いで(読み)イデ

デジタル大辞泉の解説

いで[感]

[感]
対象をある行動に誘ったり、促したりする気持ちを表す。さあ。どうぞ。
「―、君も書い給へ」〈・若紫〉
思い立って行動しようとする気持ちを表す。さあ。どれ。いざ。
「橘の古婆の放髪(はなり)が思ふなむ心愛(うつく)し―我は行かな」〈・三四九六〉
強く心に感じたときの気持ちを表す。いや。いやもう。
「―、あな心憂」〈・一三八〉
自分の心にそぐわないとき、また相手に同意できないときなど、否定的な気持ちを表す。いや。さあ。
「―、さも侍らず」〈大鏡・序〉
改まって事柄を述べるときに用いる。さて。そもそも。
「―、またいみじく侍りしことは」〈大鏡・道長下〉

いで[接助]

[接助]活用語の未然形に付く。
打消しを表しながら下に続ける意を表す。…ないで。…ずに。
「問ひも致さ―、不念(ぶねん)なことを致いた」〈虎明狂・末広がり
(「いでは」「いでも」の形で)打消しの仮定条件を表す。…なくても。
「わたしや子供は何着―も、男は世間が大事」〈浄・天の網島
[補説]「ずて」が音変化した打消しの助詞「で」の前に伴われるn音が独音の母音iに転じて成ったという。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

大辞林 第三版の解説

いで

( 感 )
誘いかけたり、促したりする時の呼び掛けの語。さあ。 「 -我が駒早く行きこそ/万葉集 3154
思い切って行動を起こしたり、決心したりする時に発する語。どれ。いざ。 「 -、この返事、さわがしくとも我せん/源氏 行幸
詠嘆や感動を表す語。いやもう。 「 -、あはれ/狭衣 1
問いに対して否定の返事をする時や、承服しかねる時に発する語。いや。さあ。 「 -、そこにしもぞめで聞え給はん/源氏 行幸」 「 -、さも侍らず/大鏡
話を始める時に言う語。さて。そもそも。 「 -その頃は元暦元年三月十八日の事なりしに/謡曲・八島」

いで

( 接助 )
〔「ずて」の転。中世以降の語〕
動詞の未然形に付く。現代語の「ないで」に相当する。
上の事柄を打ち消し、特別の感情をもって中止する。 「衣を帯につかぬるやうに夫にそは-ぞ/毛詩聴塵」
上の事柄を打ち消し、下の用言の修飾語となる。 「いとまもこは-はなんとあらうぞ/史記抄 5」 〔現代語でも関西方言では用いられる〕

出典 三省堂大辞林 第三版について 情報

精選版 日本国語大辞典の解説

いで

〘感動〙
① 人をある行動に誘う、またはある行動を起こすよう請い求める気持を表わす。いや。さあ。
※書紀(720)允恭二年二月「且曰はく、『圧乞(イデ)、戸母(とじ)、其の蘭(あららき)一茎(ひともと)』といふ」
※源氏(1001‐14頃)若紫「いで、君も書い給へとあれば」
② みずから思い立って行動しようとする気持を表わす。決意、決心などを表わすこともある。さあ。どれ。どれどれ。いざ。
万葉(8C後)一四・三四九六「橘の古婆(こば)の放髪(はなり)が思ふなむ心愛(うつく)し伊弖(イデ)(あれ)は行かな」
※虎明本狂言・雁盗人(室町末‐近世初)「すいさんな、いでめに物みせう」
③ 強く嘆き、または感動する気持を表わす。事の意外さに驚き嘆く気持の場合が多い。いや。いやもう。いやまあ。
※落窪(10C後)二「いで、あなにく。人あまたもたるは歎き負ふなり」
④ その事態や、また、いだいた気持などを、疑い否定する気持を表わす。否定表現を伴うことがある。さあ。いや。いやもう。
※万葉(8C後)一一・二四〇〇「伊田(イデ)何かここだはなはだ利心(とごころ)の失(う)するまで思ふ恋ゆゑにこそ」
※源氏(1001‐14頃)帚木「いで、およずけたる事は言はぬぞよき」
⑤ 改めて、ことばを話し出すとき、物語の冒頭などに用いる。さて。そもそも。
※大鏡(12C前)六「いで、またいみじく侍りしことは」
[語誌]中世末期、近世初期頃の狂言資料においては、ほぼ②の用法に限られており、それも「いで物見せう」「いで食らはう」というような固定化された用法が多いことや、文体的には語りの部分へ集中していることなどから、かなり衰退していたものと思われる。

い‐で

〘接助〙 活用語未然形を受け、打消の意を表わしながら下に続ける。「…しないで」の意。主として中世末期から近世にかけて用いられた。
史記抄(1477)三「此言はようも不心得事をば、注しもせいてをいたそ」
説経節・さんせう太夫(与七郎正本)(1640頃)上「山へゆき、しばをからいでもどるならば」
[語誌]語構成に関して、「で」が打消の接続助詞であることはたしかであるが、「い」の部分に関して、(イ)「で」の前にあった鼻音がはっきり音節化し、独立して「い」となったとするもの、(ロ)鼻濁音の「で」の鼻音性が薄れたため近似の音「い」で代用したとするものなど諸説がある。

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