イクチオステガ(読み)いくちおすてが(英語表記)ichthyostega

デジタル大辞泉 「イクチオステガ」の意味・読み・例文・類語

イクチオステガ(〈ラテン〉Ichthyostega)

古生代デボン紀後期に出現した最古両生類化石頭骨は強固で長さ約15センチ、全長約90センチ。デンマークの探険隊がグリーンランド東部で発見

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「イクチオステガ」の意味・わかりやすい解説

イクチオステガ
いくちおすてが
ichthyostega
[学] Ichthyostega stensioei

古生代デボン紀後期の、約3億6300万年前にグリーンランドやオーストラリアにいた全長約90センチメートルの動物。1928年デンマーク探検隊が、東グリーンランドの旧赤色砂岩に対比されるデボン紀後期の地層から多くの魚類化石とともに発見し、最古の両生類とみなされた。最初は頭だけしか発見されず、魚類のものと思われていたが、1948年にひれ後肢が発見されたことにより両生類とされ、さらに1959年にほぼ全身骨格が発掘された。足は7本指とわかったが、手指の数は不明である。総鰭(そうき)類のエウステノプテロンなどの魚類と比べると、頭骨の構成骨の配置は同様だが、それらの大きさの比率が違っている。内鼻孔と外鼻孔の位置や発達程度はわずか進歩していた。椎骨(ついこつ)や尾ひれの鰭条などは総鰭類と似ていたが、肩と腰、四肢が発達する点が異なっていた。しかし、四肢といってもまだ前肢のほうが大きく、前輪駆動的であった。胸には幅広い肋骨(ろっこつ)が互いに重なり、頭骨と肩の部分が分離し、肘(ひじ)関節の屈伸ができなかったらしい。骨盤は大きい。1990年代後半の研究では、四肢は浅瀬への適応のためのもので、水生種類と考えられている。

[小畠郁生]

『真鍋真著「両生類・爬虫類・鳥類」(速水格・森啓編『古生物の総説・分類』所収・1998・朝倉書店)』

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「イクチオステガ」の意味・わかりやすい解説

イクチオステガ
Ichthyostega

グリーンランドのデボン紀後期の地層から発見された両生類で迷歯類亜綱)に属する。地質学上知られている最初の両生類であり,陸上生活者として最初の四足動物である。内鼻孔を備えて空気呼吸を行う総鰭(そうき)類の中の進歩した種類とよく似た性質をもっていた。頭骨は長さ18cmほどで堅固な構造をしている。背側面に総鰭類のような側線が走る。頭骨各部分の長さの比率は魚類に比べて両眼より前部は長く,頭頂骨より後部は短い。鰓蓋(さいがい)骨opercularなどは消失しているが前鰓蓋骨などはある。外鼻孔は頭骨の側面下方に位置し,口蓋前方の内鼻孔との間は棒状の細い上顎骨で隔てられていた。椎骨の形態は総鰭類とほぼ同じで,尾をもち,尾びれの鰭条がみられる。一方,肩帯と腰帯があり,四肢と関節して体重を支持する構造が発達し,陸上生活者への基本的骨組みが完成していた。彼らは大陸の河川や湖沼の浅水域にすんでいた。魚類,甲殻類,昆虫類などを食べていたと思われる。
執筆者:


出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イクチオステガ」の意味・わかりやすい解説

イクチオステガ
Ichthyostega

デボン紀後期にグリーンランドなどに生息していた体長約 90cmの原始両生類で,迷歯類に属する。デンマーク探検隊が,東グリーンランドで,1928年に旧赤色砂岩に相当するデボン紀後期の淡水成の地層から,多数の魚類化石と一緒に発見した最古の両生類である。当初は頭だけしか発見されていなかったので,魚類のものとされていた。 48年に鰭 (ひれ) と後肢が発見され両生類と判明した。さらに 59年にはほぼ全身骨格が発掘された。頭骨は強固で,長さは約 15cm。総鰭類のユーステノプテロンなど魚類と比べると,頭骨の構成骨の配置は酷似しているが,それらの大きさの比率が異なっている。内鼻孔と外鼻孔の位置や発達程度はイクチオステガのほうがほんのわずか進歩している。頭以外の骨格は,両生類と魚類の特徴が奇妙に混っている。脊椎骨の形態は総鰭類のものとほとんど変らず,尾には魚類の鰭条そっくりのものが残っていた。しかし,肩や腰など四肢がしっかりしていた。したがって,イクチオステガは内鼻孔魚類ユーステノプテロンまたはその近縁種から進化したもので,完全な両生類へ発展する途上のものとみなされている。近年,オーストラリアからも,イクチオステガの足跡らしい化石が発見されている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

百科事典マイペディア 「イクチオステガ」の意味・わかりやすい解説

イクチオステガ

総鰭(そうき)類から進化した最古の原始両生類。グリーンランド東部のデボン紀後期の地層から発見。体長約1m,しっかりした四肢をもち陸生に成功した脊椎動物の初めのものと考えられるが,頭骨は総鰭類の面影を残す。
→関連項目迷歯類

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典(旧版)内のイクチオステガの言及

【エウステノプテロン】より

…口腔に通じる内鼻孔が存在するとされてきたが,最近になって内鼻孔の存在を疑う学者もある。両生類の仲間で最も原始的とされており,グリーンランドのデボン紀に生息していたイクチオステガと内部構造がよく似ているので,脊椎動物が水中生活から陸上生活へ移行する段階の生物に最も近いものの一つとされている。肺魚類とエウステノプテロンの仲間とどちらから両生類が進化したかは論争の的である。…

【迷歯類】より

…このことから迷歯類と呼ばれる。総鰭(そうき)類に似たデボン紀のイクチオステガIchthyostega類が根幹型で,脊椎は骨性化が進み軀体を支持するのに適した構造になった。四肢が発達し,体表はうろこでおおわれていた。…

※「イクチオステガ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

黄砂

中国のゴビ砂漠などの砂がジェット気流に乗って日本へ飛来したとみられる黄色の砂。西日本に多く,九州西岸では年間 10日ぐらい,東岸では2日ぐらい降る。大陸砂漠の砂嵐の盛んな春に多いが,まれに冬にも起る。...

黄砂の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android