憑支講、頼子講とも書き、また無尽講ともいう。講(組合)形式をとる共済的金融の仕組み。すでに鎌倉時代に憑支・無尽銭の名称は文献に現れ、室町時代に下ると広く普及して民間一般に行われていた。「頼母子」はタノム、タノミの意で、要は自他の互助協力にかかわる習俗を踏まえた金融の仕組みであり、「日本世俗、出少銭取多銭也、又云合力」(日本の世俗(せぞく)、小銭を出して多銭を取る也(なり)、又云(またい)う合力(ごうりき))と『節用集』にはみえる。「無尽銭」は本来質物を伴う貸し金で、「無尽銭土倉」という質屋もあり、おそらくは「無尽財」の名による寺院の貸付金に由来するものであろう。しかし室町時代以後は頼母子と同義に用いられるに至った。江戸時代以後、明治・大正期にも及んで頼母子・無尽は多彩な発展を示し、根幹の仕組みは共通ながら種々の型が生じていった。大別すると、仲間の共済互助を本義とするか、金融利殖を主目的とするかの両型に分けられ、また民間相互の協約に基づく共済的金融の仕組みを本体としつつも、明治期に入っては営業無尽とよばれる専門業者による形を分派させた。
仲間の共済互助を本義とする頼母子・無尽には、社寺建立その他公共的事業の資金調達を主目的とするものと、個人的融資救済を主旨とするものがあったが、両者とも通例「親無尽(親頼母子)」の形をとり、特定者への優先的給付を旨とした。それを親、講元、座元、施主などといい、趣旨に賛同しての加入者を子、講衆、講員などとよんだ。社寺寄進はもちろん個人融資でも、親は初回「掛金」の全額給付を受けるほか、初回を「掛捨(かけすて)」と称し「親」の掛金を免除するのがむしろ通例であった。こうした特定者の救済互助の仕組みが頼母子・無尽の原型で、社寺への寄進行為とのかかわりも深かった。しかし2回目以後は講員相互の金融に移り、一定の講日に参集して所定の「掛金」を拠出しあい、特定者への給付が順次行われて満回に至るのである。2回目以後の給付者の決定には、籤(くじ)取り、入札、順番制など種々の形が生じ、各人必要に応じ競い合う形にやがて移行する。「親無頼母子(親無無尽)」は上記した「親頼母子」の2回目以後の形の発展で、一般的な頼母子形式でもあった。まったく仲間の金融互助のため少額の積立金を毎回拠出して緊急必要の際その全額を受け取る一種の保険にも似た形である。発起人を親、講元と称したが、別段特権はなく、むしろ信用度が仲間を集める要因であり、またそうでなければ頼母子講は発起できなかった。給付者の決定は籤取りや入札によったが、競争入札で給付金の割引が一般化すると、複雑な「利回り」計算も生じて、やがて頼母子講は保険を兼ねた貯蓄利殖の手段にも転換していき、さらには営業無尽としてその企業化もみられるに至った。また古くから天狗(てんぐ)頼母子、鬮振(くじふり)頼母子など「富籤」に近い射幸的な形もある。一方農山村には、穀類の融通や牛馬、膳椀(ぜんわん)、ふとんなどの物品購入をめぐる頼母子・無尽も広くみられ、労力の互助慣行である「ユイ」と同じ性格を示してもいた。
[竹内利美]
講(頼母子講、無尽講)の法律的な性質は、口数を定めて毎期に一定の金銭を払い込み(掛込金などとよばれる)、毎回、抽選・入札などの方法で払い込まれた金銭その他の物の給付を順次受けることを約する契約、ということができる。営利目的のものについては相互銀行法と無尽業法で規制しており、相互銀行(金銭の給付)または無尽会社(金銭以外の物の給付)でなければ行うことができない。講の組織からみると二つのタイプに区別することができる(もっとも実際上はどちらか明確でないことも多い)。一つは講元(発起人)がその者の計算で講員(加入者)から掛け金を集め、給付をなすもので、講元と各講員との個別的な契約である。もう一つは講員全体の計算で全員の共同事業として行うもので、民法上の組合(667条以下)類似の性質をもつ。ただし講では給付を受けた既取者(掛戻金の支払い義務を残しているだけ)と未取者の利害に対立があるので、掛け金の取り立て方法の変更、講役員の選任や解任、講則の変更、解散など、既取者の分割弁済の利益などの点で不利益とならない限り、未取者のみの一致で決定できるというように、民法上の組合の規定を類推適用するに際しても修正が必要となる。
[伊藤高義]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…商品流通経済が活発化する鎌倉中期から出現したとみられ,その初見史料は1275年(建治1)12月の紀伊国猿川・真国・神野三荘荘官請文(《高野山文書》)である。頼母子の講は寺院の宗教活動のための講から発展したものとみられ,当初は寺院の財政窮乏対策として営利を目的として寺院が頼母子親となる,いわゆる頼母子講として出発したらしい。最も顕著なものは信貴山寺を親とする信貴頼母子(《光明寺古文書》)である。…
…この方法は落札すると講に出席しなくてもよいので取退無尽(とりのきむじん)と呼ばれた。また頼母子講と名付けてただ一度だけ集まり,くじに当たって落札した者が全員の掛金を得て解散するということも行われた。 万治年間(1658‐61)には河内国の俳諧師日暮重興が,連歌の付句の形式を踏襲した〈六句付〉を考案した。…
※「頼母子講」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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