日本大百科全書(ニッポニカ) 「エンジュ」の意味・わかりやすい解説
エンジュ
えんじゅ / 槐
[学] Styphonolobium japonicum (L.) Schott
Sophora japonica L.
マメ科(APG分類:マメ科)の落葉高木。高さ10~20メートルになり、樹皮は暗灰色で、小枝は緑色。葉は奇数羽状複葉で互生し、長さ15~25センチメートル、小葉は9~15枚あり、卵形ないし卵状長楕円(ちょうだえん)形で、裏面は緑白色で短毛がある。7~8月、淡黄白色、長さ1~1.5センチメートルの蝶形花(ちょうけいか)が大きな複総状花序に多数ついて開く。果実は数珠(じゅず)状にくびれ、長さ5~8センチメートルで垂れ下がり、肉の厚い莢(さや)で粘液があり、1~4個の種子がある。種名にjaponicum(日本)という意味の名がつけられているが、中国原産で古い時代に渡来した。エンジュは古名エニス(恵爾須)から変わったもので、いまのイヌエンジュのことである。北海道から九州まで街路樹や庭木として広く植栽され、適湿地を好み、繁殖は実生(みしょう)または根挿しによる。材は床柱や器具などに用いる。
[小林義雄 2019年10月18日]
薬用
漢方では、エンジュのつぼみを槐花(かいか)と称し、ルチンを多量に含有しているので、脆弱(ぜいじゃく)となった毛細血管を回復する効があり、動脈硬化症、高血圧症の治療に用いる。中国では、つぼみの大きさと形が米粒に似ているので槐米(かいべい)と称している。槐花とは、元来はつぼみでなく開いた花をさしたものである。このため花も、昔からあらゆる種類の出血、腫(は)れ物の治療に用いている。果実を槐実(かいじつ)、槐角(かいかく)と称し、痔(じ)をはじめ、他の諸出血の治療に用いる。枝や葉も薬用に供することがある。
[長沢元夫 2019年10月18日]
文化史
中国では紀元前2世紀の『爾雅(じが)』に槐(かい)の名があがる。小葉は夜閉じるので、木に塊があるとみられ、槐の名がついた。古代より莢(さや)(槐実)は漢方の薬にされ、『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(500ころ)には痔ややけどに効くとある。また若いつぼみを乾燥させた槐花は漢方の止血剤で、中国では紙や布を染める黄色染料としても使われた。樹皮や莢は栗色の染料になる。日本にはすでに上代に伝わり、『播磨国風土記(はりまのくにふどき)』(713ころ)に産物として名があがる。
[湯浅浩史 2019年10月18日]