急性腹症(読み)キュウセイフクショウ

デジタル大辞泉 「急性腹症」の意味・読み・例文・類語

きゅうせい‐ふくしょう〔キフセイフクシヤウ〕【急性腹症】

突然の激しい腹痛を主症状とし、緊急の開腹手術を要する腹部疾患群。虫垂炎胆嚢たんのう膵臓すいぞう腸閉塞ちょうへいそく胆石症など。

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精選版 日本国語大辞典 「急性腹症」の意味・読み・例文・類語

きゅうせい‐ふくしょうキフセイフクシャウ【急性腹症】

  1. 〘 名詞 〙 急に起こる激しい腹痛を主症状とし、緊急の開腹手術を必要とする腹部疾患の総称。盲腸炎腸閉塞胆嚢炎など。

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家庭医学館 「急性腹症」の解説

きゅうせいふくしょう【急性腹症】

「急性腹症(Acute Abdomen)」ということばは、医療現場、とくに救急医療の場でよく使われますが、病名ではなく、明確な定義はありません。
 急に出現した強い腹痛で、ほとんどの場合、吐(は)き気(け)、嘔吐(おうと)、胸やけ、噯気(あいき)(げっぷ)、下痢(げり)、腹満(ふくまん)、腹鳴(ふくめい)、めまい、吐血(とけつ)、下血(げけつ)、背部痛、排尿痛など、腹痛以外のいくつかの症状をともなった状態と考えてよいでしょう。
 したがって、医師は急性腹症の患者さんをみたら、問診、診察、検査によって、できるだけ早くその原因をつかみ、対応しなくてはなりません。
◎急性腹症患者の診察
 ふつうの診察では、問診、診察(視診、聴診、触診)、さらに必要な検査(血液検査、X線検査、超音波検査、CT検査など)が行なわれて診断にいたります。急性腹症の場合は基本的には同様ですが、差し迫った状態であることが多いだけに、状況によってはふつうどおりにいかないこともしばしばあります。
 たとえば、腹痛によるショック状態で来院した場合は、到着と同時に点滴注射を開始し、血圧、呼吸、脈拍などのバイタルサイン(生命徴候)を把握し、合わせて血液検査、X線検査、心電図検査が行なわれます。
◎急性腹症の診断
 診断の過程でもっともたいせつなのは問診です。この急性腹症がいつ、どのようにおこったかを正確かつ速やかに把握する必要がありますが、苦痛がひどく、本人から聞けない場合は家族や周囲にいた人に確認します。
 疼痛(とうつう)については、いつからどのようにおこったか、さしこむような痛みか鈍痛か、場所は腹部のどこか、最初から同じ程度の痛みか時間とともに変化するか、背中や肩に痛みが放散するか、原因に心当たりがないか、食事との関係はどうか、周囲に同じ症状の人がいるかどうかが確認され、腹痛以外の症状も確かめられます。また、別の病気の前歴や治療中かどうかも重要な情報です。
 診察は全身状態の把握後に腹部を中心に行なわれますが、心臓、肺、下肢(かし)などの検査結果にも注意が払われます。これらの部位の疾患が原因であることもあるからです。
 診察は視診、聴診、触診の順に行なわれます。視診は、皮膚の色調やその変化をみるものです。聴診では、聴診器を使って腸の動き具合を聴きます。まったく動いていないか、よく動いている(亢進(こうしん))か、金属音のように聞こえるかなどが聴き分けられます。また、脈にザーという雑音があるかどうかもたいせつです。
 触診では、痛みの強さや腹壁のかたさなどをみます。板のようにかたいのか、痛む場所はどこか、押したときと離したときとどちらが痛むのか、押したとき痛みが放散するかどうかに注意が払われます。
◎急性腹症の検査
 検査法は近年、大きく進歩しました。X線検査や心電図検査はもちろんのこと、血液検査にしてもオートアナライザーによって短時間でたくさんの項目が調べられ、結果を知ることができます。また、超音波(エコー)検査という、ほとんど苦痛なしにたくさんの腹腔(ふくくう)内の情報が得られる方法も一般化してきました。必要なら、内視鏡検査、CT検査、血管撮影などによって、さらに精密な情報も得られ、これらを活用して診断は行なわれます。ただし、どんな例でも短時間で診断が確定できるとはかぎりません。診断未確定のまま、全身状態が危険になる前に開腹手術を実施しなければならなくなることもあります。元来、急性腹症とは、急に発症した激しい腹痛で、早急に手術の要否が問われる状態を意味していました。現在では、前述したように、もう少し広い意味をもたせて使われているのです。
