法曹至要抄(読み)ほっそうしようしょう

改訂新版 世界大百科事典 「法曹至要抄」の意味・わかりやすい解説

法曹至要抄 (ほっそうしようしょう)

院政期から鎌倉初期の法律書著者としては坂上明兼説とその孫坂上明基説の2説があるが,明兼のとき原型ができ,明基のときまでに微細な修補が加えられたものと思われる。上・中・下の3巻で,罪科条(公罪)62項,禁制条(服色・過差等禁制)14項,売買負債出挙借物・質物・預物各条(売買貸借法)23項,荒地条(土地所有権法)3項,雑事条17項,処分条(相続法)17項,喪服・服仮各条28項,雑穢条(触穢法)13項,総計177項から成る。各項は,前文律令格式等の法源を挙示し,本文(案文)で法意・判断を示す2部構成となっている。同書は,律令格式を法源として引用しながらその法意に大幅な解釈改変を加え,院政期から鎌倉初期の社会的現実に照応する法体系を作り上げたものだった。このため,私撰ではあったが明法家の提要として利用され,現実の法曹実務,判決作成に規範的効果を有した。《群書類従所収
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「法曹至要抄」の意味・わかりやすい解説

法曹至要抄
ほっそうしようしょう

平安時代末期から鎌倉時代初期にかけての公家(くげ)の法書。その原型は、明法家(みょうぼうか)坂上(さかがみ)氏の家学形成の産物として平安末期には成立し、その後加筆がなされたとされている。上巻(罪科)、中巻(禁制・売買・負債・出挙(すいこ)・借物(しゃくもつ)・質物・預物(あずかりもの)・荒地・雑事)、下巻(処分・喪服・服仮・雑穢(ぞうえ))を内容とする全三巻。各条項ごとに、律令格式(りつりょうきゃくしき)およびその注釈書を引用して、その後、編者の案文(あんぶん)(意見)を記している。案文のなかには、社会の現実に即した新たな法理の創出もみられ、刑事法の分野では、御成敗式目(ごせいばいしきもく)の条文構成への影響も指摘されている。『群書類従』所収。

[古澤直人]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「法曹至要抄」の解説

法曹至要抄
ほっそうしようしょう

「ほうそうしようしょう」とも。公家法の簡明な参考書。3巻。撰者は明法家の坂上明兼(さかのうえのあきかね),またはその孫の明基(あきもと)の両説がある。平安末期か鎌倉初期の成立。律令格式(きゃくしき)の引用とそれに対する案文をつける形式をとる。公家法の実際に行われたようすを知ることができるとともに,律の逸文や検非違使(けびいし)の庁例など他書にない法文を多く伝えている。「群書類従」所収。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「法曹至要抄」の意味・わかりやすい解説

法曹至要抄
ほっそうしようしょう

平安時代末期~鎌倉時代初期の法制書。坂上明基が源実朝の求めにより著わしたとされている。3巻。律令の用語を注解し,独自の見解を述べている。すでに散逸した法制書や検非違使庁の庁例などを多数引用している点でも貴重。

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旺文社日本史事典 三訂版 「法曹至要抄」の解説

法曹至要抄
ほっそうしようしょう

平安末期〜鎌倉初期成立の法律書
3巻。著者は坂上明兼とも,その孫明基ともいう。罪科・禁制・売買・負債などの条下に裁判に必要な各事項をたて,律令・格式を引いて,要語の解釈や注を加えたもの。源実朝の求めに応じたものともいわれる。

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世界大百科事典(旧版)内の法曹至要抄の言及

【公家法】より

… このような前提のもとに,公家法の成立にとって重要な画期となったのは院政期であった。すでに11世紀を通じて,社会経済的な面における中世的体制が確立しつつあったが,このような社会的現実に対応し,中世的社会体制に照応した法体系となったのが,12世紀に成った法書《法曹(ほつそう)至要抄》であった。同書は全177条から成り,その法規は刑事,民事(所有権・相続・婚姻・奴婢・売買貸借等),諸種の禁制等にわたるが,これらの法規は,当時の裁判の中で規範的機能を有した。…

【裁判至要抄】より

…全33条。《法曹(ほつそう)至要抄》のうち,土地所有権,相続,売買貸借法等,民事的規定に修正を加え,新たな法意をうち出したもの。各条項の構成は,前文で律令格式等の法源を挙示し,本文(案文)で法意・判断を示す2部構成となっている。…

※「法曹至要抄」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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