日本大百科全書(ニッポニカ) 「クエ」の意味・わかりやすい解説
クエ
くえ / 九絵
longtooth grouper
kelp grouper
[学] Epinephelus bruneus
硬骨魚綱スズキ目ハタ科ハタ亜科ハタ族に属する海水魚。青森県、新潟県から九州北西岸の日本海沿岸、千葉県、相模(さがみ)湾から屋久島(やくしま)の太平洋沿岸、沖縄本島、朝鮮半島、台湾、南シナ海、海南島の海域などに分布する。背びれ棘(きょく)が11本、臀(しり)びれ軟条が通常8本のマハタ属に含まれる。体はやや長く側扁(そくへん)し、頭部背面の外郭は緩くほぼ一様に上昇する。前鰓蓋骨(ぜんさいがいこつ)の隅角(ぐうかく)部に明瞭(めいりょう)に、いくぶん大きな鋸歯(きょし)がある。主鰓蓋骨の背縁は凸状で、上の棘は不顕著。口は大きく、上顎(じょうがく)の後端は目の後縁を越える。下顎の側中央部に2列のよく発達した犬歯があり、上顎のものより大きい。背びれは11棘13~15軟条、臀びれは3棘8軟条(まれに9軟条)。尾びれの後縁は丸い。鱗(うろこ)は小さく、少なくとも体側面では櫛鱗(しつりん)。主上顎骨の上に小鱗が埋まる。側線有孔鱗数は64~72枚。成魚では側縁の前の数鱗は分枝した管状になる。体は灰褐色で、側面に6本の斜めの帯状斑(はん)があり、各斑のなかに不規則な淡色の斑紋がある。第1帯は背びれ起部直前に、最後の斑は尾柄(びへい)上にある。40センチメートルを超える成魚では、帯状斑は背部にのみみられるか、もしくは消失しており、側面は小さい淡灰色の斑点で覆われる。幼魚は沿岸のアマモ場で生息し、成長するにつれて沿岸の岩礁域から深みへ移動する。群れをなさず、岩礁域の岩穴に単独ですむ。昼間は穴の中にいるが、夜間はエビ・カニ類、魚類など餌(えさ)を求めて活動する。外敵を恐れない魚で、ダイバーの近くにも寄ってくる。
本種は体長約1メートルで雌から雄に雌性先熟型の性転換を行うが、詳細は不明である。産卵期は6月ごろで、飼育による観察では、雄が雌の前で尾部を震わせる行動を繰り返した後に、対(つい)で何回も水面に向かって上昇し、産卵と放精をするようすがみられた。卵径は0.84~0.96ミリメートルの分離浮性卵で、孵化仔魚(ふかしぎょ)は体長2ミリメートル。9~10月に全長20ミリメートルぐらいの幼魚が潮だまり(タイドプール)で採集される。仔稚魚は第2背びれ棘と腹びれ棘が長く、また前鰓蓋骨の隅角部に長い1本の棘があるが、これらの棘は成長するにつれて目だたなくなる。1年で体長23センチメートルほどになり、最大全長は40センチメートルに達する。底刺網(そこさしあみ)、底延縄(そこはえなわ)、底引網、釣りなどで漁獲される。老成魚はモロコとよばれて、大物釣りの対象魚として人気がある。肉は白身で、洗い、刺身、ちり鍋(なべ)などにする。ハタ類中もっとも美味で、商品価値は高い。養殖魚として種苗生産技術の開発が試みられている。近縁種のマハタの老成魚と判別がむずかしいが、マハタには前鰓蓋骨の下縁に鋸歯(きょし)があることでクエと区別できる。
[片山正夫・尼岡邦夫 2020年12月11日]