サークル運動(読み)サークルうんどう

改訂新版 世界大百科事典 「サークル運動」の意味・わかりやすい解説

サークル運動 (サークルうんどう)

職場,地域,学校などの仲間が自発的にする文化活動。〈サークルcircle〉という言葉が,文化活動を担う小集団を指して使われたのは,1931年6月に蔵原惟人ソビエトの用語例にならって,全日本無産者芸術連盟(ナップ)の機関誌《ナップ》で紹介したのが最初といわれる。その後コップが創設されて,〈サークル〉とは,革命思想を日本の大衆の中につくりだしていくための文化運動の小単位という意味で用いられ,コップ指導部は文化に対する政治の優位性を強調して,工場や農村にサークルを組織し,政治的課題に積極的に参加することを提唱した。しかし,共産党への弾圧が激しくなるなかでサークル運動も壊滅してしまった。戦時下にあって活動をしたサークルに,京都を中心に活動した《世界文化》と《土曜日》とがある。この二つのサークルは,軍国主義が市民生活をどのようにゆがめていくかに対して敏感に反応し,日常生活に立脚して状況を分析,記述していった。

 第2次大戦後,サークル運動はその性質を変えて,職場,地域,学校などで盛んになった。合唱演劇読書,映画,写真,生活記録,生活技術(洋裁,料理,いけばななど),スポーツなどのサークルである。これらのサークルには,相互の楽しみを求める社交的・娯楽的な要素と,生活に役立つ技術・教養を学習できるという要素が含まれている。またサークルの活動は,政党労働組合などの集団に比べて,少人数で緊密な人間関係が維持できるということから,次のような特徴がある。(1)公的な集団にあって一つの立場を主張したらそれを守りとおさなければならないのと違って,信頼の置けるつきあいのなかで,自我の組替えが起こり,前言をひるがえすことがしばしばある。また,仲間もそれを認められた一つの慣行としている。(2)優れた指導者が全体をひっぱるのではなく,それぞれの過程でいろいろな価値観がぶつかりあうことに意味があり,異なった価値観が結合して全体の総和がゼロになるような性格をもっている。(3)学校教育が目標に照らして善悪・正邪の二元的区分で一貫しているのに対し,たてまえの裏にあってそれを駆使する本音をとらえていくものとしてある。あいまいなものの存在が許される思考の場である。(4)以上のようなことから,サークル運動は社会変革を構想し育てる小集団とはなりえても,その構想を実践する運動母体としては不適当である。規律と管理が欠如しているからである。しかし,権力による抑圧に対する抵抗運動としては機能する。無規律であることが機動力を発揮させ,弾圧下で形を変えて運動を続けていくことを可能にするからである。

 このようにサークル運動は,あいまいではかない存在であり,そこにサークルがあったかどうかは,わずかな記録によってのみ知られ,時に,その記録もすぐに消えてしまうものとしてある。しかし,このはかなさを解消すべく組織の強化を図ることは,サークルとしての開かれたしなやかさを失い,運動は画一化し停滞してしまう。職場,地域,学校などでの秩序や役割から離れた,自由で平等な横の人間関係は,人間の他者を求める本源的な欲求に根ざしており,既成の人間関係や秩序を越える新たなつきあいを創出する。こうして生み出された新しい質のつきあいがサークルであり,サークルがもっているエネルギーや解放感,サークルの楽しさやおもしろさの源泉はここにあるといえよう。
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