エビネ

改訂新版 世界大百科事典 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ

ラン科エビネ属Calanthe多年草。多くは地生種。球茎をもち,花の美しい種が多い。アジア中南部,アフリカ南東部,オーストラリア北東部,オセアニアの島々,中米メキシコにかけて約100種が分布し,日本には19種が自生する。これらのうち,園芸上,価値のある種とそれらの雑種は,広義蝦根(えびね)(または海老根)と呼ばれて,広く観賞用に栽培される。また,熱帯産の種はカランセと呼ばれ,主に冬咲きの落葉種が温室栽培される。落葉種の基本となるカランセ・ベスティタC.vestita Lindl.の日本渡来は明治末年。

 エビネ類の葉は2~数枚,長楕円形で,先がとがり,基部は細まる。地下部に球茎をもち,数珠状に横に連なる。和名はこの地下茎の連なる形をエビの尾にみたてたもの。花茎は葉叢(ようそう)の中心または葉腋(ようえき)から抽出して,高さ15~80cm,花茎の上部に数輪~数十輪の花をつける。花は直径2~5cm,花被片は6枚,そのうち1枚は大きく,唇弁と呼ばれ,一般に3深裂する。中片はさらに2裂する場合が多い。花色は黄色,淡紅紫色,赤褐色白色など多様で,唇弁の色彩が他の花被片と異なる種もある。常緑種では一般に晩秋に,落葉種では開花後約3ヵ月で熟し,1果中に微細な種子(長さ0.9mm,幅0.075mm程度)を数万個含む。

 エビネ類の主要な種を以下に掲げる。

(1)春咲種群 (a)エビネC.discolor Lindl. 唇弁以外の花被片は,一般に赤褐色,唇弁は通常白色で,小輪。強健種。(b)キエビネC.sieboldii Decne. 花は唇弁ともに黄色で,大輪。強健種。(c)キリシマエビネC.aristulifera Reichb.f. 花は淡紫色または白色の小輪で可憐,半開咲き。(d)アマミエビネC.amamiana Fukuyama 花は淡紫紅色または白色で,花の形はエビネに似る。促成できる。(e)ニオイエビネC.izu-insularis Ohwiet Satomi 花は唇弁以外の花被片は紫色,唇弁は白色。多花性で強い芳香がある。照葉性。(f)サルメンエビネC.tricalinata Lindl. 花は黄緑色で,唇弁は赤褐色,中片は大きく,3条のよく発達したひだがある。

(2)夏咲種群 (a)ナツエビネC.reflexa Maxim. 花は淡紫色で花被片は反曲,唇弁は船底形。(b)ツルランC.furcata Batem. 花は白色,唇弁は大文字形,正開咲き,多花性,暖地産で耐寒性はない。(c)オキナワエビネC.okinawaensis Hayata 花は紅紫色,花型はツルランに似る。半開咲き,暖地種。(d)オナガエビネC.longicalcarata Hayata 花型,色彩ともにオキナワエビネに似るが,唇弁中片の裂片は広大で,色彩は明るく,距が太く長い。暖地種。

(3)冬咲種群 (a)カランセ・ベスティタC.vestita Lindl. 花は白色,唇弁基部に黄色,紅紫色を帯びるものがある。花被片は反曲し,肉質は薄い。大きい偽球茎をもつ。東南アジア原産。冬季,温室で栽培する。

 分布域と開花期が同じ種類では,自然界において交雑が起こりやすいため,形質の変異が大きい。また,花型や花色の優れた個体は栄養繁殖され,銘品とされる。日本原産のエビネ類の自然交雑種には,タカネ(エビネ×キエビネ),ヒゼン(エビネ×キリシマエビネ),ヒゴ(キエビネ×キリシマエビネ),サツマ(エビネ×キエビネ×キリシマエビネ),コウヅ(エビネ×ニオイエビネ),イシヅチ(エビネ×サルメンエビネ)などがある。開花期は春咲種では4月末を中心とし,夏咲種では7~9月である。

