ナップ(英語表記)nappe

翻訳|nappe

改訂新版 世界大百科事典 「ナップ」の意味・わかりやすい解説

ナップ
nappe

ほぼ水平な衝上断層(スラスト)によって,長距離滑動してきた巨大なシート状の異地性岩体をいう。多くの場合,著しく褶曲(しゆうきよく)し,おしかぶせ構造をなしている。フランス語のnappe(食卓布)が語源で,ナッペとも読む。ドイツ語系の同義語としてデッケDeckeがある。その成因として横臥(おうが)褶曲(横ぶせ褶曲,おしかぶせ褶曲)のより進んだ段階でついに下方の逆転翼がちぎれてできたとする説や,かつての地形的高まりから,重力によって滑り落ちてできたとする説などがある。ナップ構造が典型的に発達し,最もよく調べられているのがアルプス山脈である。ここではいくつものナップが積み重なってナップ群(デッケンパケート)をつくっている。例えば,有名なシンプロントンネルのある地域では,4枚のナップが認められる。個々のナップの中心部は,花コウ岩,ミグマタイトあるいは片麻岩からなり,核岩とよばれる。これに対し,結晶片岩や弱~非変成の堆積岩が核岩をおおうように包んでおり,皮殻岩とよばれる。かつて核岩は一時代前のバリスカン造山運動時代のものといわれていたが,最近ではアルプス造山運動によってナップが前進してきたときに形成されたものと考えられている。なお,ナップが現在の位置に移動してくる前にあったところ,ないしナップの基部を根とよぶ。根では,一般に地層は垂直に近く急傾斜している。ナップが浸食によって根から切り離され,孤立して分布するとき,クリッペklippeとよぶ。有名なミテン山のクリッペは,白亜系~古第三系のフリッシュ層の上により古い三畳系~ジュラ系がのっている。これと反対にナップのある部分がとくに浸食されて,ナップより下の地層群がナップ中に露出したとき,これを地窓(フェンスター)という。オーストリア中央部のホーエ・タウエルン地域は,西アルプスのペンニン帯の岩石が東アルプスの中に顔を出しているところといわれている。このようなナップやおしかぶせ褶曲を作るような造山運動をアルプス型造山運動とよぶ。日本でも秋吉台に大規模な横臥褶曲が知られており,秋吉造山運動の名がこのような構造をつくる地殻変動に対して名付けられた。また最近では,西南日本の三郡-山口帯三宝山帯の中・古生層中にも大規模なナップが見いだされている。
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ナップ
NAPF

全日本無産者芸術連盟のエスペラント語Nippona Proleta Artista Federacio(NAPF)の頭文字を組み合わせた略称。1928年三・一五事件を契機に,それまで分裂していたプロレタリア芸術連盟(中野重治ら)と前衛芸術家連盟(蔵原惟人ら)とが合同して結成された。文学,演劇,美術,音楽などの領域で共産主義芸術を確立すべく活動した。5月に創刊された機関誌戦旗》には,小林多喜二,徳永直,三好十郎らの新人が登場してきた。青野季吉らの労農芸術家連盟が通称〈文戦派〉(機関誌《文芸戦線》の略)と呼ばれたのに対して〈戦旗派〉と呼ばれた。同年12月,文学部,演劇部の構成をプロレタリア作家同盟,同演劇同盟,同美術同盟などそれぞれ独立組織にし,協議体に組織変更して名称を全日本無産者芸術団体協議会とした(略称は同じ)。30年9月には新しい機関誌《ナップ》を創刊し,従来の《戦旗》を大衆啓蒙誌と定め,左翼芸術運動の理論,宣伝,組織の任務を担った。ナップの活動は昭和初期のプロレタリア芸術運動を高揚させ,31年11月にはコップ(日本プロレタリア文化連盟)へと発展解消した。
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ナップ

全日本無産者芸術団体協議会(ナップ)の機関誌(月刊)。菊判。1930年9月に共産主義芸術を大衆,とくに工場や農村に普及させるために創刊された。その中心人物は蔵原惟人や中野重治らで,小林多喜二,村山知義,佐多稲子,中条(宮本)百合子らが活躍し,青野季吉,葉山嘉樹らの《文芸戦線》派より活況を呈していた。文学に限らず映画,絵画,演劇,音楽に関する論評も多かった。31年11月ナップがコップ(日本プロレタリア文化連盟)に発展解消されたのにともなって廃刊され,《プロレタリア文化》(1936年12月創刊)に引き継がれた。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナップ」の意味・わかりやすい解説