◎急性腹症の原因
 原因となる疾患は非常にたくさんあるため、すべて述べることはできませんが、代表的なものをあげておきます。
①急性胃粘膜(いねんまく)病変(急性胃・十二指腸潰瘍(じゅうにしちょうかいよう)、急性胃炎など)
 上腹部の痛みに吐き気、嘔吐、胸やけをともなうことが多く、大きなストレス、暴飲暴食によることがほとんどです。
アニサキス症
 しめさば、イカなどの刺身を食べて1~2時間以内に強い上腹部痛が出現します。疼痛以外の症状は比較的少なく、下痢をともなうこともまれです。
③胃・十二指腸潰瘍穿孔(せんこう)
 潰瘍は、たいてい以前におこしたことがあり、穿孔前に症状が出ることが多いのですが、高齢者の潰瘍や、胃の上部の潰瘍は症状に乏しく、穿孔、吐血が初発症状であることがときにあります。
④胆石症(たんせきしょう)・胆嚢炎(たんのうえん)
 上腹部またはやや右側(右季肋部(きろくぶ))に急に出現する激しい疼痛で、脂っこいものの食後によくおこります。
急性虫垂炎(きゅうせいちゅうすいえん)(盲腸炎(もうちょうえん))
 最初は腹部全体または上腹部が痛み始め、吐き気をともない、時間とともに痛みが右下腹部に移動して限局する(その場所にかぎられる)のが典型例です。
⑥感染性腸炎
 食物に付着した細菌や細菌が出す毒素で腹痛、下痢がおこります。早ければ食後すぐ、遅いものでは2~3日して症状が現われます。なかでも腸炎ビブリオサルモネラカンピロバクター、黄色(おうしょく)ブドウ球菌(きゅうきん)などが強い症状をおこします。最近は病原性大腸菌(O‐157など)も注目されています。
急性膵炎(きゅうせいすいえん)
 激烈な上腹部痛が特徴で、痛みが背部に放散することがよくあります。アルコールや胆石発作が引き金になることがほとんどで、重症の場合は生命の危険があります。
⑧大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)
 大腸(回盲部(かいもうぶ)付近かS状結腸が多い)にできた憩室(ふくろ)に炎症が生じたためにおこるものです。回盲部の場合は虫垂炎とまちがえられることがあります。
⑨虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)
 抗生物質や鎮痛薬などの薬剤に起因する場合と、刺激の強い食物による場合があり、よく下血をともないます。
⑩腸閉塞(ちょうへいそく)(イレウス)
 比較的多いもので、なんらかの原因で腸の内容物が動かなくなったものです。絞扼性(こうやくせい)イレウス(腸が絞められたもの)の場合はすぐに手術をしなければ腸が腐り、重篤(じゅうとく)な状態になることがあります。
⑪腸間膜動脈血栓症(ちょうかんまくどうみゃくけっせんしょう)
 腸に栄養を運ぶ動脈がつまったもので、速やかな対応が必要ですが診断がむずかしいという特徴があります。
⑫腹部大動脈瘤破裂(ふくぶだいどうみゃくりゅうはれつ)・解離性(かいりせい)大動脈瘤
 前者は大動脈にできた瘤(こぶ)が破裂したもので、すぐにショックをおこすため、緊急手術が必要です。後者は大動脈の壁に亀裂(きれつ)ができた状態で、背部痛をともなうのがふつうです。
⑬尿管結石(にょうかんけっせき)
 急な下腹部痛や背部痛で発症します。血尿(けつにょう)で診断がつきます。
⑭子宮外妊娠(しきゅうがいにんしん)
 妊娠可能な女性に強い下腹部痛が急発し、消化管出血がみられないのに貧血症状があるか、強まるときに疑います。
⑮心筋梗塞(しんきんこうそく)
 まれに強い上腹部痛で発症することがあります。疼痛以外に腹部症状がなく、血圧低下、冷や汗などがみられる場合、心電図検査をして判明します。
 全身状態を早急に把握し、各疾患に対応できる病院を選ぶことが治療の鍵(かぎ)となります。

