 低血圧による冷えなどの対策としては、体をあたためることもたいせつです。
 その点では、ビタミンEを多く含み、栄養価も高く、消化されやすいでんぷん質も含んだカボチャなどが最適です。
 ほかに、ニンニクやネギも体をあたためる効果があります。また、ニンニクに含まれるスコルジンは、疲労回復、滋養強壮にも効果を発揮します。
〈クワ、ナツメは予防に、クコは改善に働く〉
○漢方的な働きから
 クワの実やナツメ、クコを漬け込んだ酒は低血圧に効果があるといわれています。
 とくに、クワの実とナツメは予防に、クコは改善に効果的なので、使い分けるといいでしょう。
 これらは低血圧だけでなく、滋養強壮効果もありますので、低血圧の予防改善だけでなく、低血圧にともなって起こる不快な症状の改善にも役立ちます。
 同様に、煎じて飲むと効果があるのがゲンノショウコです。ゲンノショウコはもともとは整腸作用があるものとして知られていますが、体をあたためる働きもあるために、胃腸虚弱タイプの低血圧にも効果があります。
 貧血をともなった低血圧である場合には、キンシンサイがおすすめです。キンシンサイはニッコウキスゲやホンカンゾウという植物の花蕾を乾燥させたものです。キンシンサイには、ホウレンソウの20倍もの鉄分を含みます。
 野菜や肉類と煮込んだりスープにして食べます。
 このほか、人参(にんじん)、地黄(じおう)、当帰(とうき)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、白朮(びゃくじゅつ)、川芎(せんきゅう)も低血圧に効果のある生薬として漢方では用いられています。
○注意すべきこと
 野菜ならキャベツやキュウリ、トマト、ダイコンなど、くだものならナシや柿、スイカなどは避けたい食品です。
 またビタミンを多く含む緑黄色野菜も、なるべく火を通して食べるようにしましょう。

ていけつあつ【低血圧】

《どんな病気か?》


 一般的に、最高血圧が100mmHg以下の場合を低血圧と呼んでいます。朝起きるのがつらい、根気がない、すぐ疲れる、肩こり、食欲不振など、訴える症状は人さまざまです。
 とくに血圧を下げる病気がない場合は、体質的なものです。血圧が低いほうが血管のいたみも少ないし、無理もきかず、具合が悪くてもがんばり病気をこじらせることもないと、プラスにとらえる人もいます。

《関連する食品》


〈レバーや赤身の魚の鉄分は吸収がよい〉
○栄養成分としての働きから
 症状を緩和する食事のポイントは、たんぱく質の多い食品とビタミン、ミネラルの豊富な野菜、くだものを多めにとることです。低血圧で貧血症の人は、赤血球(せっけっきゅう)の構成成分をつくる鉄は欠かせません。レバーや、マグロなど赤身の魚のヘム鉄はとくに吸収がよいのでおすすめです。
 朝食抜きはもってのほかで、たんぱく質、鉄ともに多く含むたまごや納豆を食べるようにしましょう。また、鉄の吸収率を上げる作用のあるビタミンCをあわせてとると効果的です。イチゴ、オレンジなどの柑橘類(かんきつるい)、キウイなど、ビタミンCを多く含むくだものやジュースを毎朝のメニューに加えるといいでしょう。
 また、血管の収縮作用がある食品として、ホウレンソウ、サンショウ、ゴマなどがあげられています。
○漢方的な働きから
 夏摘みのヨモギを干したものを、1日20g煎(せん)じて、お茶がわりに飲みます。中国野菜であるキンシンサイを、油炒めや汁ものでとりましょう。

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改訂新版 世界大百科事典 「低血圧」の意味・わかりやすい解説

低血圧 (ていけつあつ)
hypotension

正常血圧より低い血圧の状態で,最大血圧が100~110mmHg以下の場合をいう。

低血圧は,本態性低血圧,症候性低血圧,起立性低血圧に分類される。(1)本態性低血圧は原因不明のもので,一般にいわれている低血圧の代表であるが,体質性と考えられ,神経質で自律神経失調をみとめる人に多い。(2)症候性低血圧は,他の病気が原因で血圧が低下した場合にみられ,このなかには急激に低血圧になるもの(出血やショックなど)と,慢性的に血圧が低下するもの(癌や白血病,アディソン病など)が知られている。(3)起立性低血圧は体位性低血圧とも呼ばれ,体位変換の際に血圧を調節する自律神経の働きが障害されて起こる低血圧で,起立時に血圧の低下が現れるのが特徴である。そこで起立時に最大血圧が20mmHg以上下降するものを起立性低血圧としている。起立性低血圧には,原因の明らかな症候性のものと原因不明の特発性のものとがあり,症候性の原因となる病気としてパーキンソン病,脳血管障害,糖尿病などが知られている。

血圧の低下は心臓収縮力の減退,心拍出量の低下,循環血液量の減少,末梢血管抵抗の減少などが関与する。そのほか,外因として温度,環境,食物,風土なども血圧が低くなる現象と関連があり,内因として遺伝関係もみとめられている。

低血圧に悩む人の訴えはさまざまであるが,めまい,立ちくらみ,疲労感,だるさ,頭痛,肩こり,動悸,目の疲れ,食欲減退などの症状を訴えることが多く,健常者に比べてスタミナがなく,すぐ疲れてぐったりしやすい特徴があり,これらの自覚症状は夏季に増悪しやすく,かつ血圧も夏季に低下しやすい。起立性低血圧では,ひどい場合には気分が悪くて立っていると倒れそうになり(失神傾向),また疲労や倦怠が現れやすく,そのような状態が続くと仕事の能率が低下したり,思考力が鈍ったりすることがある。