ナップ

芸術運動団体「全日本無産者芸術連盟」「全日本無産者芸術団体協議会」の略称,およびその機関誌名。エスペラントの Nippona Artista Proleta Federacioの頭文字 NAPFによる。「全日本無産者芸術連盟」は,1928年3月 25日,分裂を続けてきたプロレタリア文学運動を統一するため共産主義的主張をもつ部分を統合して発足。機関誌『戦旗』を創刊したが,同年 12月作家同盟,演劇同盟,美術家同盟など独立した諸組織の協議体となり,全日本無産者芸術団体協議会と改称,機関誌には新たに『ナップ』 (1930.9.~31.11.) を創刊,昭和初期プロレタリア運動のヘゲモニーを握った。弾圧がきびしくなった 31年に解体,運動はコップに引継がれた。 (→日本プロレタリア作家同盟 )  

ナップ
nappe

デッケともいう。被覆層がほぼ水平の断層間に沿って,滑動している地質構造。大規模なナップは古く西アルプスで認められた (1893) 。ナップの成因として,(1) 地層が強く圧縮された結果,過褶曲が倒れて横臥褶曲となり,転倒した翼部が引伸ばされ,ほぼ水平の面で切れて滑動した,(2) 高く隆起した部分が重力に支えきれなくなって低いほうに緩傾斜した面で切れ,上に乗った部分が低部に向い滑動したという2つが考えられている。ナップの語源は,フランス語の食卓布。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「ナップ」の解説

ナップ

全日本無産者芸術連盟の略称。NAPF。1928年(昭和3)3月に結成されたプロレタリア芸術運動団体。機関誌「戦旗」。分裂していた前衛芸術家同盟・日本プロレタリア芸術連盟・労農芸術家連盟の3団体のうち,共産党支持の前二者が合同。同年末に改組して全日本無産者芸術団体協議会(略称ナップ)とした。蔵原惟人(これひと)・中野重治・小林多喜二・徳永直(すなお)・佐多稲子・宮本百合子らによって空前の発展をみせた。31年コップ(日本プロレタリア文化連盟)に改組。

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世界大百科事典(旧版)内のナップの言及

【蔵原惟人】より

…翌年帰国,まもなく日本プロレタリア芸術連盟に参加,《現代日本文学と無産階級》(1927)等の評論で注目された。28年中野重治らと共産党支持の芸術組織ナップ(全日本無産者芸術連盟)を結成,この組織を中心にプロレタリア文学・芸術が作品面でも運動面でも空前の高揚に向かうその先頭に立った。作品制作におけるプロレタリア・リアリズムと政治的前衛の観点という主張は,小林多喜二ら多くのプロレタリア作家に影響を与えて,その文学・芸術運動を共産主義文学・芸術運動に導き,やがて31‐32年に,共産党の政治主義によって運動が孤立し崩壊する道行きをも彼が主導することになった。…

【日本プロレタリア作家同盟】より

…文学運動団体。プロレタリア芸術運動団体〈ナップ〉の文学部が,1928年12月〈ナップ〉の改組に伴い,独立して日本プロレタリア作家同盟として結成されたもの。〈ナップ〉を構成する各領域のプロレタリア芸術団体のうちの中心的な部分となり,また,労農芸術家連盟(文芸戦線派)の社会民主主義的傾向に対立して共産主義文学運動の立場をかかげ,明治以来の絶対主義支配の圧倒的な重圧のなかで,ラディカルな文学闘争を展開してプロレタリア文学運動のヘゲモニーを握った。…

【プロレタリア音楽】より

…略称〈労芸〉)が分裂,同年11月にはこの労芸から林房雄,蔵原惟人,山田清三郎らが脱退して前衛芸術家同盟を結成したが,この同盟にも音楽部が設立された。次いで28年3月,前記のプロ芸と前衛芸術家同盟が合同して,全日本無産者芸術連盟(略称〈ナップ〉)が結成され,その専門部の一つとして音楽部が設置された。29年4月にはこれがナップの組織替えの方針により日本プロレタリア音楽家同盟(略称〈P.M.〉)として独立。…

【プロレタリア文学】より

…革命運動内の政治党派のせめぎ合いも激しくなり,青野たちは山川均を中心とする労農派支持に進み,蔵原たちはこれと対立した共産党の側に立った。当時共産党は非合法下の最前衛の党派で,三・一五事件などの大弾圧のなかでそれに屈せず活動していたので,本来,美的にも徹底的なものを追求する文学者は,中野重治をはじめとして多くの部分が共産党支持に向かい,三・一五事件直後にその弾圧に抗するようにして結成された全日本無産者芸術連盟(のち〈連盟〉が〈協議会〉に変わるが,略称はともにナップ。中野たちの日本プロレタリア芸術連盟(略称,プロ芸)と蔵原たちの前衛芸術家同盟(略称,前芸)との合体を中心に成立。…

※「ナップ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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