案文(読み)アンブン

デジタル大辞泉 「案文」の意味・読み・例文・類語

あん‐ぶん【案文】

[名](スル)案として作った文章。また、その文章を書くこと。あんもん。「案文を練る」「教書案文する」

あん‐もん【案文】

[名](スル)あんぶん(案文)

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精選版 日本国語大辞典 「案文」の意味・読み・例文・類語

あん‐もん【案文】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 文書(もんじょ)草案草稿。下書(したがき)。土代(どだい)
    1. [初出の実例]「空延時日、尺牘案文、未決断」(出典:続日本紀‐養老六年(722)七月己卯)
    2. 「一御下知被成事。以評定落去事書、奉行書御下知案文、引付披露」(出典:沙汰未練書(14C初))
  3. 文書の写し。原本(=正文(しょうもん))の複本。謄本。ひかえ。案本。⇔正文
    1. [初出の実例]「如此文書往代以正文国料案文寺料」(出典:権記‐長保六年(1004)二月一四日)
    2. 「以外記伴信道、内案示見給由、留案文」(出典:御堂関白記‐長和五年(1016)七月一〇日)
  4. 中世訴訟法で、訴状・陳状に添えて提出した、正文の写し。結審後、奉行が裏判を加えると正文と同じ効力を有した。具書。具書案。
    1. [初出の実例]「奉行校正、令案文裏之上者、可正案之条、不異論」(出典:粉川寺文書‐永仁五年(1297)九月五日・学頭権律師仙実状)
  5. あんぶん(案文)
    1. [初出の実例]「あんもんは何と、かき申べきぞと、とひ給へば」(出典:御伽草子・法妙童子(室町時代物語集所収)(室町末))
    2. 「証文の案文がちんぷんかんでしれませず」(出典:談義本・八景聞取法問(1754)五)
  6. あれこれと、くふうすること。
    1. [初出の実例]「あの位(くれ)へ奇妙な案文(アンモン)〈案文とは、思案工夫といふことの心得にていふなるべし〉を考へる者さへあるのに」(出典:西洋道中膝栗毛(1874‐76)〈総生寛〉一三)

あん‐ぶん【案文】

  1. 〘 名詞 〙 案として作る文章。また、その文章を考えること。あんもん。
    1. [初出の実例]「同じ電報を三通じゃぞ。で、その案文はと」(出典:千鳥(1959)〈田中千禾夫〉)
    2. [その他の文献]〔梁書‐劉顕伝〕

あんじ‐ぶみ【案文】

  1. 〘 名詞 〙 下書き。草稿。案。あんもん。
    1. [初出の実例]「うちむかひぶみと申侍るは〈略〉案じぶみなどもものせでつかふまつる文なり」(出典:随筆・嬉遊笑覧(1830)三)

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改訂新版 世界大百科事典 「案文」の意味・わかりやすい解説

案文 (あんもん)

古文書学上の用語。案ともいう。文書を作成の順序に従って分けると,(1)草案,(2)正文(しようもん),(3)案文,(4)写しとなる。文書を作成するには,まず草案(草(そう),土代(どだい)ともいう)を作り,それを清書して相手に渡す。これが正文であるが,場合によっては作成者が控えをとっておくことがある。案文とは,主として正文を受け取った人が,いろいろな目的の証拠書類として作成した写しであって,これが狭義の案文である。また草案や作成者側の控えを含めて案文と総称することがあるが,これが広義の案文である。いずれにしても,案文とは文書の本質的な効力に即して作られた草案,控え,写しである。これに対して,文書の効力に直接関係なく,後代に参考のためあるいは学問研究のためなどに作られたものが写しである。正文,案文,写しはこのように規定できるが,実際の場合明確でないことが多い。これまで案文とされてきたもののうちにも,料紙,筆跡自署端裏銘などの検討により,正文とすべきものが含まれている。ことに案文と写しについては混乱がはなはだしい。中世文書についていうならば,それが証拠書類として効力を有した中世に作成されたものが案文で,文書としての効力を失った近世以降に作成されたものが写しというように規定すべきである。

