ウクライナの首都。ロシア語ではキエフКиевという。人口261万1000(2001)、289万3215(2018推計)。面積777平方キロメートルの大都市圏を形成し、その63%が緑地で、郊外にボリスピリ、ボヤルカ、ワシリコフをはじめ、キーウ貯水池のダムがあるビシゴロドなど、新居住区となっている小都市を擁する。中心市街はドニプロ(ドニエプル)川中流部の両岸に位置し、国際空港、河港があり、ハルキウ、国外のモスクワ、ワルシャワ、プラハなどへ鉄道が通じる。市内にはバス、トロリーバスのほかに地下鉄、ケーブルカー、渡し船などの公共交通機関がある。地形は、ドニプロ川の広い沖積地が左岸(東)にあるのに対して、「ウラジーミルの丘」と通称される比高約100メートルの丘陵や、緩い起伏の波状丘陵が右岸に高まり、対照的である。史跡に富んだ旧市街は右岸にあるが、松林地帯の左岸沖積地も多くが都市化されつつあり、住宅地区、空港などが設けられた。気候は穏やかな大陸性でやや乾燥し、植生は落葉広葉樹林で一部にステップ(短草草原)が混じる。月平均気温は1月零下5.8℃、7月19.5℃。
ウクライナ屈指の工業都市で、とくに精密機械や複雑な工程を要する機械工業に特色がある。ゴーリキー記念オートメーション工作機工場をはじめ、小型カメラ、映写機、ラジオ、テレビセット、理化学・医学機器、測定器、自動二輪車、航空機、造船、鉄道車両修理、道路建設用土木機械、食品工業用設備製造、ガラス工芸、陶磁器、絹織物、食品、たばこなどの工場がある。印刷、出版活動もきわめて盛んである。市の工業を支えるエネルギーは、ハルキウ地方やプリカルパティアの天然ガス、ドニプロ川の水力電気をはじめ、ヨーロッパ部の電力網に負っている。市の北方約20キロメートルには、ベラルーシ(白ロシア)共和国にまたがって、ドニプロ川をせき止めてつくられたキーウ貯水池がある。湖は長さ110キロメートル、最大幅12キロメートル、面積925平方キロメートル、貯水量3.7立方キロメートル、平均水深約4メートルで、1966年に完成した。発電能力55万1000キロワット。沿岸には保養地、レクリエーション基地が新設された。
市内には教育・文化施設も多く、国立総合大学、科学アカデミーなどのほか、タラス・シェフチェンコ記念館、歴史博物館、映画撮影所、プラネタリウムがある。ドニプロ川にあるトルハノフ島のスポーツセンター、子供たちだけで管理運行する小型鉄道(3キロメートル)、民家建築園、ウラジーミルの丘、その南に続く第二次世界大戦記念碑公園、トチとナナカマドの並木が美しい都心のクレシチャーチク大通りなどが市民の散策場である。また、多くの史跡に富む古都で、聖ソフィア寺院(現在、建築博物館)、かつての城門「金の門」などが残る。ペチェールシク(ペチェルスカヤ)大修道院には参詣(さんけい)人が多く、カタコンベ(地下墓所)も保存されている。
[渡辺一夫]
ロシアの『原初年代記』によると、キー、シチェク、ホリフの3兄弟によってこの町ができたとあるが、本格的な町の形成は6~7世紀のころとみられる。8世紀ごろにはビザンティン帝国など東方諸国との通商により発展し、9世紀末にキーウ・ルーシ(キエフ大公国)の成立に伴い、その首都となった。10世紀末にキエフ大公国のギリシア正教受容により、11世紀には府主教座が置かれ、聖ソフィア寺院、ペチェールシク大修道院などロシア最古の宗教的建造物がつくられた。12世紀まで、ノルマンよりギリシアに至るドニエプル通商路の中心として繁栄した。12世紀ごろに国内の政治的紛争、ポーロベツ人の侵攻、ドニプロ水路の役割の低下に伴って、政治・経済上の意義を喪失し、1240年のモンゴル軍による破壊を被って凋落(ちょうらく)した。14世紀にはリトアニア大公国に併合されて、しだいに繁栄を回復した。その後、リトアニア大公国とポーランドが連合王国を結成した(リュブリン連合、1569)結果、キエフはポーランド領となったが、ウクライナ人の反ポーランド運動の高揚に伴って、モスクワ大公の主権を認め、1686年にモスクワ国家への帰属が最終的に決定した。キエフ県の県庁所在地となり、19世紀には大学が設立され、金属、たばこ、醸造などの工業が発展した。
ロシア革命(1917)が起こると、1918年ウクライナ・ソビエト政府が置かれ、1934年にはウクライナ共和国の首都となった。第二次世界大戦中の1941年9月、ドイツ軍に占領されたが、20万の市民の犠牲を払って1943年11月に奪回された。
[伊藤幸男]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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