賃金支払形態は基本的に時間払いと出来高払いとに二大別されるが,出来高払系統の生産能率に応じて賃金収入を変動させる能率刺激的な賃金形態を一括して〈能率給〉または〈業績給〉と呼んでいる。この場合,能率のとり方から分類すると出来高制と時間割増制に大別される。前者は単位個数当りの賃金単価(個数賃率)を決め,出来高数量に応じて支払う方式であり,後者は単位出来高に対する標準作業時間と時間賃率を決めておき,出来高に応ずる標準作業時間を基準として支払う方式である。能率給の適用の単位からみると,個々の労働者に適用する〈個人能率給〉と,労働者の集団に対して適用する〈集団能率給〉とがある。日本の企業で工場全体の業績に応じて賃金を支払う〈生産奨励金〉は,集団能率給の一種である。また能率と賃金収入(労働者の手取り)との関係でみると,能率に単純に比例して賃金収入が増えていく単純出来高制と,そうではなく賃金収入が逓減していくさまざまな方式がある(〈賃金形態〉の項参照)。
能率給のもとでは,一般に労働者はみずからの労働給付量を増大させれば,賃金収入も増大させることができるから,その結果,経営者側の単価切下げを頻発させ,労働者の抵抗を生み出す。一方で能率給は,単価が変化しないかぎり生産単位当りの賃金コストは変動しないので,企業は労働給付量の増大によって設備の償却度を高め,生産コストを引き下げることができる。企業が能率給に期待するものは,賃金の支払を通じて,標準的なノルマ(労働能率)を実現してくれるという基本的機能であるといってよい。しかし能率給だけが能率を確保する手段ではない。時間給のもとでも,作業のスピードアップや,昇給・昇進・昇格管理,機械の受持台数の増大などは,十分に能率刺激的である。賃金支払形態の主役が時間賃金系統へと移っていくのもそのためである。
日本における能率給の実例としては,月給保障付単純出来高給が多く,タクシー労働者の〈歩合給〉(賃金総額の3~4割を占める)はその典型である。鉄鋼業にみられる団体業績給は所定内賃金の約1割を占めているが,それは基準年次の生産労働者数に対し,現在人員が何%削減されているかを調べ,削減された賃金の何割かを労働者に還元するという〈人減らし〉能率給である。基本給との関連で日本の能率給の性質を吟味してみると,業績手当,時間清算給,組別能率給はもとより,出来高給の場合ですら,その個人配分の基礎は〈基本給〉に求められている。しかもその場合,しばしば能率給総額(財源)は賃金ベースの一構成部分として,従業員1人当り平均額で示され,個別的には基本給にリンクされて配分されている。
→賃金
執筆者:高橋 洸
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
労働能率、作業成果に基づいて支払われる賃金形態。出来高給の一種。標準以上の能率をあげた労働者に対して割増し支給を行うことによって労働意欲を刺激し、全体の能率を向上させることを目的とする。この割増し分をボーナスという。能率給の代表的な形態として、単位出来高当りの賃率に出来高を乗じる「単純出来高制」、標準作業量を設定し、それを上回る出来高には高率の出来高賃金率を適用し、逆に、下回る場合には低率の出来高賃金率を適用する「差別出来高制」、最低額を定め、低能率者にもある程度の生活保障を行う「保障付き出来高制」などがある。また、適用対象者別にみた分類として、労働者1人を単位として適用される「個人能率給」と、班・組・工場などを単位として複数労働者に適用される「集団能率給」とがある。
能率給の採用は、労働能率の向上によって生産性を高めるとともに、産出高単位当りの労働コストを正確に見積もり、安定化させうるなど、資本家にはメリットが多い反面、労働者にとっては、賃金収入が不安定なうえに、能率向上に対応して賃率が逓減(ていげん)されたり、標準能率が引き上げられやすいために、賃金収入の増大にかならずしも結び付かない、競争によって団結が妨げられる、など問題点も少なくない。
[横山寿一]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…その一つは〈時間賃金〉と呼ばれるもので,時給,日給,週給,月給など,時間賃(金)率と労働時間数を支払基準とする賃金形態である。 もう一つは〈個数賃金〉と呼ばれるもので,出来高給,能率給,業績給など,個数賃率(単価)と出来高量を支払基準とする賃金形態である。この場合の時間賃率および個数賃率は(標準日賃率/標準労働日の時間数)または(標準日賃率/標準日出来高)によって算出され規定されるほかはない。…
※「能率給」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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