改訂新版 世界大百科事典 「あらくれ」の意味・わかりやすい解説
あらくれ
徳田秋声の長編小説。1915年(大正4)《読売新聞》に連載,同年,新潮社より単行本として刊行。幼いときに東京近郊で製紙業をいとなむ農家の養女となったお島は,養家のすすめる婿をきらって家を飛びだし,缶詰屋と結婚したり,山国の旅館の主人と関係したりするが,やがて被服厰の下請けをしている洋服屋と世帯をもつ。共働きの生活にはじめて女としての生きがいを自覚したものの,結局,お島は夫の凡庸さに愛想を尽かし,職人の一人と通じて〈独立〉しようと決心する。先行作《足迹(あしあと)》《爛(ただれ)》と同じく,流転する女の半生を描いているが,野性的で自我のつよい女主人公を職業的自立と結びつけたところに新味がある。
執筆者:前田 愛
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報