受精卵が卵管,卵巣,腹膜など,子宮腔以外の部位に着床して発育すること。全妊娠の0.3~0.7%にみられ,着床する部位によって,卵管妊娠,間質部妊娠,腹膜妊娠,卵巣妊娠などに分類される。卵管妊娠はさらに膨大部妊娠,卵管狭部妊娠に分けられ,膨大部妊娠の頻度が最も高く,次いで卵管狭部,間質部,腹膜,卵巣の順となる。
子宮外妊娠のうち,最も多い卵管妊娠を中心に原因となりたちについて解説する。ふつう,受精は卵管の膨大部で起こり,受精卵は移送されて,子宮腔に着床する。しかし受精卵の発育が異常に早い場合や,子宮内膜炎,卵管炎,骨盤腹膜炎あるいは虫垂炎などによって,卵管に炎症や瘢痕(はんこん),狭窄があって,卵管上皮の繊毛運動や卵管壁の蠕動(ぜんどう)運動に障害があると,受精卵の移送が円滑にいかず,受精卵は卵管内に止まってしまう。すると,受精卵の栄養胚葉から分泌されるタンパク質分解酵素の作用で卵管粘膜上皮が破壊され,受精卵が粘膜下組織に入り,着床する。これが卵管妊娠である。受精卵が発育してしだいに大きくなると,限られたスペースしかない卵管は伸展できず,妊娠3ヵ月ごろまでには,卵管腹腔口から胚芽が腹腔内に排出されるか,受精卵の侵食力が強いと卵管壁が穿孔(せんこう)したり破裂して,妊娠は中絶する。前者を卵管流産といい,子宮外妊娠中,最も頻度が高い。後者は卵管破裂という。いずれも大量の腹腔内出血と腹痛を伴う。腹膜に受精卵が着床したり,卵管流産から引きつづいて腹腔内に着床すると腹腔妊娠となる。この場合は,胎児が生存,発育して妊娠後半期までに至る場合がまれにある。
まず一定期間の無月経の後,不正子宮出血が起こる。出血量は少なく,出血とともに下腹部にさし込むような疝痛を伴う。胃部の痛みや嘔吐があることもあって,虫垂炎とまぎらわしいこともある。卵管破裂の場合は疼痛は激しい。急性腹症の代表的なものの一つとなっている。外出血は一般に少ないが,腹腔内の出血はしばしば大量で,顔面蒼白,手足冷感,体温下降などの症状となり,脈拍は弱く頻脈となり,血圧が下がって,ついには意識もうろうとなる(ショック状態)。腹部は初め,腹膜への刺激によって筋性防御を示し,かたくなる。卵管流産の場合は,一般に症状はゆるやかに現れることが多い。
典型的な症状を示している場合,診断は容易である。しかしそれ以外では,婦人科的双合診や妊娠反応(尿中hCG定性試験),超音波断層法,子宮卵管造影,あるいは腹腔鏡やクルドスコピーなどで検査し診断する。治療法は,開腹手術で患部を摘出し,止血をする。ショック状態にあるときは,輸血,輸液などによって全身状態を改善してから手術を行う。
執筆者:荒井 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
受精卵は子宮内腔の粘膜に着床するのが正常ですが、それ以外の場所に着床し妊娠が成立したものを
卵管内に炎症が起こって卵管の通過が悪くなったり、受精卵を子宮内に運ぶ機能が低下すると、受精卵が卵管内にとどまって卵管妊娠になると考えられます。しかし、これらの機能障害に気づくことは難しく、原因がはっきりしないこともよくあります。
子宮内の正しい部位でなければ順調に胎児が発育する環境ではなく、その場所で流産になったり、卵管が破裂したりして、出血が腹腔内にたまってくるため、下腹部痛が起こります。
少量の性器出血が持続することが多く、腹腔内出血の量と速さにより、程度の異なる下腹部痛が起こります。ほとんど痛みがなかったり、突然強い痛みが起こったりすることがあります。
尿の妊娠反応が陽性にもかかわらず、超音波検査では子宮内に妊娠の部位が見つからない場合に、子宮外妊娠が疑われます。
正常妊娠のごく初期や、ごく初期の子宮内の流産も同じようにみえるので、慎重な判断が必要です。
子宮内を
