ナガサキアゲハ(読み)ながさきあげは(英語表記)great mormon

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナガサキアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ナガサキアゲハ
ながさきあげは / 長崎揚羽
great mormon
[学] Papilio memnon

昆虫綱鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科に属するチョウ。日本では九州全域および四国南半の平地から低山域に普通、それ以南の南西諸島に広く分布するが、八重山(やえやま)諸島では希種となる。中国地方山口県下に発生するようになったのは1930年代で、以後、中国地方を東進し、現在は京都府下にまで分布を広げている。和歌山県下ではすでに定着したものと認められるが、これは四国東部地域由来のものと推定される。奈良、大阪、三重の諸県下で近年発見される散発的な個体は、和歌山県下からの拡散であろう。日本以外ではネパールミャンマービルマ)、タイからマレー半島、スマトラ島、ボルネオ島、ジャワ島にわたり東洋熱帯にその分布は広い。はねの開張は110~125ミリメートル程度。雄は翅表が黒色で無尾。雌は翅表が黒褐色後翅白斑(はくはん)があり、通常は無尾、まれに有尾型がある。無尾であること、雌雄ともに前後翅裏面基部に日本産のほかの黒色のアゲハ類にない橙赤斑(とうせきはん)の出るのが著しい特徴である。九州北部あたりでは年3回の発生、第1化は5月から、第2化は6月下旬~7月上旬から、第3化は8月中・下旬から出現する。南西諸島ではさらに発生回数を増す。ほかの黒色のアゲハ類に比べて飛び方は緩やかである。幼虫食草は各種のミカン類、カラタチなどのミカン科植物である。同じミカン科でもサンショウ類、キハダ類、コクサギなどは食草とはならない。

[白水 隆]


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改訂新版 世界大百科事典 「ナガサキアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ナガサキアゲハ
great Mormon
Papilio memnon

鱗翅目アゲハチョウ科の昆虫。大型のチョウで,開張は11~12cmに及ぶ。雌雄で色彩斑紋が異なり,雄はクロアゲハに似た濃藍色の翅で尾はなく,表面にほとんど斑紋がないが,雌は前翅の地色がやや明るく,中室基部に赤紋があり,後翅には白から橙色に至る明色紋列が存在し,地方的変化に富む。雌は国外では後翅に尾状突起のあるものがふつうで,まれに九州などでも有尾の雌が見られることがある。インドから東南アジアの熱帯に広く分布し,日本が分布の北限。本州では近畿地方の一部に達しているが,九州以外ではあまり多くない。奄美大島や沖縄の雌は翅が白化する傾向があり,雌雄は別種のように見える。成虫は大型種中もっとも緩やかに飛ぶ。幼虫はミカン科の栽培種をとくに好み,ハマセンダン,サンショウなどの羽状複葉種は食べない。幼虫は小さいうちから硬い葉を好み,この点でモンキアゲハと異なる。食樹の関係で集落やミカン園の周辺に多く,山地にはまれとなる。年2~3回の発生,さなぎで越冬する。和名はツンベリーが長崎で採集したものが日本産として最初に記載されたことによる。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ナガサキアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ナガサキアゲハ
Papilio memnon

鱗翅目アゲハチョウ科。前翅長 55~82mm。雌雄とも後翅に尾状突起を欠く。雄は黒色で後翅外半部に灰青色鱗を散在するが,春型では前翅基部に小型赤色紋が現れるものがある。雌の翅色は変化に富み,地色は褐色を帯びた黒色で,前翅の中室基部に赤色紋があり,後翅に白色紋と赤色紋があるが,後翅の白色紋の変化は著しい。幼虫はミカン類の葉を食べ,成虫は年2~4回出現する。本州 (紀伊半島と中国地方) 以南,アジア東南部に広く分布する。なお熱帯産の雌には有尾の型がある。

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小学館の図鑑NEO[新版]昆虫 「ナガサキアゲハ」の解説

ナガサキアゲハ
学名:Papilio memnon

種名 / ナガサキアゲハ
目名科名 / チョウ目|アゲハチョウ科
解説 / 分布を北上させています。メスの白斑は南の地方ほど発達します。
体の大きさ / (前ばねの長さ)60~70mm
分布 / 関東地方以西
成虫出現期 / 九州では4~10月
幼虫の食べ物 / ミカン、カラタチ、ユズなど

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百科事典マイペディア 「ナガサキアゲハ」の意味・わかりやすい解説

ナガサキアゲハ

鱗翅(りんし)目アゲハチョウ科の1種。開張120mm内外,黒色で,雄は後翅に青色鱗があり,雌は白紋と赤紋がある。地方的および個体変異が著しく,熱帯地方の雌には有尾のものもある。四国,九州,本州(山口・島根・広島・和歌山県),沖縄,台湾,中国〜インド,インドネシアに分布。幼虫はミカン類の葉を食べ,蛹(さなぎ)で越冬する。

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