新しい知識獲得の手段として用いられる仮説。新しい科学的知識や理論を得ようとする場合、既成の理論における諸命題から仮の命題を構成するが、このいまだ経験的に真であることが証明されていない仮の命題を、仮説という。仮説はさらに、理論仮説theoretical hypothesisと作業仮説の二つのレベルに分けられる。両者はともに、通常二つ以上の変数の相互の関係について述べたものであるが、理論仮説では、そこに含まれている変数はかならずしも測定可能な変数である必要はなく、むしろ概念的であることが多い。また、変数間に生じる関係についての説明の論理を、内に含んでいる。これに対して作業仮説は、具体的に測定可能な変数の関係について言及しており、かならずしも説明の論理は含まない。理論仮説を構成する複数の命題を経験的に操作可能なものに置き換えた、一つの社会調査ないし実験によって検証される下位命題である。たとえば、「人々の性別役割分業意識は現在の状態を合理化・正当化する形で形成される」という理論仮説に関して、「女性の雇用労働者と専業主婦とを比較すれば、後者のほうが性別役割分業肯定率は高い」という命題は、考えうる作業仮説の一つである。
仮説は、社会調査や実験の具体的な枠組みを設定し、分析の指針となる。社会調査や実験の一連のプロセスにおいては、理論仮説として提出された諸命題と関連する既存の資料が検討され、それがいかなるデータとして、どの部分をどの程度測定する必要があるのか、また測定できるのか、という問題を考えたうえで、作業仮説が導き出される。社会調査や実験では、理論仮説の検証を目的としながら、直接的には作業仮説の検証が行われる。
[原 純輔]
『安田三郎・原純輔著『社会調査ハンドブック』第3版(1982・有斐閣)』▽『福武直著『社会調査』補訂版(1984・岩波書店)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…なお,研究の初期の段階で,調査や実験やデータの整理などのよりどころとして,とにかくある仮説を立ててみよう,という場合がある。そのようなとき,その仮説は〈作業仮説〉と呼ばれる。【黒崎 宏】。…
※「作業仮説」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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