エビネ(読み)えびね

日本大百科全書(ニッポニカ) 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ
えびね / 海老根
蝦根
[学] Calanthe discolor Lindl.

ラン科(APG分類:ラン科)の常緑多年草地下の偽球茎は太く連なる。名はその形をエビに見立てたものである。新茎の先に葉を2、3枚つける。5月に葉間から花茎を出し、多数の花をつける。花は平開し、茶褐色ないし淡緑色、径約2センチメートル、唇弁白色で3裂し、中裂片はさらに2裂する。長さ5~10ミリメートルの距(きょ)がある。日本全土の低山の林下に生育し、朝鮮、中国に分布する。最近、観賞用に栽培されることが多くなった。また、漢方では解毒扁桃(へんとう)炎などに偽球茎を煎じて服用する。

 この属は、約100種が熱帯から温帯に分布し、日本には15種が自生する。キエビネC. sieboldii Dcne.は花が黄色で大きい。唇弁の中裂片の先は通常とがる。和歌山県以西の西南日本および中国に分布する。キリシマエビネC. aristulifera Reichb.f.は、花が白から淡紅色であまり開かない。唇弁はやや前方で3裂し、中裂片の先端はとがる。距は細長く、15~18ミリメートル。おもに西南日本に分布する。ニオイエビネC. izu-insularis Ohwi et Satomiは、キリシマエビネに似るが、花が平開し、葉が厚く光沢がある。伊豆七島に生育する。上記の種間の自然交雑種がいくつか報告されている。タカネエビネはエビネとキエビネ、コウズエビネはエビネとニオイエビネの自然交雑種である。このほかに、サルメンエビネナツエビネツルランなどが自生する。

井上 健 2019年5月21日]


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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「エビネ」の意味・わかりやすい解説

エビネ(蝦根)
エビネ
Calanthe discolor; calanthe

ラン科の多年草で各地の山林中などにごく普通に生じる。地下に数珠を引伸ばしたような,節の多い地下茎があり,多数のひげ根がある。葉は粗大で,長さ 20~30cmで2~3枚が互いに抱合うような形で大きな株をつくる。花は春に株の中心から高さ 30cmほどの花序を出し,十数個の花を総状につける。6枚の内・外花被片はほぼ平開し,唇弁だけは3つに裂けたうえ,さらに裂片にくぼみが入るなど複雑な形をしている。花色は外花被片が紫褐色で内花被片は淡紅色,濃色の斑点をもつものもあり変異が多い。観賞用に栽培され,品種も多く知られている。

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