中世スペインのアラビア語著述家、神学者。コルドバでウマイヤ朝高官を父として生まれた。ウマイヤ朝が衰退し、父が没するとともに迫害を受け、1013年にはコルドバを離れてアルメリアへ移った。ここでウマイヤ派とみなされて投獄、追放されてバレンシアへ行った。ここでまたも投獄され、1019年にコルドバに戻り、1023~1024年にアブドゥル・ラフマーン5世‘Abd al-Ramān Ⅴ(在位1023~1024)のもとで7週間大臣となったが、このカリフ(最高指導者)が暗殺されるとまた投獄され、次にハティバへ行き、ここで『鳩(はと)の頸(くび)飾り』を書いた。こののちは、イスラム正統派からは異端視されていたザーヒル派の立場から激しい神学的論争を行い、各地で禁圧を受けてマジョルカ島へ難を避け、疲れ果てて最後にバダホス近くのカサ・モンティハの家族のもとで没した。著作は400もあったといわれるが多くは散逸し、10種ほど残っている。なかでも『アル・ミラル・ワン・ニハル』(諸宗派の書)はイスラム思想史上重要であるが、文学的には『鳩の頸飾り』のほうがよく知られている。これは恋愛および恋する人についての諸例を30章に分けて書いたもので、スタンダールやモーロアの『恋愛論』の先駆をなす、と評されている。
[矢島文夫 2018年4月18日]
『黒田寿郎訳『鳩の頸飾り』(1978・岩波書店)』
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イスラム・スペイン時代の代表的神学者,法学者,哲学者,歴史家,詩人。コルドバの名家に生まれ,諸学を修めた。若くして内戦に巻き込まれ,各地を流浪しながらきわめて広範な著作活動を行った。代表作《諸宗派についての書》は,ユダヤ教,キリスト教,イスラムについての一種の百科事典であるが,イスラムの諸学派に対してはザーヒル派の立場から批判を加えている。また文学作品《鳩の頸飾り》は,イスラムの恋愛論の白眉である。
執筆者:花田 宇秋
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出典 日外アソシエーツ「367日誕生日大事典」367日誕生日大事典について 情報
…その中にあってイブン・クズマーンIbn Quzmān(?‐1160)が完成したムワッシャハmuwashshaḥaと呼ばれる副韻と脚韻を連節形式にまとめた詩形式や,口語をとり入れたザジャルzajal詩は,プロバンス語を通じヨーロッパ文学に影響を与えた点で注目に値する。散文の方では神学者兼政治家イブン・ハズムが恋愛論に関する《鳩の頸飾り》という傑作を残している。アッバース朝末期には,それまでアラブの文学形式に欠落していた叙事詩的大衆文学が生まれた。…
※「イブンハズム」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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