世界各地の〈絣〉を総称する用語。語源はマレー語の〈縛る〉とか〈括(くく)る〉を意味するムンイカットmengikatである。絣はあらかじめ文様にしたがって染め分けた絣糸を用いて織ることが大きな特徴である。その絣糸を作る最も素朴な技法がいわゆる〈括り絣〉,つまりイカットの技法である。絣糸の用い方によって,(1)経絣(たてがすり)warp ikat,(2)緯絣(よこがすり)weft ikat,(3)経および緯絣warp and weft ikat(経と緯の絣糸が別個の文様を構成するもの),(4)経緯絣(たてよこがすり)double ikat(経と緯の絣糸の重なりによって一つの模様が構成されるもの)に分けられ,さらに未開人の腰蓑などに見られるような,絣糸をそのまま垂らした状態のものを,(5)プロト(原)・イカットproto-ikatと称する。文様織としては絣糸を平織にするだけのきわめて単純なものであるから,エジプト,インド,ペルシア,トルキスタン地方をはじめ,東南アジア,中国,日本,さらに中南米など世界的に広く分布している。発生と伝播の経路については判然としていないが,過去の染織文化の交流から,インドを中心に西はイラン地方から南ヨーロッパへ,東は中国および東南アジア,さらに琉球,日本へと伝播していき,一方チリ,グアテマラなど中南米の絣は独自に発生したものではないかと考えられている。今日知られている世界の絣で最も代表的なものを挙げると,インドの婚礼用サリーに用いられるパトラpatolaと呼ばれる絹の経緯絣,北インド,イラン地方の絹のビロード絣,トルキスタン地方の華やかな絹の経絣,そしてインドネシアの木綿絣などがある。とくにインドネシアでは木綿の経絣が最も多く,ほとんど全域で行われている。ジャワ,バリ,ボルネオ,セレベス,スマトラの一部では絹の緯絣が,バリ島テンガナン村には経緯絣がある。文様はいずれも幾何学的なものが多いが,それぞれの島あるいは部落の信仰に結びついた独特のものが織られており,なかでもスンバ島の絵絣,テンガナンのワヤン人形文様の経緯絣などには魅力的なものがある。もちろん江戸時代中期以降にめざましく発達した日本の絣もまた素材・技術の多様性において,インド,インドネシアの絣に比肩しうる豊かな内容をそなえている。なおフランス語のchiné,英語のcloudsもまた絣のことで,ヨーロッパでは18世紀中葉から盛んに生産された。しかしこれは整経した経糸に文様を摺り込んで絣糸とした,いわゆる〈捺染絣〉を主としている。
→絣
執筆者:小笠原 小枝
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…中国の〈飛白〉やヨーロッパで用いられるフランス語の〈シネchiné〉(まだらの意)などの名称も,同じ理由による。しかし今日では世界共通の染織用語として,〈結ぶ〉とか〈縛る〉を意味するマレー語のイカットikatという言葉が一般的に用いられる。 日本で絣織が飛躍的に発達するのは江戸時代中期以降,とくに後期から明治にかけてである。…
…中国の〈飛白〉やヨーロッパで用いられるフランス語の〈シネchiné〉(まだらの意)などの名称も,同じ理由による。しかし今日では世界共通の染織用語として,〈結ぶ〉とか〈縛る〉を意味するマレー語のイカットikatという言葉が一般的に用いられる。 日本で絣織が飛躍的に発達するのは江戸時代中期以降,とくに後期から明治にかけてである。…
※「イカット」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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