精選版 日本国語大辞典 「引付」の意味・読み・例文・類語
ひき‐つけ【引付】
ひっ‐つ・く【引付】
ひっ‐つ・ける【引付】
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(1)中世社会で後日のために先例となる事例を書き留めたり,証拠となる文書等を書写し集めたもの。《貞丈雑記》には,〈引は後日の証拠に引用る為に書き留む也。付とは記し付る也〉とある。
形式的には,ある機関や組織における評定記録のような日次記(ひなみき)の形をとる場合と,同じく発給した文書あるいは受け取った文書を日付順に写し集めたものがある。いずれも後日に備えて,運営上の先例となる事例等の記録となり,ときには照会・点検の原簿となるよう,当事者がその職務遂行の過程で作成したものである。様式的には,たとえば《東寺百合文書》の〈廿一口方供僧評定(にじゆういつくかたぐそうひようじよう)引付〉は,東寺寺内の供僧の自治組織のひとつ〈廿一口方〉において開催された評定の記録であるが,年預の僧が執筆し,評定出席僧の交名(きようみよう)を掲げ,当日の議事を記載している。また室町幕府の〈政所賦銘(まんどころくばりめい)引付〉は,政所へ提訴された訴訟について,担当者が受理した訴状を書き留め,訴状に加えられた銘(端裏銘)と同文の記事を引付に記載している。さらに興福寺の〈御挙状等執筆(ごきよじようとうしゆひつ)引付〉は,興福寺から訴え出た訴状の挙達,および僧事の補任推挙に関する挙状を書き留めたものである。機能的には,《東寺百合文書》の場合,原文書と,その文書の関連記事とともに引付に書写されている文書控(案)があり,文書の発給あるいは受理の経過を引付の記事が証明する。また賦銘引付では,訴状の原文書の端裏銘と,引付の記事との照合により訴訟進行手続がわかり,興福寺の挙状執筆引付の場合には,引付所載の各挙状控(案)の宛所によって,寺内外の事実関係が確かめられる。
一般に文書は,所定の目的をはたすために差出人から宛所へ機能するものであるが,引付も,引付の記事そのものが,照会あるいは同定の作業という他者へ働きかける機能をもち,たんなる備忘録や日記の域をこえた,きわめて文書に近い役割をはたすものである。
執筆者:橋本 初子(2)鎌倉・室町両幕府の裁判機関。引付方の略称。名称の由来は,幕府の評定会議に提訴された訴状や会議の議事録を書き留めた書類を引付といったことにちなむのであろう。1249年(建長1),引付書類を執筆する奉行人と訴訟案件の責任者(評定衆)を中心に,評定会議の下での裁判機構として成立したのを始まりとする。
執筆者:五味 文彦
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
原義は引照する,参考とする,の意。転じて,のちの参考のために手控えを作成すること,また手控えそのものをいう。その手控えは(1)多く寺社などで作成された日々の出来事の記録,(2)作成した文書について発給した側で残しておく手控えに大別される。鎌倉・室町両幕府の訴訟審理機関としての引付の称は,関係資料や記録を作成・管理し訴訟審理に用いることからきたと考えられる。鎌倉幕府では,裁判の迅速化を目的として1249年(建長元)に設置され,引付衆が3~7の番にわかれて順次訴訟を担当,奉行人を指揮して相論の審理にあたり,結果を評定の場に上申した。室町幕府も当初この制をおいたが,応永初年(14世紀末)には廃絶した。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「動植物名よみかた辞典 普及版」動植物名よみかた辞典 普及版について 情報
…この手続を担当する役人は賦奉行であるが,単に賦とも呼ばれた。鎌倉幕府は訴訟制度を発達させたが,執権北条時頼の時代には,訴訟専門の審理機関として引付(ひきつけ)が設けられた。これは若干名の引付衆と若干名の奉行人とから成るチームで,〈一番引付〉〈二番引付〉などと呼ばれ,その数は時代によって変化があった。…
…鎌倉・室町両幕府の裁判機関。単に引付ともいう。1249年(建長1)12月9日に初めて置かれた機関で,三~五方の部局に分かれ,所領相論を中心とする裁判を担当した。…
…次に西国の政務や裁判がある。文永(1264‐75)前後から諸機関の整備が進められ,1267年までに評定衆(ひようじようしゆう),78年までに引付(ひきつけ)ができ,97年までには五方引付が成立している。所務沙汰(しよむざた),雑務沙汰は,鎌倉末まで引付が担当していたが,はじめは探題の権限が強く,引付を中心とする裁判が確立したのは1300‐08年(正安2‐延慶1)ころであった。…
※「引付」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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