 案文が作成されるのは,つぎの五つの場合である。(1)法令命令などを下達し,または正文の内容を第三者に連絡する場合,(2)訴訟の証拠書類として作成する場合,(3)所領・所職を分割移転する場合,(4)正文の紛失に備えてあらかじめその控えを作成しておく場合,(5)正文を紛失,あるいはそれが失効したとき,所定手続を経て正文に代わる写し(これを紛失状という)を作成する場合である。(1)(2)(3)(4)の案文には,正文と同一であることを証明するため,然るべき人がその案文の裏に花押をすえたものがある。これを裏封案文(うらふうあんもん)といって,とくに証拠能力の高い案文である。なお近世文書においては草案に当たるものを案といい,正文を写したものを写しというが,これ以外にも控,留と呼ばれるものもあり,これらの整理は今後の課題である。
執筆者:

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「案文」の意味・わかりやすい解説

案文
あんもん

古文書学上の用語。案ともいう。文書の本質的な効力に即してつくられた草案、控え、写しのことである。案文ということばには広狭二義がある。文書を作成するには、まず草案(草稿)をつくり、それを清書して相手方に届ける。これが正文(しょうもん)であるが、受け取った人はいろいろな目的のための証拠書類として正文の写しをつくる。これが狭義の、すなわち厳密な意味の案文である。一方、草案も、発信者側の控え、すなわち証拠書類として用いられる場合もあり、広い意味の案文である。案文のうちで、とくにしかるべき資格のある人が、正文と照合して間違いがないことを確かめ、そのしるしに合点(がってん)を付し、裏にその旨を書いて花押(かおう)を据えたものを正校裏封案文(しょうきょううらふうあんもん)といい、もっとも証拠能力の高いものである。これに対して、文書の効力に直接関係なく、後代になってから参考のため、あるいは学術研究のためにつくられたのが写しであって、案文とは区別される。

[上島 有]

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「案文」の解説

案文
あんもん

案とも。本来の文書(正文(しょうもん))に対する語。正文作成後に,それに準じて作られた写しの文書のうち,効力も正文に準じるもの。同文の文書を複数の受取人に出す場合や,正文を紛失した場合,訴訟のときに証拠として提出する場合,権利の一部を他人に譲与する場合などに作成される。たんに参考のためや学問的な興味から写され,効力までを期待しないものは写(うつし)とよばれる。

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百科事典マイペディア 「案文」の意味・わかりやすい解説

案文【あんもん】

古文書学用語。文書を布達する場合,文書の控えとして保存する場合,正文(しょうもん)を渡すことができない場合などに作成される文書の写し。文書作成の際の下書き(草案)をさすこともある。正文がなくなっても案文が残ることがあり,重要史料となる。
→関連項目口宣案

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世界大百科事典(旧版)内の案文の言及

【古文書】より

…相手方に届けられたものを正文(しようもん)という。正文は草稿・控え,さらには次に述べる案文(あんもん)に比べて,形式・内容ともに完備しており,古文書の研究にもっとも重要な資料となる。一方これを受け取った方は,証拠書類としてその写しを作成する。…

【正文】より

…古文書学上の用語。案文(あんもん)に対する言葉で,しかるべき手続を経て作成され,相手方に送られて文書としての機能をはたしたものをいう。したがって正文は案文などに比べて,形式・内容ともに整っており,古文書の研究において最も重要な資料となるものである。…

【紛失状】より

…平安中期,土地私有の発展と土地証文の価値の社会的上昇に対応して,亡失財物の中の紛失文書が特記され,〈謹解申請在地証判事〉などと書き出す解状(げじよう)形式の紛失状が分化発展した。そしての様式が廃れたのち,紛失状の様式は〈立申紛失状事〉などと書き出す申状(もうしじよう)の形式が多くなり,と同時に,内容的に複雑化して亡失書の案文(あんもん)が付記されたり(このことによって紛失状は案書(あんそ)または単に案文といわれる場合もあった),証判が1通の独立した文書(紛失安堵状と称する)となる場合も起きた。ところで,証判者,紛失安堵者は文書紛失にともなう紛争を防止,もしくは調停する力を期待されていた。…

※「案文」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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