 栽培は露地植え,鉢栽培ともに日陰または半日陰が好ましく,鉢栽培ではとくに排水のよい培養土(桐生砂5,赤玉3,鹿沼土1~2程度の割合に,腐葉土またはピートなどを加えることがある)を用いる。植替えは5月上・中旬がよい。繁殖は主に株分けによる。種子繁殖は洋ランの無菌培養法に準じて行う。また,成株の株ぎわに播種(はしゆ)して,少量の実生が得られることがある。熱帯産の落葉種の栽培育種は1860年代にすでにイギリスで始まり,日本においても,1920年代に,新宿御苑で,赤花の銘品プリンス・フシミの変種ルビー・キングが作出されている。日本産のエビネ類については,70年代より栽培化,育種が進められている。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ
えびね / 海老根
蝦根
[学] Calanthe discolor Lindl.

ラン科(APG分類:ラン科)の常緑多年草。地下の偽球茎は太く連なる。名はその形をエビに見立てたものである。新茎の先に葉を2、3枚つける。5月に葉間から花茎を出し、多数の花をつける。花は平開し、茶褐色ないし淡緑色、径約2センチメートル、唇弁は白色で3裂し、中裂片はさらに2裂する。長さ5~10ミリメートルの距(きょ)がある。日本全土の低山の林下に生育し、朝鮮、中国に分布する。最近、観賞用に栽培されることが多くなった。また、漢方では解毒、扁桃(へんとう)炎などに偽球茎を煎じて服用する。

 この属は、約100種が熱帯から温帯に分布し、日本には15種が自生する。キエビネC. sieboldii Dcne.は花が黄色で大きい。唇弁の中裂片の先は通常とがる。和歌山県以西の西南日本および中国に分布する。キリシマエビネC. aristulifera Reichb.f.は、花が白から淡紅色であまり開かない。唇弁はやや前方で3裂し、中裂片の先端はとがる。距は細長く、15~18ミリメートル。おもに西南日本に分布する。ニオイエビネC. izu-insularis Ohwi et Satomiは、キリシマエビネに似るが、花が平開し、葉が厚く光沢がある。伊豆七島に生育する。上記の種間の自然交雑種がいくつか報告されている。タカネエビネはエビネとキエビネ、コウズエビネはエビネとニオイエビネの自然交雑種である。このほかに、サルメンエビネ、ナツエビネ、ツルランなどが自生する。

[井上 健 2019年5月21日]


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百科事典マイペディア 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ

ほぼ日本全土の山地の林中にはえるラン科の多年草。葉は越冬性で2〜3枚が数珠状に連なった偽球茎につき,長楕円形で長さ25cm内外。花は春,葉間から出た40cm内外の花茎の上部に十数個つき,緑を帯びた褐色であるが色の変化が多い。唇弁(しんべん)は白〜淡紅色で3裂。数珠の偽球茎をエビに見たててこの名が出た。近縁のキエビネは暖地産で,花は黄色で大型。サルメンエビネは唇弁の中片が大きく,内面にしわがある。エビネ属はアジア東南部を中心に約100が分布し,花が美しい種が多く,観賞用に栽培される。特に熱帯〜温帯産のものは属名そのままにカランテと呼ばれる。
→関連項目ラン(蘭)

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ(蝦根)
エビネ
Calanthe discolor; calanthe

ラン科の多年草で各地の山林中などにごく普通に生じる。地下に数珠を引伸ばしたような,節の多い地下茎があり,多数のひげ根がある。葉は粗大で,長さ 20~30cmで2~3枚が互いに抱合うような形で大きな株をつくる。花は春に株の中心から高さ 30cmほどの花序を出し,十数個の花を総状につける。6枚の内・外花被片はほぼ平開し,唇弁だけは3つに裂けたうえ,さらに裂片にくぼみが入るなど複雑な形をしている。花色は外花被片が紫褐色で内花被片は淡紅色,濃色の斑点をもつものもあり変異が多い。観賞用に栽培され,品種も多く知られている。

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