知恵蔵 「エチゼンクラゲ」の解説
エチゼンクラゲ
エチゼンクラゲの故郷は、中国本土と朝鮮半島に囲まれた渤海、黄海、北部東シナ海沿岸部。受精卵からかえった幼生が冬に岩場につき、2ミリほどのポリプになる。翌年初夏、水温上昇でポリプからクラゲが発生、対馬海流に乗って日本海に運ばれる。秋に一部のクラゲが津軽海峡を通過して太平洋側へ抜け、房総半島に達し、冬に日本近海で死滅する。
09年には、クラゲが紀伊半島まで南下して、魚網を破る、網の中の魚を傷つける、網にかかった重みで船が転覆するなど、20道府県に被害が拡大したため、全国漁業協同組合連合会は、水揚げ高減少への所得補償や駆除作業の費用負担の拡大などを国へ要望した。
駆除方法は2隻の漁船が網を海中に入れて引き回し、クラゲを切断するなど。他にも天敵のウマヅラハギを使った駆除実験が行われている。
エチゼンクラゲ増加の原因としては、地球温暖化の影響で海水温が上がり、クラゲが育ちやすくなったことや、中国沿岸部の工業化で、海水が富栄養化して餌の動物プランクトンが増えたこと、乱獲による小魚や大型魚の稚魚の減少で同じ餌を食べる競争相手が減ったことなどが推測されている。05年10月、神奈川県にある新江ノ島水族館が、世界初のエチゼンクラゲの水槽内での繁殖に成功。広島大学大学院生物圏科学研究科の上真一教授を中心に、クラゲの発生予測や制御の新技術開発も始まった。なお、干しクラゲやアイスクリームなどの食料、関節症の治療薬、砂漠緑化のための肥料など、エチゼンクラゲを「水産資源」として有効活用する試みも進んでいる。
(島村由花 コラムニスト / 2009年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報