男子性腺(精巣)機能不全(読み)だんしせいせんせいそうきのうふぜん(英語表記)Hypogonadism

家庭医学館 の解説

だんしせいせんせいそうきのうふぜん【男子性腺(精巣)機能不全 Hypogonadism】

[どんな病気か]
 精巣睾丸こうがん))は、脳下垂体(のうかすいたい)など神経系の上位中枢(じょういちゅうすう)から分泌(ぶんぴつ)される性腺刺激(せいせんしげき)ホルモンゴナドトロピン)の刺激を受けて男性ホルモン(おもにテストステロン)を分泌します。また精細管(せいさいかん)で精子(せいし)形成を行ないます。精巣間質細胞(かんしつさいぼう)から分泌されたテストステロンは精子形成を促進させるほか、陰茎いんけい)、精巣上体(せいそうじょうたい)、精管(せいかん)、精嚢(せいのう)、前立腺(ぜんりつせん)などの性器系の発育を促します。
 また、体毛、ひげ、筋肉骨格声帯せいたい)など全身に作用して、男性としての第二次性徴(だいにじせいちょう)を完成させます。
 精巣機能不全とは、こうした精巣の機能が障害されたため、十分な男性の二次性徴がおきない状態の総称です。広い意味では、男子不妊症やインポテンスも含まれますが、それぞれ別に項目がありますので、ここでは身体的な男らしさが完成されない男性二次性徴の障害について解説します。
[原因]
 病因を大別すると、精巣そのものの障害と、間脳(かんのう)、視床下部(ししょうかぶ)、下垂体(かすいたい)系(まとめて上位中枢系という)の障害とに分けられます。
 精巣の障害は、生まれつきの障害のほか、外傷結核(けっかく)などの感染症、腫瘍(しゅよう)など、さまざまな原因でおこります。実際には、性染色体の異常によるクラインフェルター症候群(「クラインフェルター症候群」)がもっとも多くみられます。上位中枢系の障害にも、生まれつきの障害のほかに、外傷、脳腫瘍(のうしゅよう)など、さまざまな原因があります。
[検査と診断]
 問診で小児期からの発育の過程を詳しく聞くとともに、性器系の診察が重要です。
 ホルモンの検査も必要ですが、これは早朝に採血するとよいでしょう。男性ホルモン(テストステロン)の分泌量は、1日のうちで変動がみられ、午後はかなり低くなるからです。
 血中のゴナドトロピン(LH、FSH)の値を調べると、障害の部位を診断できます。精巣自体の障害ならゴナドトロピンの値は高くなり、上位中枢系の障害なら、著しく低い値を示すからです。
 精巣自体の障害(ゴナドトロピンが高い場合)で、特別な病気にかかったことがなければ、まずクラインフェルター症候群を疑います。
 クラインフェルター症候群は、染色体構成で正常男性よりX染色体を余分に有するために生ずるもので、血液(白血球(はっけっきゅう))の染色体を調べれば簡単に診断できます。比較的に手足が長く、ときに女性のような乳房がみられます。無精子症(むせいししょう)ですが、勃起(ぼっき)にはあまり障害がみられず、しばしば男子不妊症として受診して発見されます。
 上位中枢系障害(ゴナドトロピンが低い場合)で、もっとも多くみられるのは、ゴナドトロピン単独欠損症(たんどくけっそんしょう)です。この病気は、間脳、視床下部に生まれつきの障害があるためにおこると考えられています。しばしば嗅覚(きゅうかく)障害をともない、カルマン症候群と呼ばれています。男性二次性徴はほとんど現われず、身長は成人なみになっても、体毛、ひげは非常に薄く、男性化のきざしはほとんどみられないのが特徴です。
 この病気と区別のむずかしいものに、思春期遅発症(ししゅんきちはつしょう)という病態があります。これは二次性徴の発来が著しく遅れるもので、遅いものでは20歳を過ぎてようやく二次性徴が始まることもあります。その経過はゴナドトロピン単独欠損症と似ていて、専門家でも区別がむずかしいことも少なくありません。ゴナドトロピンの分泌が低いことによる障害には、ほかに下垂体腫瘍などがあります。
[治療]
 精巣が障害されて高ゴナドトロピンとなっている場合、精巣の機能を回復させることはほとんどできません。そこで、男性ホルモンの補充療法を行なうことになります。
 男性ホルモン剤は内服剤では十分に効果を発揮することができず、ふつう1~2週間に1度の筋肉注射による治療が行なわれています。治療の効果は顕著で、1~2年続けると性器も十分な発達が得られ、骨格、筋肉も変化して、人がちがったと思われるほどになることがしばしばです。ただし、この療法を行なうと、精巣そのものはさらに縮小してしまいます。
 上位中枢系の障害のうち、下垂体に障害があるものは、ゴナドトロピン注射療法(週に2~3回)を行ないます。これによって精巣が発達します。さらに上位の間脳、視床下部に障害がある場合は、ゴナドトロピン放出ホルモンを半永続的に皮下注入する治療法もあります。しかし、つねに自動注入器を携帯しなければならず、効果が弱いなどの欠点があって、ゴナドトロピン注射療法が選択される場合もあります。
 なお、これらのホルモン療法は、残念ながら、いずれも半永続的に続けなければなりません。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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