イワタバコ(その他表記)Conandron ramondioides Sieb.et Zucc.

改訂新版 世界大百科事典 「イワタバコ」の意味・わかりやすい解説

イワタバコ
Conandron ramondioides Sieb.et Zucc.

山地の湿った岩上に生えるイワタバコ科の夏緑多年草。葉の形や花の感じがタバコに似ているのでイワタバコの名がある。葉は軟らかく,少数(1~3枚)が褐色の毛を有する根茎から出て,岩壁では垂下している。形は楕円形から長楕円形,先はとがり,辺縁には不整のまばらな鋸歯があり,葉身基部は葉柄に流れ翼状となる。花期は夏,10cm前後の花茎を垂らし,数個から20個近い花を散状につける。淡紫色の花は径2cmほど,花冠は放射状に5深裂し,5本のおしべと1本のめしべを有する。果実は細長く,多数の微細な種子をいれる蒴果(さくか)。越冬芽はちりめん状の葉を有していて特異である。暖温帯,日本(東北以南)と台湾に分布する。イワタバコ科の中では耐寒性があり,イワギリソウとともに最も北方に分布する種である。若葉苦みがあるが軟らかく粘り気があって食用にされるし,山草として花を観賞。また胃腸薬として民間で利用されることがある。

熱帯を中心に約85属1100種を含む双子葉植物合弁花類の一群グロキシニアセントポーリアのように花がきれいなため,観賞用に栽培されるものが多い。ほとんどは多年草,ごく一部が木本になる。葉は単葉で托葉はなく,対生する。花は両性花,多くのものは大型で目立ち,合弁で,はっきりした左右相称形になる。合着した萼は,先端部で5裂し,花冠は5枚の花弁からなり,それが上下2裂片からなる2唇形となるが,ときにはイワタバコやセントポーリアのようにほとんど放射状の花形を作ることもある。おしべは4本あるいは2本,葯はしばしば相対したものが合着する。子房は2枚の心皮が合生したもので1室,上位,あるいは多少とも下位になる。種子は微細で多数。塊根を有したり,着生の種では葉が貯水器官となり多肉化していることがある。ハマウツボ科やノウゼンカズラ科,ゴマノハグサ科に近縁で,花を観賞する以外には,あまり利用されない。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「イワタバコ」の意味・わかりやすい解説

イワタバコ
いわたばこ / 岩煙草
[学] Conandron ramondioides Sieb. et Zucc.

イワタバコ科(APG分類:イワタバコ科)の多年草。葉は根際につき、楕円(だえん)状卵形で基部は翼のある柄となり、表面は光沢があってしわがよる。冬は葉が丸まって球となり越冬する。花茎は長さ10~30センチメートル。6~8月、散形花序をつくり紅紫色の花を横向きに開く。花冠は深く5裂し、裂片は反り返る。丘陵帯から山地帯の日陰や湿った岩壁に生え、秋田・岩手県以南の本州、四国、九州に分布する。名は、岩場に生え、葉がタバコの葉に似るのでいう。

 関東地方以西の本州の太平洋側には、花茎、花序、葉の裏面に毛のある変種があり、ケイワタバコという。なお、イワタバコ属は花冠は放射相称、雄しべは5本あり、アジアに2種分布する。

[高橋秀男 2021年7月16日]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「イワタバコ」の意味・わかりやすい解説

イワタバコ(岩煙草)
イワタバコ
Conandron ramondioides

イワタバコ科の多年草。日本特産で関東地方以南に生える。谷間の湿った岩壁に着生する。葉は根生して垂れ下がり,楕円形で縁に不規則な鋸歯があり,多少ちぢれてつやがある。夏に,葉の間から1~2本の花茎を出し,数個の紫色の花をつける。花冠は深く5裂し,ナスの花に似ていて美しい。葉がタバコと似て岩の上に生えるのでこの名がある。この科の植物には葉がキリの葉に似て,花は筒状でやや唇形のイワギリソウ,樹木に着生するシシンラン,ブラジル原産のグロキシニヤ (オオイワギリソウ) などがある。

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百科事典マイペディア 「イワタバコ」の意味・わかりやすい解説

イワタバコ

イワタバコ科の多年草。本州〜九州および台湾に分布し,谷あいなどの岩壁に群生する。葉は1株に1〜2枚つき,ゆがんだ楕円状卵形で長さ10〜30cm,表面にしわがあり柔らかい。6〜8月,長さ約15cmの花茎の先に,紅紫色の美しい花が数個つく。花冠は径約1.5cm,皿形で5裂する。山野草として観賞する。葉は薬用,食用となる。葉や花の感じがタバコに似,岩壁につくのでこの名がある。

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