企業の会計は複式簿記により行われるが,企業の業種により簿記の内容が異なる。工業簿記は,工企業に適用される複式簿記であり,銀行簿記や農業簿記などとともに応用簿記の一種である。商業を営む企業では,商品を仕入れて販売する。つまり購買活動と販売活動がおもな業務活動である。これに対し工業を営む企業では,材料,労働力,機械・設備,電力など種々の財貨や用役を購入し,これらを消費して製品を製造し販売する。したがって工企業は,購買活動と販売活動のほかに,商企業にはない経営内部で行われる生産活動という内部活動をもつ。したがって工業簿記は,購買,販売活動の記録のほかに,経営内部で原材料が加工され,仕掛品となり,製品となっていく生産過程の組織的な記帳,計算を行うという特徴を有する。元来,簿記と原価計算とは別個の手法である。簿記は企業活動全体の成果を期間に関係づけて把握する。他方,原価計算は,企業活動の部分について,経済的資源の投入額(原価)を産出額(経営給付)に関係づけて把握する。しかし部分を合計すれば全体となり,また期間に関係づけずに原価を測定できないこともあり,両者は密接な補完関係にある。
企業規模が小さいために,原価計算を行わず工業簿記だけを採用する企業がある。このような工業簿記を商的工業簿記(あるいは不完全工業簿記)という。これは,原価計算の裏づけがなく,商業簿記を工企業に適用したにすぎないから,材料,仕掛品,製品の各勘定では,棚卸計算法により期間消費額のみが把握され,不完全な情報しか得られない。他方,中堅企業や大企業では,原価計算を実施するとともに,そのデータを複式簿記の中に有機的に組み入れた工業簿記を行っている。このような工業簿記を原価計算簿記(あるいは完全工業簿記)という。両者の有機的結合には,統制勘定と補助元帳を使用する。製造過程にある製品の原価を例にとれば,各製品別の原価明細は,補助元帳である原価元帳の原価計算票に記録され(原価計算のデータ),その製品別原価の月間合計額は統制勘定である仕掛品勘定に記録される(複式簿記のデータ)。材料勘定と材料元帳,製品勘定と製品元帳などは,いずれも統制勘定と補助元帳の関係にあり,前者では簿記による合計記録,後者では原価計算による内訳記録が行われる。なお工業簿記は,対外的活動を記録する営業簿記と,対内的活動を記録する経営簿記に分けることがある。工業簿記の勘定組織を立案する場合は,経営過程にそって勘定を設定するドイツ流のコンテンラーメン方式によるか,あるいはアメリカ流に貸借対照表勘定と損益計算書勘定とに分けて設定する方式によるかは,慎重に検討すべきである。
→原価計算 →簿記
執筆者:岡本 清
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
工企業もしくは製造業に適用される応用簿記の一つ。簿記の基本型である商業簿記と比較して、次のような特徴がある。
(1)期間計算である簿記と対象計算である製品製造原価計算とが互いに補完しあって、有機的に結果を算出していくことを原則とする。
(2)工企業の外部取引だけでなく内部取引をも記帳の対象とする。
(3)商業簿記における棚卸資産が主として商品であるのに対して、工業簿記では材料、仕掛品、製品などがその代表例である。
このような工業簿記を多様な形態をもつ諸企業に適用していく場合、本来的には、帳簿組織から独立して実施される原価計算を有機的かつ合理的に結合させるシステムを設計しなければならない。日本では、この本格的な工業簿記を「完全工業簿記」とよんでいる。これに対して、オーソドックスな原価計算は実施せずに商業簿記の記録計算方式をそのまま工企業に適用したような工業簿記を「商的工業簿記」とよんでいるが、これは不完全な工業簿記である。工企業の主たる活動は、製品製造に必要な材料や労働力その他のサービスの購買活動、製品を実際に生産する製造活動、完成した製品を外部に引き渡す販売活動の三つに分けることができる。このうち購買活動と販売活動とは、外部活動あるいは外部取引ともよばれ、商企業とほぼ同様の記録計算をする対象であるが、製造活動は内部活動あるいは内部取引とよばれ、工企業独特の記録計算対象である。
工業簿記では、材料費、労務費、経費の形態別3分類を基礎として、直接費と間接費の機能別分類を組み合わせ、さらに原価算定に必要な部門の諸勘定や製造勘定(あるいは仕掛品勘定)を使用し、最終的な完成品原価を製品勘定に振り替える、といった勘定の流れに、他の簿記と異なった特徴がある。
[東海幹夫]
『日本原価管理士会編、三代沢経人・柳田仁監修『工業簿記の基礎』新版(2005・同文舘出版)』▽『前川邦生監修、井上行忠著『演習 工業簿記』(2006・創成社)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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