日本大百科全書(ニッポニカ) 「パーキンソン症候群」の意味・わかりやすい解説
パーキンソン症候群
ぱーきんそんしょうこうぐん
parkinsonism
錐体(すいたい)外路症状である筋硬直、振戦(しんせん)(ふるえ)、寡動(動きがにぶく少ない)を特徴とするパーキンソン病とそれにきわめて類似した状態の総称、あるいはパーキンソン病に類似した状態だけをさす。
[海老原進一郎]
定義
1817年、イギリスの医師パーキンソンJames Parkinson(1755―1824)は、筋硬直、振戦、寡動の三つの症状で特徴づけられる原因不明の病気を初めて明らかにし振戦麻痺(まひ)とよんだが、今日ではパーキンソン病といわれることのほうが多い。これに対してその後、この病気にきわめて類似した状態が、嗜眠(しみん)性脳炎、脳動脈硬化症、薬物・一酸化炭素・マンガン・シアン化合物などの中毒、脳腫瘍(しゅよう)、頭部外傷、梅毒などによっても引き起こされることがわかってきた。これらを含めて筋硬直、振戦、寡動などの症状が種々の組合せで出現する状態がパーキンソン症候群またはパーキンソニズムである。原因不明の振戦麻痺(パーキンソン病)は、このなかに含まれる場合と含まれない場合がある。全体を一括してパーキンソン症候群とする立場では、パーキンソン症候群は本態性(特発性)と症候性(二次性)に分けられる。これらのうち、もっとも頻度が高いのは本態性パーキンソン症候群、すなわち狭義のパーキンソン病で、その有病率は日本では人口10万当り100~150人とされており、欧米では150~200人とされる。
[海老原進一郎]
症状と治療
パーキンソン病は一般にゆっくりと進行し、やがて介助が必要となり、臥床生活に至ることが多い。ただし、病状の進み方には大きな個人差がある。現時点では、原因は不明であり、病期の進行を止めたり根本的に治癒させる治療法はないが、進行を遅らせたり症状を改善する目的の薬物療法など対症療法が行われる。日本神経学会による治療ガイドラインが提示されており、おもにL-ドーパとドーパミンアゴニストが基本薬として用いられる。とくにL-ドーパは、脳内(線状体)で不足しているドーパミンを補充する治療法で、もっとも顕著な効果がみられ、パーキンソン病治療の主軸として長期にわたって用いられる。しかし、L-ドーパも長期間服用していると効果が落ち、精神症状や不随意運動などの副作用を起こすこともある。薬剤は、効果がある反面、副作用や禁忌もあるので、それぞれの場合に応じた使い分けが必要である。
前述のような原因不明のパーキンソン病に対して、症候性パーキンソン症候群では病気の経過や治療法が、原因とみなされる病気によってさまざまである。症候性パーキンソン症候群(パーキンソニズム)のうち、とくに重要なものは薬物によって引き起こされる薬剤性パーキンソニズムと、脳血管障害が引き金となって発病する脳血管性パーキンソニズムである。パーキンソン病類似の状態を引き起こす薬としては血圧を下げる薬(ラウオルフィア製剤、α-メチルドパ)、悪心(おしん)や嘔吐(おうと)を抑えたり鎮静のために使う薬(フェノチアジン系製剤)、消化器疾患によく使われる薬(スルピリド、メトクロプラミド)、精神科で使う薬(フェノチアジン系やブチロフェノン系製剤)などがあげられる。このような薬を長期間連用してパーキンソニズムがみられる患者では、たいていの場合、原因とみなされる薬の投薬をやめれば軽快する。薬物療法としてはL-ドーパよりも抗コリン剤のほうが効果がある。
脳血管障害が原因と推定されるパーキンソニズムでは、脳卒中の発作が契機となって発病するものもあるが、明らかな脳卒中発作がなく普通のパーキンソン病と同様に、いつとはなしに病気が始まってくるものもあり、動脈硬化性パーキンソニズムともよばれる。60歳以上の高齢になってから症状が現れ、高血圧や記憶障害、軽い四肢の麻痺を伴っていることが多く、パーキンソン病に使う治療薬の効果はあまり期待できない。また、嗜眠性脳炎によるパーキンソン症候群は、嗜眠性脳炎が流行して50年以上を経過した現在、ほとんどみる機会はなくなった。
[海老原進一郎]
補説
なお、パーキンソン病は特定疾患(難病)指定されているが、2003年度(平成15)より、進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症とともに、パーキンソン病関連疾患という名称のもとに分類されている。
[編集部 2022年4月19日]