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改訂新版 世界大百科事典 「急性腹症」の意味・わかりやすい解説

急性腹症 (きゅうせいふくしょう)
acute abdomen

もともとは学問的に厳密に定義された内容をもつものではなく,アメリカの外科医たちが,急性の腹部疾患で突然の急激な腹痛をもってはじまり,とにかく早急に手術的処置が必要な場合に用いてきた医学用語である。したがって,手術台上で開腹した後に診断が明らかになる場合もあった。しかし今日のように,医学の進歩とともに診断技術も向上し急性腹部疾患のほとんどが診断がつくようになると,この言葉の意味する内容にも変化が生じてきた。すなわち,急性腹症とは,単一の疾患名ではなく,腹痛という共通な症状をもった多くの疾患の実用的,便宜的な総称であり,緊急処置として開腹手術を必要とするもの,およびこれと鑑別を必要とする疾患群が含まれている。このため,その治療も緊急を必要とすることが多いので,検査と治療の処置を行いながら診断を確定していくという取扱い方をしなければならない。時間的な症状の変化を細かく観察することは,手遅れになる危険をさけ,不必要な手術をさけることになり,たいせつなことである。

 実際,急激な腹痛をもって医師を訪れたとき,速やかに病気を診断し,緊急手術の必要性の有無を判断することがよいのであるが,その確定診断を下すことがきわめてむずかしい場合もある。したがって,診断が確定するまで急性腹症として処置することが便利である。

 具体的には,急性虫垂炎イレウス胃穿孔(いせんこう),十二指腸潰瘍穿孔,急性胆囊炎,卵巣囊腫茎捻転,子宮外妊娠,腸間膜動脈閉塞症,動脈瘤破裂のような緊急手術を必要とするものから,緊急に手術の必要のない急性膵炎,急性胃腸炎,急性肝炎,急性骨盤内炎症性疾患,急性限局性腸炎,腸間膜リンパ腺炎なども含まれる。また鑑別を必要とする内科疾患として,心筋梗塞(しんきんこうそく),狭心症などの循環器疾患,肺炎肺梗塞などの胸部疾患や,その他糖尿病アシドーシスなどがあげられる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「急性腹症」の意味・わかりやすい解説

急性腹症
きゅうせいふくしょう
acute abdomen

突発的に腹部の激痛があり,しかもショック様の全身症状を示すもので,原因が一見して把握できない場合を,臨床的に急性腹症と呼んでいる。早急に開腹手術を行なって診断を確定にする必要がある。原因となる疾患はきわめて多いが,おもなものに穿孔 (胃・十二指腸潰瘍,胃癌,虫垂炎,胆嚢穿孔など) ,虫垂炎による周囲膿瘍や局所性腹膜炎,腎盂結石,腹膜炎,胆石症,腸閉塞,急性膵壊死,卵巣嚢腫の茎捻転,腹腔内大出血,腸間膜血管の塞栓などがある。

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世界大百科事典(旧版)内の急性腹症の言及

【子宮外妊娠】より

…卵管破裂の場合は疼痛は激しい。急性腹症の代表的なものの一つとなっている。外出血は一般に少ないが,腹腔内の出血はしばしば大量で,顔面蒼白,手足冷感,体温下降などの症状となり,脈拍は弱く頻脈となり,血圧が下がって,ついには意識朦朧(もうろう)となる(ショック状態)。…

【腹痛】より

…これらの3種類の腹痛が単独で,あるときは複合して腹痛となることが多く,痛みの内容を詳しく知ることが病気の診断の早道である。
【急性の腹痛】
 医学的には急性腹症といい,上記の第2で述べた体性痛性の病気がこのうちに入る。穿孔(せんこう)性腹膜炎,腸閉塞,急性膵臓炎など緊急手術が必要な状態であることが多い。…

※「急性腹症」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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