ドイツ後期ロマン主義の詩人。上部シュレジアの古い貴族家系に生まれる。ハイデルベルク、ベルリン、ウィーンなどで、A・v・アルニム、C・ブレンターノ、F・シュレーゲルら多くのロマン派の人々と交わり、強い影響を受けた。しかし、ロマン主義者にありがちな過剰な自我意識におぼれる病的な性格は、彼の実生活にも作品にもほとんどみられない。1816年から28年間に及ぶプロイセン官吏としての実直な生活を営む一方、人々からは「ロマン主義の最後の騎士」と賞賛されたように、生活、文学両面において、志操堅固な自己抑制を心得た詩人であった。静かなカトリック的宗教感情のうちに内化させた自然体験を、簡潔でなじみやすい形象を使って歌う彼の叙情詩は、素朴で民謡に近く、また優れた音楽性が特徴である。シューマン、ウォルフらの作曲によっても広く親しまれている。しかし、彼の名を広め国民各層にもっとも愛読されているのは、中編『のらくら者の生活から』(1826)である。遠い世界へのあこがれと郷愁に揺られながら、気ままにさすらう若い主人公は、ロマンチックな生き方の一典型を示す。ほかに小説『予感と現在』(1815)や短編『大理石像』(1819)など散文数編がある。また、戯曲や17世紀スペインの劇作家カルデロンの翻訳、さらに宗教的文学観から晩年10年間には特異な文学史や戯曲論、小説論などをも手がけ、叙情詩人アイヒェンドルフの新たな一面をのぞかせている。
[久保田功]
『川村二郎訳『のらくら者』(『筑摩世界文学大系77 ドイツ・ロマン派集』1963・筑摩書房・所収)』▽『アイヒェンドルフ著、神品芳夫他訳『フリードリヒの遍歴』(1970・集英社)』▽『石丸静雄著『予感と現在 詩人アイヒェンドルフの生涯』(1973・郁文堂)』
ドイツの詩人,小説家。シュレジエンの南端にあったルボビッツの館に生まれる。貴族の出だが,父の死とともに土地を手放し,プロイセンの官吏となって生計を立てる一方,ドイツの自然や若者の心情をうたう抒情詩をつくり,後期ロマン派を代表する詩人となった。彼の詩は民謡風な素朴な表現によって自然の魅惑と放浪の心をうたっているが,詩句が呪文となって幻想の自然を呼び出すと,無限の広がりを見せる。シューマンやH.ウォルフらの作曲によって不朽の芸術歌曲となった詩もあり,民謡として親しまれている詩もある。民族主義の盛んな時期に,彼の詩はドイツの国土と民族精神を賛美するものともてはやされたが,彼の詩の本質は,さまよえる魂が自然の根源へ帰郷しようとする願望であり,彼の表現する郷愁は,どの土地にもどの人間にも共通するものであった。熱心なカトリック教徒であり,中世の修道院の復興を唱えるなど,敬虔な魂と質実な生活を取り戻そうという心情が前面に出ており,信仰も彼の文学の養分である。またこの立場は,市民階級興隆の時代に局外者の目で市民社会の虚偽性を洞察する視点を彼に与えた。貴族階級の出身者を主人公にした長編小説《予感と現在》(1815)はその洞察を含みつつ激動の時代の絵巻を繰り広げ,短編《のらくら者の日記》(1826)には律義な市民の生活を突き抜けた底ぬけの明るさが漂う。《ドイツ文学史》(1857)はカトリックの立場から書かれた異色のものである。
執筆者:神品 芳夫
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