ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イブン・バットゥータ」の意味・わかりやすい解説
イブン・バットゥータ
Ibn Baṭṭūṭah
[没]1368./1369./1377. モロッコ
中世イスラム世界の大旅行家。フルネーム Abū `Abd Allāh Muḥammad ibn `Abd Allāh al-Lawātī al-Ṭanjī ibn Baṭṭūṭah。1325年メッカ巡礼のため故郷を出てから,ひかれるままに西アジア,東アフリカ,アナトリア(小アジア),クリミア半島,黒海の北部地方,中央アジア,インド,東南アジア,中国といった未知の国々や地域を旅行,1349年にひとまず帰国し,まもなくスペインのグラナダ王国や西スーダン(→スーダン地方)を訪れた。移動距離は延べ約 12万kmにも及び,その間デリー・サルタナットのトゥグルク朝の王ムハンマド・ビン・トゥグルクをはじめ,少なくとも 60人のスルタンら君主のほか,多数の政府高官,行政官,大使らと出会い,彼の記録によるとその数は 2000人以上に上った。故郷モロッコを支配していたマリーン朝の王アブー・イナーンの命(1353)で,イブン・バットゥータが書き手であるイブン・ジュザイーに口述した回想記『都市の珍奇さと旅路の異聞に興味をもつ人々への贈物』Tuḥfat al-nuẓẓār fī gharā`ib al-amṣār wa-`ajā`ib al-asfārは,一般に『リフラ』Riḥlah(『旅行記』の意。邦訳では『三大陸周遊記』『大旅行記』など)と呼ばれ,マルコ・ポーロの諸国誌と並び称されるほど精彩に富んだ内容で,紀行文学のなかで重要な地位を占めている。
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