粘土を焼き固めて作った棺で,世界各地で用いられた。なかでは,エーゲ文明下の各種のものや,エトルリアの横たわる人物像を備えた例,あるいはパルティアの靴形のものが名高い。中国では後漢を中心に,四川省の崖墓(がいぼ)で用いられた箱形のものがよく知られている。
日本では,古墳時代後期に盛行したものを指し,前・中期の円筒棺とは区別している。形態は,特殊なものを除けば,ほとんどが身は箱形,蓋は亀甲形か屋根形で,身の底部外面に2~3列の中空円筒形の脚が付く。亀甲形や切妻屋根形のものは赤褐色に,四注屋根形のものは黒灰色に焼かれることが多く,後者はしばしば須恵器窯址から出土する。分布は畿内と岡山県とに集中しており,形態的にも地域差が認められる。横穴式石室や横穴内で伸展葬に用いられたが,年代の新しい小型品は蔵骨器としても利用された。同時代の家形石棺と比べれば,一般に,より低い階層に用いられたと考えられるが,奈良県斑鳩(いかるが)町竜田御坊山3号墳の須恵質四注屋根形陶棺のごとく,内・外面に黒漆が塗布され,琥珀(こはく)製枕,三彩円面硯(すずり),筆管かと思われるガラス製品など,当時としては希少な副葬品とともに,刳抜横口式石槨に収められた特殊な例も存在する。
執筆者:和田 晴吾
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身(み)と蓋(ふた)からなる土製の棺。おもに古墳時代後期、6世紀中葉から後半に盛期がある。一般に、焼成の温度差、したがって色調、硬度などの相違によって二大別される。すなわち赤褐色を呈する土師(はじ)質陶棺と、灰黒色の須恵(すえ)質陶棺とに分かれ、形態的にはなお3種ある。まず亀甲(きっこう)形陶棺は、身の両端が丸く、蓋も丸みをもち、身、蓋とも縦横に突帯が走り、蓋には小筒状の突起がついて、一見亀甲に似る。ついで、切妻(きりづま)式家形陶棺は長方形の身に切妻式の屋根蓋がのるもので、また、四注(しちゅう)式家形陶棺は四注造りの屋根蓋に特徴がある。いずれも身の底部には、中空円筒状の脚が長辺に平行して、二ないし三列取りつく。大形のものは、長辺約2メートル、幅1メートル弱、高さ1メートル程度。分布は、山口、大分を西限に、東が群馬、福島に限られ、とりわけ岡山県東部および兵庫県西端部に濃密で、近畿各県がこれに次ぐ。岡山県本坊山(ほんぼうざん)古墳の須恵質陶棺や同下一色(しもいっしき)2号墳の土師質陶棺などは、瓦当文(がとうもん)を加飾した例として知られ、使用の下限が7世紀後半~8世紀にあることを裏づけている。
[葛原克人]
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…口広く丈高い器を用いたものを甕棺と呼び,頸すぼまりで胴の張ったものを壺棺(つぼかん)と呼び分けることもある。なお平面円形の一般容器の形から離れ,本来の棺として作ったものは陶棺とよび,甕棺とは区別する。火葬骨を収納した土器は蔵骨器,骨蔵器,骨壺などと呼ばれる方が多い。…
※「陶棺」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
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