血圧が正常より低くても,一般に症状の訴えのないものは治療の対象にならない。症候性のものについては原病に応じた療法を行う。本態性低血圧では,栄養面の管理として偏食を避け,かつ食事は規則的に摂取し,カロリー不足にならないように留意し,栄養素のバランスもくずれないように配慮するとよい。三大栄養素とともにビタミンやミネラルも十分に摂取する。さらに適度の運動で体を鍛えることは,栄養をつけることと関連して重要で,とくに皮膚のマッサージ,乾布摩擦により皮膚を鍛えるとよい。また心身のリラックスを図るくふうも必要である。起立性低血圧に対しては薬物として昇圧剤を使用する治療が適し,本態性低血圧では自律神経調整剤や精神安定剤が症状の軽減に役立つことが少なくない。なお低血圧は症状が貧血のそれと似ているが,貧血はまったく別の病気である。
血圧
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内科学 第10版 「低血圧」の解説

低血圧(血圧の異常)

定義・概念
 低血圧とは,収縮期血圧100 mmHg以下の場合を指し,拡張期血圧は通常問題にされない.高血圧には国際的な基準が存在するが,低血圧には明確な基準がないのが実状である.欧米の医学論文でも以下に述べる起立性低血圧,食事性低血圧などに関するものが中心となっており,症状のないいわゆる体質性低血圧は問題にされないことが多い. 低血圧の出現頻度は全年齢層では1.5~7%,性別では男性で0.5%前後,女性で2%前後とされており,愁訴や症状のみられる症例は約10%程度とされている.
分類
 病因,発症および経過,症状の有無などにより表6-4-1のように分類される.病因による分類では,本態性低血圧と症候性(二次性)低血圧,経過による分類では急性,慢性および一過性低血圧に分類される.単に血圧が低い状態は体質性低血圧として区別され,病的意義は乏しい.
 急性低血圧は通常ショックを意味する.慢性に低血圧をきたす疾患としては大動脈弁狭窄,不整脈,収縮性心膜炎などの心疾患,Addison病,下垂体前葉機能低下症,甲状腺機能低下症などの内分泌疾患,Shy-Drager症候群,Parkinson病,糖尿病性神経症などの神経疾患,血液透析中など循環血漿量の低下する病態や薬剤性などがあげられる.
 一過性の低血圧としては起立性低血圧と食事性低血圧が代表的であり,特に高齢者においてその頻度が高い. 低血圧と高血圧は相互に関連しあう場合もある.すなわち,神経原性起立性低血圧における反跳性高血圧や夜間臥位高血圧,高血圧における起立性低血圧,高血圧治療における低血圧の出現などがその例である. 起立性低血圧とは臥位または坐位から起立時3分以内に収縮期血圧で20 mmHg,拡張期血圧で10 mmHg以上低下する場合と定義される.tilt-tableを用いた受動的な起立試験(head up tilt test)を診断に用いる場合もある.起立性低血圧は年齢とともに増加し,65歳以上では約20%,75歳以上では約30%に認められるといわれている.[佐藤伸之・長谷部直幸]
■文献
稲葉宗通,野口雄一,他:低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp120-123, 2007.
中村由紀夫,大倉誓一郎,他:起立性低血圧.日本臨牀,循環器症候群Ⅰ,pp124-127, 2007.
高橋 昭監修,長谷川康博,古池保雄編:食事性低血圧,南山堂,東京,2004.

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百科事典マイペディア 「低血圧」の意味・わかりやすい解説

低血圧【ていけつあつ】

最高血圧(収縮期血圧)100mmHg,最低血圧(拡張期血圧)60mmHg以下の座位上腕動脈圧を示す状態。体質的な本態性低血圧と,アディソン病粘液水腫,シモンズ病や心臓病悪性腫瘍(しゅよう)などのために二次性に起こる続発性低血圧とがある。疲れやすい,頭が重い,肩がこる,立ちくらみ,動悸などの訴えが多い。→高血圧
→関連項目血圧

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栄養・生化学辞典 「低血圧」の解説

低血圧

 収縮期血圧が普通の人より特に低い状態.

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世界大百科事典(旧版)内の低血圧の言及

【血圧】より

…血圧は一般に上腕で測定するが,血圧は場所によっても違い,下肢の血圧は上肢のそれよりも20~30mmHg高いのが普通である。
[高血圧と低血圧]
 血圧は一般に精神的緊張によって上昇し,外来ではじめて医者に測ってもらうときの血圧は,2回以後に測ってもらう血圧よりも高く,病院で測った血圧よりも家庭で測った血圧のほうが低いのが普通である。正常人でも,一過性の血圧上昇はしばしばみられるので,高血圧と診断するには,1回だけの血圧測定によるのではなく,くり返し血圧を測定し,高い血圧がある程度持続することを確認することが必要である。…

【血管運動中枢】より

…脳幹の橋の下部から延髄上部に分布する延髄網様体に存在し,全身の血管を支配している収縮性交感神経へインパルス信号を送り,常時血管の緊張性や収縮性を制御している。したがって,この中枢が破壊されると,大部分の収縮性交感神経の活動が消失し,血管の緊張性の低下と拡張により低血圧が発生する。中枢の内部構造はよく解明されていないが,電気刺激の効果から機能的に昇圧と減圧の二つの領域に大別される。…

※「低血圧」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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