腹腔鏡または開腹手術により、妊娠部位を見つけます。卵管ごと切除する方法と、妊娠組織を除去して止血し、そのまま卵管を残す方法があります。卵管を取れば、そちら側の卵管では妊娠できなくなります。残した卵管でも、再び子宮外妊娠が起こることがあります。
急激な強い下腹部痛が起こったら、すぐに受診してください。ただし、妊娠のごく初期や排卵が遅れた場合、正常妊娠であっても子宮外妊娠が疑われることはしばしばあります。疑いが強い場合は、入院して経過をみます。
坂井 昌人
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
受精卵が子宮体部以外の場所に着床して発育する場合をいう。全妊娠の約0.7%におこり、そのうち大部分(98%)は卵管妊娠であるが、まれに卵巣・腹膜・子宮頸管(けいかん)妊娠もみられる。
卵管妊娠もいろいろな部位に分けられ、頻度は膨大部がもっとも多くて約70%、峡部は約20%、間質部が約5%、その他が約5%である。原因は卵管の炎症による癒着や狭窄(きょうさく)など、卵管の通過性が悪いときにおこる。したがって虫垂炎や結核性腹膜炎の影響で卵管の通過が悪くなったり、人工妊娠中絶(掻爬(そうは)手術)後に細菌感染して卵管炎をおこしたりすると、原因になることがある。卵管妊娠患者が治療を受けるのは、ほとんど全部が妊娠中絶、すなわち卵管破裂または卵管流産をおこしてからで、全例が腹腔(ふくくう)内出血を伴っていて胎児は助けられない。普通2~3か月無月経が続き、正常妊娠と同様につわりなどもあって妊娠と考えられるような時期にみられるが、予定月経前におこることもある。症状は、卵管破裂では突然下腹部の激痛をおこし、出血と疼痛(とうつう)が強い場合は顔面蒼白(そうはく)、脈が細く頻数になるほか、生あくびや冷や汗が出て呼吸も苦しく、いわゆるショック症状がみられる。卵管流産では陣痛様の下腹痛をおこし、その前後に暗赤色の出血が少量ながら長く続く。なお、卵巣・腹膜妊娠では中期、まれには末期まで妊娠が継続することがある。
子宮外妊娠は、時がたてばかならず流産または破裂をおこすので、卵管妊娠になりやすい人、すなわち、結核性疾患、卵管炎、虫垂炎、腹膜炎にかかったことのある人、人工妊娠中絶後の経過が悪かった人、長期間にわたって不妊症であった人、卵管の通気治療や手術など不妊症の治療を受けた人は、妊娠の初期から医師の診察を受け、子宮外妊娠と診断されたらただちに手術をする。普通は腹式に摘除する。なお、診断には病歴や既往歴が参考になるが、ときに卵巣出血、虫垂炎、流産などと紛らわしく、内視鏡検査や入院して経過を観察することもある。重症例では発作後15時間以内に適切な処置をとらないと、大多数は生命に対して危険状態に陥る。
また、子宮外妊娠の反復は10%以下であるが、再度の妊娠を希望しない場合は永久不妊手術も同時に行われる。
[新井正夫]
出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 母子衛生研究会「赤ちゃん&子育てインフォ」指導/妊娠編:中林正雄(母子愛育会総合母子保健センター所長)、子育て編:渡辺博(帝京大学医学部附属溝口病院小児科科長)妊娠・子育て用語辞典について 情報
…また下痢になることはまれで,かえって便秘に傾くことが多い。虫垂炎
[卵巣囊腫の捻転,子宮外妊娠の破裂]
卵巣囊腫の捻転は,突然に出現する下腹部痛で始まり,実際には虫垂炎とよく似た症状であるから,女性の場合,虫垂炎が疑われるときは必ず考慮しておかねばならない。一方,子宮外妊娠の破裂は,突発する下腹部の激痛とともにショック症状,貧血症状が著しく,性器出血などがある。…
※「子宮外妊娠」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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