本人・家族(親しい知人・友人等も含む)・医療者(介護従事者も含む)の三者が、現在の病状や今後予想される病気の経過を共有し、現在の治療やケアについてだけでなく、将来的な治療やケアの方針や目標などについて、話し合いを重ねるプロセスのこと。英語の頭文字をとってACPと略称する。本人にとっては、人生の最終段階をどのように過ごすか、何を望むのかを考えることであり、家族にとっては、本人の体調が急に変化したり、十分な意思疎通ができない状況になったときに備え、本人の意向を会話のなかで把握することであり、医療者にとっては、より本人や家族の意向を踏まえた医療を提供しやすくなるといったよい点がある。
2000年(平成12)~2005年に起きた富山県内の病院における人工呼吸器取り外し事件が報道されたことを契機として、厚生労働省は2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定。2015年には「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に名称変更し、2018年に改訂版の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」を発表した。そのなかではとくにACPの重要性が強調されており、近年活発に議論されるようになってきた。
また、前述のガイドライン改訂の検討過程で、厚労省はACPの考え方の普及・啓発が必要とし、「ACP愛称選定委員会」を設置。同委員会は2018年に、より国民になじみやすいACPの愛称として「人生会議」を選定し、ホームページ等を通じて、普及・啓発活動を行っている。
終末期医療において、以前は、具体的な対応を一つ一つ検討する「事前指示書」(「アドバンス・ディレクティブ:AD」。日本尊厳死協会は「リビングウィル」としている)が重要視されていたが、事前に決めておいても本人の意向は状況によって変化することがあり、また実際の医療現場では意思決定が必要な場面が急に生じたり、病状が変動するなかで生じたりなど、事前指示書で想定しているよりも複雑であることが多い。そこで、より本人の意向を反映することができるACPが重要視されるようになってきた。また以前は医療機関における延命治療への対応のみを想定していたが、ACPでは生活を支えるケアも重視して、在宅医療や介護の場でも活用できることを目ざしている。
ACPでは、話し合いにおいて、具体的な治療やケアについての希望(「食事がとれなくなっても、胃瘻(ろう)にはしたくない」「人工呼吸器はつけたくない」など)を伝えることは主目的ではなく、「どうしてそのように考えるのか」「なぜそのような選択をしたくないのか」といった考え方や価値観を本人・家族・医療者の三者が共有することで、本人による意思決定がむずかしくなったときでも、「本人ならばこう考えるだろう」と納得して家族が意思決定できたり、医療者が本人や家族の意向を尊重した医療を提供しやすくなることも重要視されている。なお、本人の意思を推定する「家族」については、将来的に単身世帯が増えることも踏まえ、友人などを「信頼できる者」とし、それをだれにするのか、前もって決めておくこともACPの一つである。また、心身の状況、時間の経過に応じて本人の意思は揺れ動くものであるため、いまだけでなく、繰り返し継続的に話し合い、それをその都度文書にまとめるなどして関係者で共有するそのプロセスこそが重要とされる。
[渡邊清高 2022年4月19日]
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