上位・下位関係に整序されたピラミッド型の秩序ないしは組織のことをいう。ヒエラルキー、ハイアラーキーhierarchyともいわれ、階統制、位階制、身分階層制などと訳されている。語源はギリシア語で「神聖な支配」を意味しているといわれている。元来は天上界における天使の序列を意味したが、やがて教会における聖職者の序列をいうようになり、さらには中世社会の身分秩序をさすようになっていった。
これが社会科学上の概念として用いられる場合には、まず初めは、人格的な隷属関係が成立し、しかもそれが同時に価値の序列として表れ正当化されることによって形成された身分階層が、国王―領主―家臣―領民といった固定的rigidな上下関係を構成するようになった身分階層制をさすものとして使用された。しかし、近・現代社会がそれとはまったく対照的な原理に基づいて組織化されていくにつれて、その特有の組織原理をさすものとしてこのヒエラルヒーの概念は用いられるようになったのである。その組織原理を、M・ウェーバーは適切にも「職務のヒエラルヒー」とよんでいる。
近代的な巨大組織においては、職務が機能的、技術的な観点から固定的に分割・分配されるとともに、指揮・命令系統は下が上に従属するという形で整序され、その結果、その組織はあたかも1個の機械のように能率的に運営されていく。この職務のピラミッド型の体系をウェーバーは「職務のヒエラルヒー」とよんだのであるが、今日ではそうした体系を一般的にヒエラルヒーとよんでいる。もっともこのヒエラルヒーは、機能的・技術的階層化が価値の序列に転化したり、権限が特権化したり、上位者の独断・専制を許したりする弱点を内在しており、その弱点を克服するために、知識・情報社会化に伴ってビューロクラシー(官僚制)からテクノクラシーへの脱皮が叫ばれたのである。
現代情報社会においては、このヒエラルヒーは新しい情報テクノロジーに支えられたネットワーキングと対比される。
[矢澤修次郎]
『M・ウェーバー著、世良晃志郎訳『支配の社会学』全2巻(1960、1962・創文社)』
一定の価値原理にもとづき,または一定の職能体系のなかで,人びとやこれに準じた対象が上下の序列関係に位置づけられ,ピラミッド型に組織された場合,この組織原理および実際に形成された組織体のことをいう。階統制,位階制,身分階層制などと訳されることが多い。たとえば天国の天使たちの間で序列上の地位が3段階に分かれるように,地上の世界で聖職者たちも,カトリックでは司教・司祭・助祭と,東方正教では主教・司祭・輔祭というように序列上の地位が分かれている。この地位の相違は神の栄光と啓示があらわれる段階的な地位の違いを示しており,高い地位ほど高い価値にかかわり高い権威をもつというふうに説明された。このように,この言葉はもともと教会用語としての起源をもっており,およそ6世紀の文書にも〈神聖なものによる管理〉の意味で〈ヒエラルキア〉という言葉が記されているといわれる。そして9~13世紀にかけて教皇を頂点とする堅固な組織を形成していたカトリックの巨大な教会組織は,それ自体がヒエラルキアと呼ばれた。そこでは,聖職者たちの単なる職能的な序列づけられた組織が形成されたばかりでなく,この地上の経済・政治・文化・社会・自然のいっさいが一元的な信仰世界としてヒエラルヒー的に秩序づけられ,この世界を維持・発展するための支配の仕組みが成り立っていたのであった。
今日では,この言葉は上述のような価値原理と切り離され,たとえば官僚制,軍隊,企業,政党,組合などの活動を合理的に編成していくための分業的な組織原理,とりわけM.ウェーバーが《経済と社会》(1921-22)において,近代行政官僚制の巨大組織を説明するのに用いたように,職務上の地位序列および指揮命令系統における上下関係の秩序状態を指すために適用されることが多い。だが,それが単なる機能上の地位分化にとどまらず,権威の体系や支配の手段となりうることも指摘されている。
執筆者:新 睦人
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…はじめに提示した理解の仕方は,基本的にこのウェーバーの官僚制論に負っているのである。
[ウェーバーの官僚制論と問題点]
ウェーバーによれば近代官僚制とは,組織に必要な活動が合理的に分業化され,法規の定める権限によってそれを執行する力が与えられること,階統制(ヒエラルヒー)と呼ばれるピラミッド型構成がとられ,これにより上命下服の関係が体系化されること,専門の原則が支配し,職員の採用は専門能力の有無によって決定され,世襲や情実による採用が排除されるとともに,いったん採用された職員はその地位を保障され,昇進制が確立されること,および職務の執行にあたり職員には私情を抑えることが強く求められ,不公平な取扱いが回避されること,などの合理性をもった組織であるとされたのである。 このような編制方法が合理的であるとされるわけは,ウェーバーにより近代官僚制と対置された家産官僚制の特質をみることによって明らかとなるであろう。…
…身分を尺度として人あるいは家の社会的地位を構断的な階層によって区別する社会制度あるいはその組織原理のこと。しばしばヒエラルヒーhierarchieの訳語としても用いられるが,ヒエラルヒーがピラミッド型に組織された人あるいはそれに準じた対象の上下の序列(支配従属)関係の総体を示すのに対して,身分階層制は構断的な層が形成されていることに力点が置かれており,両者はこの点で区別される。 封建社会や第2次大戦前の日本社会では,個人の社会的地位(身分)がその個人の属する家の価値によって決定される場合が多いので,身分階層も家の階層,すなわち家格の横断的階層として理解されることが多い。…
※「ヒエラルヒー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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