出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報
イギリスの小説家。ロンドン郊外に生まれる。父アーサーは有名な評論家で出版社チャップマンの重役。兄アレックも小説家。オックスフォード大学で歴史を専攻するが,学位をとらずに1924年退学。28年バークレア卿の末娘との結婚のため《ロセッティ伝》を出版するとともに,当時の刹那(せつな)的な若者を喜劇的に描いた処女小説《衰亡記》を出版。翌29年事実上結婚を解消,30年には第2作《汚れた肉体》を発表し,同年カトリックに改宗した。タイムズ特派員としてエチオピア,アデン,コンゴなどを歴訪し,西欧文化をうのみにする現地人を揶揄的に描いた《黒いいたずら》(1932),どたばた偶然小説の傑作《一握の塵》(1934),挑発的なまでに護教的な伝記《殉教者キャンピオン》(1935)などを発表した。37年貴族の孫娘ローラ・ハーバートと再婚。第2次大戦とともに軍務に就き,《さらに多くの旗を》(1942)で戦争下のイギリスを描いた。戦後直ちに出版した《ブライズヘッド再び》(1945)は,戦前の名家の生活を郷愁をもって描き,アメリカでベストセラーとなった。この後もアメリカの葬式産業を風刺した《囁きの霊園》(1948),ウォー自身をパロディ化した《ピンフォールドの試錬》(1957)などを発表しているが,イギリスの伝統主義者の戦争中の活躍とその理想の現代への降伏を描いた三部作《名誉の剣》(〈戦士〉1952,〈紳士で士官〉1955,〈無条件降伏〉1961)が戦後最大の収穫である。ウォーの作風は初期は風刺喜劇的なもの,後期は風刺と伝統賛美が目立つが,その底に一貫しているのは,気取りとも見られかねない文化的教養からくる強烈な現代嫌悪ときわめて優れた文章力である。
執筆者:鈴木 建三
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