日本大百科全書(ニッポニカ) 「オストロム」の意味・わかりやすい解説
オストロム
おすとろむ
Elinor Ostrom
(1933―2012)
アメリカの政治・経済学者。1933年、ロサンゼルス生まれ。1965年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で政治学博士号を取得し、インディアナ大学準教授を経て、教授。1996年から翌1997年にかけ、アメリカ政治学会の会長も務めた。市場原理や政府規制に頼らなくても、森や湖などの共有資源commonsを効率的に管理できる仕組みがあることを理論的に解明し、経済統治economic governance研究での功績で、2009年のノーベル経済学賞を受賞した。カリフォルニア大学バークリー校教授、オリバー・ウィリアムソンとの共同受賞。1969年のノーベル経済学賞創設以来、初の女性受賞者となった。
一般に、共有資源は市場原理に任せておくと乱開発や乱獲が進むため、政府などによる規制か、私企業による管理かのいずれかが適当とされてきた。しかしオストロムは多くの森林、湖沼、漁場、牧草地などにおける実証研究で、複数の利用者らが長い歴史のなかでより効率的な管理ルールや仕組みを編み出していることを発見。この自主統治self governanceが成功する条件を明らかにした。オストロムの研究は政府の規制以外にも「市場の失敗」を補完する非市場型メカニズムがあることを示しており、近年問題となっている天然・希少資源問題や環境問題の解決策を考えるうえで影響を与えている。
[矢野 武 2019年1月21日]