日本大百科全書(ニッポニカ) 「アンドル鉱」の意味・わかりやすい解説
アンドル鉱
あんどるこう
andorite
銀(Ag)・鉛(Pb)およびアンチモン(Sb)を主成分とする硫塩鉱物の一つ。原記載によって与えられた理想式AgPbSb3S6と斜方(直方)晶系の対称を満足させるものはなく、1984年フランスのモエロYves Moëloらは斜方(直方)晶系の対称を与えるものは、最初に与えられたc軸方向の周期4.24Å(オングストローム)の6倍の超格子をもち、化学組成式はAg12CuPb10Sb37S72が適当であると判断した。この鉱物はアンドル鉱‐Ⅵあるいは六重アンドル鉱senandoriteとよばれている。モエロらは、これ以外にAg15Pb18Sb47S96という単斜晶系(擬斜方)の相があることを確認し、これをアンドル鉱‐Ⅳまたは四重アンドル鉱quatrandoriteとよんだ。日本でも兵庫県養父(やぶ)市中瀬(なかせ)鉱山(閉山)産のアンドル鉱が、理想組成式Ag3CuSb12S24に近い化学組成と単斜晶系の対称をもつということで、一時、中瀬鉱nakaséiteという名称で新鉱物として記載されたことがあったが、現在はこの名称は用いられていない。
外形は短柱状で複雑な庇面(ひめん)や錐面(すいめん)が発達し、ときにb軸方向に扁平(へんぺい)になる。深~浅熱水性鉱脈型金・銀鉱床に産する。日本では秋田県湯沢市の院内(いんない)鉱山(閉山)から石英脈中に産する。共存銀鉱物としては濃紅銀鉱、脆銀(ぜいぎん)鉱、含銀安四面銅鉱などがあり、これら以外の硫化物としては黄鉄鉱、閃(せん)亜鉛鉱などがある。同定は他の銀‐鉛‐アンチモンの硫塩鉱物と識別しがたい。劈開(へきかい)はないが、破面は独特の平滑さをもち、結晶は非常にもろい。錆(さ)びた面と新鮮な面とが比べられれば、前者のわずかに黄色を帯びた色調で見当がつくことがある。命名はハンガリーの貴族でアマチュア鉱物学者でもあったアンドル・フォン・セムセイAndor von Semsey(1833―1923)にちなむ。セムセイ鉱も彼にちなんで命名されている。
[加藤 昭 2015年12月14日]