アシエント(その他表記)asiento

改訂新版 世界大百科事典 「アシエント」の意味・わかりやすい解説

アシエント
asiento

スペイン語で〈契約〉の意。歴史用語としては,16世紀から18世紀半ばにかけてスペイン政府が特定個人ないし外国政府と交わした,スペイン領新世界植民地への黒人奴隷供給契約のこと。スペイン領植民地は深刻な労働不足状態にあったから,この契約に基づく奴隷供給とそれに伴う商品貿易は莫大な利潤があがると信じられ,この契約をめぐる争いが重商主義戦争の重要な原因となった。はじめは個人としてのスペイン人やポルトガル政府,1701年からはフランス政府がこの契約権を握っていたが,13年ユトレヒト条約締結に際してイギリスがこれを奪った。イギリスは以後30年間,毎年4800人の奴隷を供給し,毎年1回商品貿易に従う〈年次船〉500トンを派遣する権利を得たのである。イギリス政府はこれを南海会社にゆだねたが,会社は予想したほどの利益をあげえず,〈年次船〉の行う密貿易紛争火種となってスペインとの間に戦争さえ起こったので,1750年にはこの契約権を放棄し,アシエントもその歴史的役割を終えた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アシエント」の意味・わかりやすい解説

アシエント
あしえんと
Asiento
Assiento

広義では、奴隷、タバコ、麦などのスペイン領アメリカへの供給、徴税業務、鉱山真珠の開発などに関し、スペイン王権が民間人との間に結んだ独占的請負契約のこと。狭義では、1595年に従来の許可制にかわってスペイン王権が奴隷貿易に導入した独占的請負制。同年ペドロ・ゴメスに初のアシエントが与えられて以来、1640年まではポルトガル商人に、17世紀後半からはイタリア、オランダの商人に、1701年にはフランス王立ギネア会社へ、1713年にはユトレヒト条約によってイギリス南海会社へ与えられた。これにより奴隷貿易は黄金時代を迎えたが、ヨーロッパ列強は密貿易の隠れ蓑(みの)としてアシエントを利用したため、アメリカ大陸におけるスペインの独占は徐々に崩壊していった。そのため請負人と植民地官吏との紛争が絶えず、1739年にはイギリス・スペイン間の「ジェンキンズの耳」戦争に発展、1750年イギリスはアシエントを放棄し、以後、奴隷貿易を含むアメリカ大陸貿易は自由貿易の時代に移行していった。

清水 透]

『R・メジャフェ著、清水透訳『ラテンアメリカと奴隷制』(1979・岩波書店)』

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「アシエント」の解説

アシエント
asiento

元来はスペイン王室が個人や団体,会社などに与えた商業的独占権をさす。ラテンアメリカでは,飲料タバコ,食料,鉱産物などのアシエントが成立したが,なかでも収益性の高い奴隷貿易のアシエントが重要視された。最初の奴隷輸入のアシエントは1528年スペイン国王と関係のあった二人のドイツ人に与えられたが,その後王室が直接に奴隷供給を行うことになった。アシエント制は1580年に復活したが,スペイン継承戦争の期間(1701~13年)フランスの王立ギネア会社に与えられ,さらに1750年ユトレヒト条約でイギリスの南海会社に与えられた。これに伴って起こった密輸問題がジェンキンズの耳戦争を誘発した。50年以後スペイン王室は再び直接奴隷貿易を支配しようとしたが成功せず,73年奴隷貿易自由化を認めた。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「アシエント」の意味・わかりやすい解説

アシエント
Asiento

「契約」「請負約束」を意味するスペイン語であるが,歴史的には,スペイン領アメリカに黒人奴隷を供給する「特権」をさす。 16世紀中頃からスペインはアメリカ植民地経営のためにアフリカから黒人奴隷を輸入し,この奴隷供給の特権を個人に認めてきた。しかし,ユトレヒト条約によって,アシエントは正式にイギリスに与えられた (1713~50) 。これによってイギリスの南海会社が 30年間,毎年 4800人の黒人奴隷をスペイン領植民地へ供給する権利を承認された。

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世界大百科事典(旧版)内のアシエントの言及

【奴隷貿易】より

…ただし,利潤率については,数十%から100%以上という推計もある。一方,新世界に広大な植民地を領有しながら,黒人奴隷の供給源をもたなかったスペインは,16世紀から18世紀半ばにかけて奴隷供給の請負契約制(いわゆるアシエント)を採用したが,高い利潤の期待できたこの契約は,イギリス,フランス間の重商主義戦争の一因となった。ユトレヒト条約(1713)でこれを握ったイギリスでは,奴隷貿易に従事する南海会社の株価が急騰し,南海泡沫事件の原因となった。…

※「アシエント」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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