小規模な漁船漁具を保有し,主として家族労働により沿岸漁業を営む家族経営体。統計上は合計トン数10トン未満の動力船あるいは無動力船を用いる漁船漁業,小型定置網漁業,ノリ,カキ,ブリ,ワカメ,ホタテガイ,いかだ台数100台未満の真珠と真珠母貝等の養殖を営む漁業経営体をいう。1995年には約15万5000戸(1963年には約22万5000戸)で,漁業経営体(海面において,利潤または生活の資をうるために漁獲物を販売することを目的として漁業生産を行う事業体)総数の九十数%を占めるが,漁船トン数においては約1/4を占めるにすぎない。漁獲総量は総漁獲量に対しては約1/4,総生産額に対しては1/3強を占め,これらの割合はきわめて安定的である。漁家所得をみると農家所得よりやや少ないが,漁業所得は農業所得の約2倍,その漁家所得に占める割合は50%余りで,農業所得の減少傾向に対し相対的に安定的である。それには消費の高級化に伴う生鮮魚介類の価格の高騰と,漁場資源の余裕とが背景になっている。沿岸漁民は地区漁業協同組合を組織し,これを媒介として地先漁場の漁業権,漁業許可等を共同体的に支配している。すべての漁業権,漁業許可等の設定には地元漁民の全漁民的合意が条件であり,その結果企業的漁業を含めて,沿岸漁業は他の漁業を妨げないよう,資源保護と漁業調整を目的として漁業別に操業区域,期間,漁具の種類と規模,漁船と機関の規模,統数などを規制されている。個別漁業の規制により,遅れた漁業も進んだ漁業も漁場を分かちあい重複しあって地先漁場に共存し,新鮮にして多種多様な魚介類に対する国民的需要にこたえ,各漁業が濫獲を避けて総漁獲量を大量化している。しかし漁家は自由な漁場利用を妨げられ,生計を維持するのに足りる程度の家族労働に依存した零細経営にとどまり,資本の蓄積による発展の機構を欠き,家族労働量の限界がおおむね生産規模の限界になっている。
なお漁業人口に関する統計上の用語に〈漁業世帯〉〈漁業就業者〉などがある。漁業世帯とは,沿海市区町村に所在する漁業世帯のうち,過去1年間に海上作業従事日数30日以上の漁業就業者がいる世帯で,個人経営世帯と漁業従事者世帯に分けられる。漁業就業者とは,沿海市区町村内に居住するもののうち,過去1年間に海上作業従事日数が30日以上のものをいう。
執筆者:八木 庸夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…(2)沖合漁業では,分業の程度が低く,年間雇用が多くなったとはいえ,まだ漁期間雇用がかなりの部分を占めている。(3)沿岸漁業を営む漁家労働は,農業労働と同じような性格をもつ養殖労働と,小型漁船を使用する労働とがあり,どちらも家族労働力によって行われている。 漁業労働は,季節性が強く,夜間労働が多いうえに,1漁期間内あるいは1日の労働においても労働時間は変動し,不規則である等の特有な性格をもっている。…
…会社組織による漁業企業体。日本の漁業経営体を大別すると,家族労働によって営まれる零細規模の漁家と雇用労働者を使用する漁業企業体に分類できる。漁業企業体はさらに個人経営と会社経営に分類されるが,個人経営が圧倒的に多く,会社経営は漁家を含めた全漁業経営体数の1%強を占めるにすぎない。…
※「漁家」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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